15分間の攻防

 これは無視してもいいんだと思う。
 駅前広場の時計を見上げた。心配顔のビショップに見送られ、滞在しているホテルの部屋を出てから15分。ひっきりなしに電話が掛かってくる。

 1回目はエレベーターから下りた時だった。明後日から建設が始まるパズルのことについてビショップから電話。
 2回目はホテルの自動ドアを通った後で、昨日渡した資料について確認の電話。これもビショップから。
 数メートル進んだ後で掛かってきた電話もまた仕事についての話で、もしかして僕は物凄く忙しい日に休みを取ってしまったんじゃないかと心配になった。
 カイトとの約束を断って戻ろうかと迷いながらも大通りを歩く。4回目の電話。

「ルーク様、その通りは引ったくりが多いそうです。お気を付けください」

 角を曲がる。5回目の電話。

「ルーク様、半年前にそこの角で自転車と歩行者の接触事故があったそうです。どうかお気を付けて……」

 駅が見えてくる。6回目。

「そこの段差に躓かないように……」

 最後まで聞かずに切った。
 そしてやっと駅前に着いたところで7回目の電話だ。駅まで徒歩5分と聞いていたのに、電話のせいで15分もかかった。何回掛けてくれば気が済むんだ。

「……もしもし」

 結局無視しきれず、電話に出た。どうせビショップは僕が出るまで掛け続けるんだと思う。諦めた。
 歩きながらだと危ないから、道の端に寄って立ち止まる。

「ルーク様」

 7回目のビショップはさっきまでと様子が違った。
 自分から電話を掛けてきたくせに、僕を呼んだきり黙っている。

「今度はなに?」

 仕方なく用件を聞いてみた。それでも言葉を探すように黙っている。

「……ええと、その……」

 切ってしまおうかと思ったところで、口ごもりながらビショップが言った。

「……声が、聞きたくて」

「切るよ」

 切った。

 15分前まで一緒にいたのに、どうしてそんなこと言うんだろう。
 呆れ返っているのに自然と笑ってしまう。

 僕は口元を緩ませたまま、きょろきょろと辺りを見回した。確かこの辺だったはず。

「あった!」

 一人で入るのは初めてだけど、たぶん何とかなるだろう。

「いらっしゃいませ!」

 カイトと入ったことのあるハンバーガーショップ。ドキドキしながら注文して、温かいココアを受け取って、狭くて急な階段を上る。窓際の席に落ち着いたところで、8回目の電話が掛かってきた。小さなテーブルを挟んで向かい側、席はひとつ空いている。

「ルーク様」

 今度は困惑したような声。

「どうしてそんな店に入ったのですか?何かトラブルでもありましたか?まっすぐルート学園へ向かわれるはずでは?」

 判りやすくオロオロしている。
 僕はまた少し笑ってしまって、仕方ないなぁ、という思いを込めて、電話の向こうの男を呼んだ。

「ビショップ、一緒に行こう。僕はここで待ってるから」

「ルーク様!!!」



 電話を切ってから1分とかからず、ビショップは向かいの席に現れた。ホテルから駅まで徒歩5分だとか、考えてみたのは一瞬で。
 早かったね、なんて言うまでもなく、早すぎる到着の理由はすぐに判った。過保護すぎるこの部下は、最初から僕のあとをついてきていたらしい。



2015.1.11




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