「嘘をつく覚悟、かぁ」
相談をしてもいいかと聞いた。
よっぽど切羽詰っているんだなと、宝石を投げてよこす怪盗は、僅かにポーカーフェイスを崩して言った。
「そりゃ、貫き通すしかないだろ」
一生、秘密を抱えていく。
キッドはそうするだろうと思っていた。その、巧みなポーカーフェイスで、何もかも抱えていくんだろうと。
「その分、これから幼馴染を大切にしてやればいいんじゃねぇの?」
好きな子なんだし、それくらいできるだろ?
そうだよな、と答える。そうするべきだし、そうしたかった。
純粋にでなくとも、後ろめたさや罪滅ぼしが混ざってしまっても、大切にできるのならそうしたかった。
けれど。
「それができなくなっちまったらどうすればいいと思う?」
「名探偵が弱気発言か?しっかりしろよ。らしくないだろ」
お前ならどんな犯罪集団相手にしたって、最後にはけろっとして帰ってくる。
「それは別に心配してない」
あと二日も経てば組織を潰すために居候先を出て行くが、無事に帰ってこれなかった時のことを心配している訳ではなかった。
十分に調べたし、FBIとの協力体制も抜群だ。死ぬなんてかけらも疑っていない。確実に組織を潰し、APTX4869を手に入れ、工藤新一に戻ってみせる。これは目標でなく決定事項だ。
「じゃあ何だよ」
話が読めないとキッドが返す。
端的に答える。
「……他に好きな奴ができた」
「それは…」
一息に告げると彼は言葉に詰まった。
さすがの怪盗もフォローの言葉が浮かばないらしい。
いっそ追い討ちをかけてやろうか。
半ばやけくそになって思う。
「最悪なことに、おまえなんだ」
彼はますます言葉を失った。
パトカーのサイレンが遠く聞こえる。
「……どうしよう」
しばらく沈黙が続いた後、本当に困惑しきった声が聞こえた。
「どうしよう。黙って見送るつもりだったのに」
泣き笑いによく似た表情で続ける。
「お前のこと行かせたくなくなっちゃったじゃん」
距離を詰めて伸びてくる両腕を嬉しいと思えない。この男を相談相手に選んだのは失敗だった。
望む温もりを手に入れたら、嘘つきの代償を払えない。
――人を、あの優しい幼なじみを傷つけるだけで終わることが痛くて傷ついた、なんて俺は最低だろ?
END
2011.7.12
title:MAryTale
[ back ]