「もしかして疲れてる?」
そう、問われたから逡巡しながらも頷いた。
歩き続けるより立ち尽くす方が疲れるとぼやいた。
そこは道端なのだからうずくまることもできない。そうしても構わないのだろうけれど俺にはできない。
どんな痛みに襲われても、足を前へ進めることが重要だ。進んでさえいれば何とかなるし、間違った方向でも気付かなければ、前進しているのだと信じ込むことができる。足を止めたまま見栄を張って平然と弱みなど見せずに、ただ突っ立っているのが自分だと、思い至れば酷く疲れた。
「俺は、お前が突っ立ってるだけだなんて思わないけどなぁ」
ちゃんと進んでいるよ、と言う。
「当然、最初は何も知らなかった訳だろ。それが、組織のメンバーのコードネームを知って、服装や体格を知って、哀ちゃんに会って、薬の名前を知って…ま、それ以上のことは俺は知らないけど」
そうだ。俺は快斗が知る以上の重要な情報を幾つか知っている。
しかしこうして身体が縮んでから過ごしてきた、これからも過ごしていく時間の9割は、全く変化のない平穏な小学生ライフで。
手懸かりなどいつでも掴みそこねる。
「何よりさ、コナンちゃんは俺に会ったんだし、俺はコナンちゃんに会えたんだよ」
「それ、重要か?」
「当たり前じゃん。とりあえず俺にとってはものすごく重要」
聞き返せば快斗が熱弁を奮う。
「…へぇ」
気のない声で相槌を打った。
「ホントだってば」
快斗がムキになって返す。
その後、小さく息をついた。
「で、例え話の続きだけど。
コナンちゃんが立ってるしかなかったのは、周りに何もなかったからでしょ?でも今は寄り掛かるものができたんだよ。ガードレールとか、フェンスとか、些細なものかもしれないけどさ」
「ガードレールはねぇだろ」
「そう?」
俺じゃ寄っ掛かれないかな?
快斗はそう言って情けなく眉を下げた。
そういう意味じゃないんだが。
例えば、うずくまることのできない道端に独りで立ち尽くしているのなら、俺にとって快斗はなんだ?
少し考えてから返してみる。
「…地面に、ベッドマットが落ちてるようなもんだな」
たぶん。
腹立たしいことに快斗は、含んだ意味を正確に読み取ってみせた。
「それホント?」
「“たぶん”って言っただろ」
抱き寄せられたから力を抜いた。全てを預けられる腕の中で。
END
ようするに、ただ立ってるのは疲れるっていう話。
2011.7.17
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