そんな日常。

「今日の夕飯どうしよっか?」

コーヒーを入れるついでに冷蔵庫を覗いた快斗が、こちらへ向き直って聞いてくる。
そういえばもう夕方か。
見上げた空は既にうっすらと赤かった。

「何作ってほしい?」

その問い掛けには答えずに、読んでいた本を伏せて立ち上がった。

「今日は俺がやるよ」

快斗の隣に並んで言う。

「利き腕怪我してる奴に料理なんか任せられっか」
「あれ?気付いてたの?」

快斗が少しだけ気まずそうな顔になった。悪戯がばれた子供のような。

「俺は探偵だからな。どうせ昨日の仕事でヘマやったんだろ」
「当たり。名探偵の代わりに余計なお客さんがいたんだよねー」

快斗はそれ以上何も説明しない。俺も、聞かない。
裏稼業には口出ししないこと。それが、怪盗と探偵が同居する上で決めたルールだから。

「で、作ってくれんだ?リクエストは可?」

快斗は、楽しげな表情で話を逸らした。

「…できる限りなら聞いてやる」

正直なところ、レパートリーはかなり少ないが。

「じゃあ玉ねぎ使って何か作ってよ」
冷蔵庫の野菜室に入ってるから。

「おまえ玉ねぎが好きだったのか?」

微妙な好みだなと思う。

「そうじゃなくて、新一の泣き顔が見たいなぁと…」
「馬鹿かおまえは」
「いってぇ!」

足を怪我していないのは確認済みだから、容赦なく蹴りを入れてやった。

「そんなに食いたいなら皮だけ剥いて丸焼きにしてやるよ」
「ウソウソ!軽い冗談だって!」

痛みに引き攣った顔で、快斗が笑う。

「というか…」

そしてその後、小さく唸って眉を下げた。

「新一の気持ちは嬉しいけど、やっぱ作ってもらうのはなぁ」
「毒入れたりなんかしないぞ?」
「そんな心配してないって。ただ…」
「何だよ?」
「新一の包丁使い、危なっかしいんだもん。落ち着いて見てられないよ」
絶対に怪我しない自信があるならお願いするけど。

そこまで不器用じゃないと反論したくなったが、包丁の腕に自信満々という訳でもない。
そもそも、ハラハラ顔の快斗を横目に料理するのはちょっと勘弁だ。
結局結論は。

「…たまには外に食べに行くか」
「賛成!じゃー俺、フルコース希望な!」
「…そこまで腹減ってねーんだけど」

今日は昼食も遅かったし、ひたすら本を読んでいただけで運動もしていない。

「俺は空いてんの!」

相変わらず楽しげに言い張る快斗に呆れながら、内心首を傾げていた。
さっきからずっと夕飯の話をしているはずなのに。妙に視線が絡み付くのは何故だろう。
だったらさっさと出掛けようぜ。
そう言って促すよりも快斗の行動の方が早かった。

「まずは前菜からいただきます!」

避ける間もなく唇を奪われて思いっ切り飛び退く。

「おいっ、出掛けるんじゃなかったのかよ?!」
「まだ夕飯には早いじゃん。軽く運動してからでもいいでしょ?」
玉ねぎよりもっと手っ取り早い泣かせ方、思い出しちゃったから。

じりじりと近付きながら快斗が言う。

「ちょっと待て、おまえ怪我してるんだろ!」
「片腕でも支障ないし、そんなに痛くないし」
「ぅわっ」

その言葉を証明するかのように、ソファーの上へ押し倒した両腕の強さは、いつもと全く変わらなかった。
そのままさっきよりも長い口づけ。

冗談じゃない、だとか、こんなところで、だとか。
ぐるぐると渦巻く反論はそれだけであっさりと消え去ってしまう。
更に、口づけを解いた熱っぽい目の快斗に名前を呼ばれて。

「新一」

一気に体温が上がってとどめの一言。

「愛してる」
「…知ってるよ」

だからいつだっておまえには勝てない。



END

自分で書いてて恥ずかしくなった…

リクエスト内容が「快新の甘っ々」とのことでしたので。できる限り甘さを詰め込んでみました。二人が同居(同棲)している設定で書いております。たぶん当サイトで一番糖度が高いはずです。だいぶ勢いで書きました。すみません!!
返品・書き直しなど受け付けますので、遠慮なく言ってくださいませ。
リクエストありがとうございました!
2010.5.12


 
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