無防備にも程があるんだよ!!

「考えてみれば、名探偵がここへ来るのは危ないですよね。保護者が一緒ならともかく」

名探偵との逢瀬は、相も変わらず高層ビルの屋上で。満月が光る、真夜中のこと。
当たり前のような顔をして夜に溶け込んでいるから、小学生が深夜一人で出歩いているという事実を奇異に感じたことなんて、今までなかった。

「今更気付いたのかよ?だったら最初から呼び出したりするな」
「名探偵がいない現場はつまらないもので」
「つまらないって…俺だっておっちゃんがいない限りたいした妨害はできねーぞ」
「来てくれるだけで十分ですよ?」
確かに名探偵と繰り広げる攻防戦は楽しいけれど、それだけじゃない。コナンの顔を見ると、獲物を月へ翳した後の落胆が、一気に軽くなるような気がするから。いつまで続くのか分からないこんな日々も、そう悪くはないって思えるから。
「本当に、ここに来る途中で誘拐されそうになったり、質の悪い酔っ払いに絡まれたりしたこと、ないんですか?」
「そんな奴がいたら、これでぶっ飛ばすけど?」
「あぁぁ。それはそうなんですが」
これ、と指したのはキック力増強シューズだ。それはもう、比喩でなく遥か遠くまで飛んでいくことだろう。
「というか、俺にとって一番の危険人物はおまえだ。ことあるごとにセクハラしやがって」
そんな受け止め方をされてたなんて思わなかった。
「愛情表現じゃんかぁ」
衝撃を受けて思わず口調が素に戻る。
「相手の同意がなきゃただの嫌がらせだぞ」
「えぇー、とっくに両想いだと思ってたのに!」
「勝手に決めつけるな!!」
肩を怒らせて怒鳴られても、あんまり迫力がなくて笑ってしまう。
嫌がられてないのは顔見りゃ分かるし?
そして、この後また一人で夜の中を帰るコナンを思って、やっぱり心配だと呟いた。
「どんな危ないメカ身につけてたって、傍目にはものすっごく無防備に見えるからなぁ」
そのぎょっとするようなギャップも、俺はけっこう気に入ってるけど。
「余計なお世話だ」
その時、ある意味穏やかな空気を引き裂くように、パトカーのサイレンが近付いてきた。
「ようやくダミーに気付いたようだな」
騒々しく光る赤を見下ろして、呆れたようにコナンが言う。
「じゃ、俺は帰る」
「お送りしましょうか?」
「いらねーよ。ガキじゃあるまいし」
確かに名探偵が子供でないことはよく分かっているけれど、ここで問題にされるのは中身よりも見た目だと思うのだ。でも、指摘したら気を悪くしそうだから言わない。
「お気をつけて。警察の方に保護されないでくださいね」
別れの言葉を告げ、屈んで額に口づける。
「なっ?!」
文句を言われる前にと、翼を広げた。
追いかけてくるのは罵声だと思っていたのに。
「おまえも俺以外には捕まるなよっ」
意外すぎる台詞に、頬が緩むのを止められない。
如何なる時でもポーカーフェイス。教えを忘れた訳ではないけれど、真夜中に空を飛んでいる輩なんて俺以外には存在しないだろう。
「変態野郎!とか、言わないんだ」
取り繕いもせずに、にやにやと笑った。今、誰かに見つかったら、絶対に不審人物扱いされるんだろうなと考えながら。



2010.3.22
またお題とずれた。


 
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