あっけらかんと言ってくれる。いつだって。
解り易いのに解らない。
可愛い。大好き。付き合って。
冗談にしか聞こえない口調なのだ。表情だってそうだ。
いつもはポーカーフェイスを貫いている癖して、そんな言葉を吐く時だけ、へらへらと笑って俺を見ている。
愛してるよと言った後、適当な口実を見つけて飛び去るのだ。
からかわれているだけのような気がする。もしくは遊ばれているのか。
探偵を翻弄してその隙に逃げる。何なんだよと一人頭を抱えながら、悶々とする夜を繰り返すのはもううんざりだった。
聞き飽きた薄っぺらい告白を、今夜も彼は口にした。
「次の予告日も来てくれますね?愛しいお方」
跪いて手の甲に口づける。何というか、気障すぎて悪寒が走りそうだ。むかつく。
「それでは」
にこりと笑って背中を向けた怪盗の白いマントを、全体重をかけて踏みつけてやった。
「ぉ、わ!?」
怪盗が見事に尻餅をついた。
「待てよ」
憮然と言い放つ。
「め、名探偵…?」
瞬時に状況を理解したのか、そろりと彼が振り返る。
「いったい何の真似…」
真っ白い布にはそれはもう見事な、靴跡がついているんだろうなと思う。ついさっきまで雨が降っていた。濡れた砂利の上を歩いた記憶もある。捉えどころのない彼にどれくらいの跡を残せたのか、ということは少し気になったが、まだ足をどける気にはなれなかった。
「人をおちょくるのもいい加減にしやがれ、このコソ泥」
困惑顔の怪盗を睥睨する。
「ちょ、ちょっと待てよ。俺がいつお前にそんなことしたよ?」
「会う度にしてんだろーが。好きだとか何だとか言って散々からかいやがって!」
「からかってねぇよ!」
「じゃあ何なんだ」
「何って…」
先ほどまで仰々しく敬語を使っていたことも忘れ、すっかり素に戻った怪盗がややあって言う。
「…真面目に告白してたんだけど」
とても真に受けることのできない答えだった。
「あれのどこが真面目なんだよ?」
「…あー、えぇっと…」
言いよどんだ怪盗は、とりあえず足どけてくれない?と言った。
「逃げないか?」
「逃げません」
仕方なくマントを解放する。夜風に舞った白い布に、小さな黒い靴跡がふたつ。
向かい合った怪盗は、覚悟を決めたように口を開いた。
「名探偵のこと好きなのは本当だよ。会う度に告白しないと気が済まないくらい大好きだし」
けど、と言って溜め息を落とす。
「あんまり真剣に告白して、真面目に受け止められて…真剣に断られたら俺、立ち直れない」
「…オメー、意外と意気地なしなんだな」
呆れた振りで言った俺の前で、怪盗は情けなくしょぼくれている。
解らないのだろうか。今までのあれこれが真剣な告白だとしたら俺の答えなんて、こんなに解り易いのに。
苛立って引き留めてしまったことだとか、マントにつけた靴跡だとか。
はためくマントを見る度に、居た堪れなくて顔が火照る。
想いが通じ合った後でこの時の話を持ち出すと必ず、快斗はムキになって主張する。
「お前の方が絶対解り辛い!」
END
お題「複雑なむきだし」
即興小説トレーニングとやらに挑戦しました。低クオリティーで申し訳ありませんでした…
2013.1.10
[ back ]