舌先の糖度

「Trick or treat?」

流暢な英語に振り返ると、背後に立っているのは予想通りの待ち人だった。
元々気配には気付いていたのだ。

「貴方でもそんな子供っぽいこと、するんですね」

驚くこともなく、クスリと笑いながら言う。

「お菓子が欲しい訳でもないんでしょう?」
「…たまには行事に便乗してもいーだろ」

ふて腐れたようにコナンが答える。その様子を見るに、今日の行動はおそらく少年探偵団の影響だろう。いつものメンバーでお菓子を集めて歩いたのかもしれない。想像すると微笑ましく思えた。

「おい、trickかtreatか早く決めろよ」
「そうですね…」

お菓子ならそれこそ今日のショーで観客たちと、ついでに警備の方々にまで配った飴玉がポケットに入っていたが。
名探偵のする“いたずら”に少し興味がわいた。

「いたずら、していいですよ。お好きにどうぞ」

そう告げるとコナンは不敵な笑みを浮かべる。

「…ここに、今頃必死でダミー追っかけてる中森警部を呼び出すってのはどうだ?」
「…それ、いたずらどころじゃ済まされないでしょう…」

可愛らしい、もしくは色っぽい想像をしていた俺が馬鹿だった。

「…仕方ないですね。お菓子、ちゃんと出しますから目を閉じてください」
「閉じたら出すとこ、見えないじゃねぇか」
「まぁいいからいいから」

なかなか閉じようとしないコナンに焦れて、手の平で両目を覆ってしまう。

「さてと、」

白い手袋ごし、微かに感じる瞼の感触。
ポケットの中をガサゴソあさりながら屈み込む。
不穏な気配を感じたのか、始まった抵抗は片手で押さえて。
いつも少しだけ甘い気がする唇へ口づけた。

「…っ!?」

手袋の下でコナンは、驚いたように目を見開いたけれど気にしない。

「…口、開けてよ。いつもみたいに」

囁いて唇の合わせを舌先でなぞれば、おずおずと隙間が空いていく。
チャンスを逃さずに舌を潜り込ませて、深い口づけを交わした後。
少し小さくなってしまった飴玉を、コロンと小さな口の中へ放り込んだ。

「お味はいかが?」

唇を離して問い掛ける。

「…まぁまぁ」

赤く色づいた右頬が、飴玉の形に膨らんだ。



2010.10.31


 
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