「トリック、オアトリートっ!」
「いや今二月だろ」
チャイムに扉を開けた途端、季節外れの台詞が降ってきて思わず突っ込んだ。
あんまり自信満々に告げられるとうっかり惑わされそうになるが、少なくとも十月ではないはずだった。いくら事件にかまけてぼけていようと、気付かないうちに冬も春も夏も終わっていた、なんてことはありえない。
「細かいことはいいんだよ」
「………」
全くもって細かくないと、思うが。
家に訪ねてきていきなりその台詞。まるっきりハロウィーンじゃねぇか。
と、そこまで考えて快斗の目論みに気付く。
二月で、お菓子絡みの行事と言えばアレしかない。
恋する者もしない者もチョコレートに殺到する、お菓子会社の策略、その名もバレンタインデー。
――そうか、二月十四日は今日だった。
「お菓子くれなきゃイタズラするよ?」
どうせならネタを貫いて真っ白い仮装でもしてくればいいのにと思いつつ。
「ちょっと待ってろ」
両手を怪しくわきわきさせる快斗に一旦背中を向ける。
「…おいバカイト」
そして、ガサゴソと引き出しを漁ること三分後。
「貰い物の煎餅でいいか?」
こないだおっちゃんが依頼人からもらってな、けっこう美味いらしいぞ。
「……チョコしか受け付けません…」
二月に似合いの寒々しいオーラを撒き散らして、快斗がガックリ肩を落とした。
それでも紙袋を受け取るあたり、コイツもちゃっかりしているが。
こんな回りくどい真似をしてまで手に入れたいものなんだろうか、バレンタインのチョコとやらは。
呆れとも感心ともつかぬ心持ちだった。
「それやったからいいだろ。もう帰れよ」
「……なんでそんなに冷たいの…?」
拗ねた声で恨み言を零しながら、粘っても無駄だと悟ったのか、快斗が渋々帰っていく。
靴を引っ掛け外に出て、閉じたドアへと寄り掛かった。
温かい室内へ戻らず、わざわざ寒風吹きすさぶ中に立っている理由は、至極簡単で単純だ。
“貰い物の煎餅が入っていた紙袋”の中味に気付いた快斗が駆け戻ってくるのは、さて、何分後になるだろうか。
なかなか難しい推理だと生真面目な表情で考え込むフリをしたが、そんなものはあっという間に崩れ去ってしまった。
「…っコナンちゃん!!」
さっそく引き返してきた快斗の、弾んだ声が聞こえて笑う。
わざと移しかえた袋の中で軽い音をたてるのは、カラフルな包装の小さなチョコレート。
「おまえ、さっき冷たいって言ったの撤回しろよ」
――予め用意していることなんて端から期待していないような態度を取られたら、イタズラしたくなるのも当然だろ?
END
口実はなんでもいいからとにかくチョコが欲しかった快斗と、なにげに用意してたコナンさん。
2011.2.14
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