赤に溺れる

「血の匂いがする」

顔を合わせて、いきなり言われた言葉がそれだった。
事件に遭遇したせいで、約束の時間に大幅に遅れた。それを謝る隙もなかった。

「ケガとかしてるんじゃないよな?」

心配そうに詰め寄る快斗に、俺の血じゃねーよ、と否定する。一応あの後ちゃんと手を洗ったから、見た目は赤くないはずなのだが。

「被害者の血がついたんだ。止血、した時に」

結局、出血が多すぎてダメだったけれど。

言葉に出さなかった結論を、快斗は表情で察したらしい。そっか、と言ったきり黙っている。

通り魔殺人だった。見つけた時にはまだ息があって。
助けられると、思ったのに。
どうしようもなく心が堕ちていく。

こんな命、一体何の為にあるっていうんだ。誰も救うことなんてできないくせに。
いくら傷口を押さえても掌が赤く染まっていくばかりで。どんどん冷たくなっていく体温を感じれば感じる程、自分の無力さを思い知るのだ。
いつまでも血の匂いがこびりついて消えない。責めるように匂い立つ。
いつか、その中で深く溺れてしまうから。



「…快斗」

服の袖を掴んで、引き寄せた身体に触れる。弱気な顔など見せるのは嫌で、隠すように胸元へ顔を埋めた。

「泣いても、いいんだよ?」

優しい声に包まれて、少しだけ許されたような錯覚に陥る。

「…誰が泣くかよ」

突き放す言葉を吐きながら、指先が必死に縋り付く。
回された腕に、ぎゅっと強く力が篭った。


何も聞かずにただ抱きしめてくれないか。
その温かい体温で、消えない赤を全て溶かして。



END

異様に暗いものを書いてしまった…いや、暗過ぎるのは私の今の気分のせいか。
病みコナンですみません…
2010.2.27


 
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