壊れたカケラ

「コナンちゃん、昨日も事件解決してたね」

 新聞に載ってたよと快斗が言う。

「俺じゃねーよ。解決したのは眠りの小五郎だ」
「どっちも同じじゃんか」
「ま、疲れるのは同じだな」

 疲れるとここへ来たくなる。すっかり通い慣れてしまった快斗の家に。
 微かに右へ寄り掛かると、温かい体温に触れてホッとした。
 何回触れてもきっと慣れない。慣れてしまったら終わりだと思う。もう二度と温まることのない身体にも、凍えるほどの悪意にも。

「詳しいことは書いてなかったけど…夫が妻を殺したんだろ。何か複雑なトリック使って」
「あぁ」

 その労力を、もっと別のことに使えばいいのにと虚しさを覚える。



「壊れたモノって、痛いよね」

 ぼんやりとした声が落とされて、右斜め上にある快斗の顔を見上げた。

「完全に壊れて、何にもなくなったら、そうしたら痛くないんだけど。
尖ったり粉々だったりするカケラとかさ、崩れてしまった形とかさ。それが何か…痛い」

 何となく分かると頷いた。

 壊れたモノばかり、追い掛けているような気さえする。壊れた人の、闇をひたすら。

「壊したのに気付いてもらえない、っていう場合もあるぜ」

 とっくに壊れているんだと、告げることもできずに。

「いつまでもあいつを待たせ続けてる俺は、狡いよな」

 独り言のように自嘲する。
 快斗のことが好きなのに、蘭が待っているから恋人にはなれない。

「狡い、とかじゃないと思う。どうしようもないよ。バラバラになってるモノを無理矢理くっつけたって、元通りにはならないんだからさ。どんなに痛くても、完全に壊れるまで待ってるしかない。
 何時だか分からないその時まで、コナンちゃんは独りで待ち続けるの?」
「待たせて、るんだからお互い様だろ」

 暗に自分の手を取れと、促されているのは分かっても、目を合わせないまま拒絶した。

「幸せになんか、なれないのに?」
「そんなの望む資格俺にはねぇよ」

 幸せから頑なに顔を背けて、それでもおまえの隣にいる。やっぱり俺が、一番狡い。



 ことりと。傾いたこめかみは虚しく冷える。

「快斗…?」

 疲れていたせいか、少し眠ってしまったらしい。体力のなさに酷くうんざりした。
 手を伸ばして触れた床はまだ温かい。快斗は、つい先程までは隣にいたはずだ。
 飲み物でも、取りに行ったのだろうか。

「早く戻ってこいよ、バカイト」

 友達以上、恋人未満。
 そんな不確かな快斗との関係を言葉にするなら。
 とりあえずはクッションと抱き枕の代わり。



END

壊れた人間関係は痛いなぁって話。
2010.3.19


 
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