今日もまた、今にも倒れそうな青白い顔をした小学生が、校門の前に立っている。



かなしいウソ




「どうしたの、コナン君」

青子が極力いつも通りの声で話しかけると、コナンは「青子姉ちゃん」と顔を上げてにっこり笑った。
とても整った顔をした子供の浮かべる満面の笑みは、思わず抱きしめたくなるくらい愛らしいはずなのに、顔色が悪すぎて痛々しくしか映らない。

「快斗兄ちゃんに会いに来たんだけど、まだ教室?」

隣の友人が息を呑む。青子は、何も言わないでと目で訴えた。
そして、コナンと目線を合わせて笑い返す。
たぶん、この子ほど上手く笑えてはいないと思うけれど。

「快斗の奴、今日も学校に来てないんだ。またサボりかも」
「そっかぁ」

今度はがっかりしたようなホッとしたような複雑な顔。
コナンは決して、じゃあ家に行ってみる、とは言わない。

「明日また来るね。バイバイ青子姉ちゃん」
「気をつけて帰ってね!」

同じようなやり取りを、あの日からもう何回繰り返しただろう。
指折り数えようとして虚しくなる。
今日で、7回目。数えなくてもよく分かってる。

「ちょっと、青子」

コナンの背中が曲がり角の向こうへ消えた後、戸惑った声に問いかけられた。

「…あの子に本当のこと言わなくてよかったの?」
「全部、知ってるよ」

悲しくなるくらい何もかも。

「だって、快斗のために警察と救急車呼んだの、コナン君だもん」
「そんな…」

絶句した恵子に向かって、独り言のように言う。

「コナン君はね、ああ言ってあげないと帰らないんだよ。いつまでも快斗を待ってるの」

最初は青子も、どうしていいか分からなかったのだ。

『快斗兄ちゃんは?』

無邪気な笑顔で尋ねられて途方に暮れた。
子供だから、何が起こったのかよく分かっていないのだろうと。

「…快斗は、もういないんだよ」
何処を捜しても、いつまで待っても。

言い聞かせるように言った。
コナンは…何を言われたのか分からないと瞬いていた。
毛利探偵の所の居候で、殺人事件に遭遇することなんて珍しくなくて。分かっていないはずなんてなかったのに。
家へ帰って、夕飯に少しだけ箸をつけて。
どうしても、一心に快斗を待っていたコナンのことが頭から離れなかったから、まさかと思いながら20時過ぎに高校の前へ戻ってきてしまった。

「コナン君…」

彼はまだそこに立っていた。夕方と全く同じ格好で、人形になったみたいに。

「快斗兄ちゃんは?」

ゆっくりと青子を見上げて笑う、その顔が霞んで見えなくなった。

「快斗、は…」

たぶんコナンは、まだ頑なに笑っている。

「今日は、来なかった、けど…明日はきっと、来るよ」

泣きながら優しい嘘をついた。

「じゃあ、明日にする。青子姉ちゃん、またね」
「送って、いこうか?」
「大丈夫!」

本当に大丈夫そうに見えた。寧ろ今傍目から見て大丈夫じゃないのは自分の方だと思った。
そうしてコナンは毎日のように、嘘を聞くためにやって来る。
実は恋敵だったけど、今は同じ悲しみを抱えた仲間だから。2人で思いっ切り、声を上げて枯れるほど泣ければよかった。でも、あの子は泣けないから。
代わりに嘘を、吐き続ける。

「本当のことなんて、言ったらきっと駄目になっちゃうよ」

崩れるくらい嘘を積み重ねて、崩れたって何事もなかったみたいにまた始めからやり直し。
私だって認めたくないから付き合うよ。
こんなに脆い嘘は、いつか壊れるかもしれない。
とっくに壊れて、いるのかもしれない。
たぶんそんなことは今更どうでもいい。
どっちにしろ2人とも壊れてるから。



END

残された人の方が辛いと思う。死者が生前の記憶を持ってるなら別だけど。
2010.4.1


 
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