寂しいなんて

「おかえり新一!」

 家へ帰ってきたら玄関に快斗がいた。

「……」

 思わず踵を返してたった今開けたばかりのドアノブを掴む。

「どしたの?何か忘れ物?」
「いや、家を間違えたみたいだ」

 最近事件ばっかで疲れてるせいかもな。

 わざとらしく溜め息をついて外へ出ようとすれば。

「何言ってんの?ここは間違いなく新一の家だよ?」

 快斗に思い切り腕を引っ張られてつんのめりそうになった。

「だったら何でオメーがいるんだ」

 どうやって入ったのかなんて聞くだけ無駄だが。
 あたかもこの家の主かのように堂々と出迎えた上、何処から引っ張り出したんだかエプロンまでつけている。

「事件ばっかで疲れてる新一を労ろうと思って」
 夜ご飯作って待ってたんだよ。

 言われて初めて、食欲を誘うような匂いに気付いた。

「だからって予告なしに来たりすんな」
「どーして?」
「どうしてって…」
「新一は俺が来るの嫌なの?俺のこともう嫌いになった?」
「んなこと言ってねぇよ」

 今日はたまたま早く帰ってこれたけれど、もっと遅くなることだってあるし、帰れなかったりしたら待ち損だろ。

 悲愴な顔になった快斗を、そう言って何とか宥める。
 こいつがいじけ出すと色々面倒くさいのは、うんざりするほどよく分かっているから。




「じゃー支度するね!ちょっと待ってて!」

 いつもの笑顔に戻った快斗を見送って、だから嫌なんだ、と思った。
 快斗がいると、不思議なくらい家の中が温かくて、明るくなる。
 快斗の「おかえり」を聞けない家のドアを開けるのが嫌だから。そんな温かさに慣れたくないから。
 気まぐれに現れるくらいなら来るなと思う。こんな心の内なんて、プライドが邪魔して言えやしないけれど。
 とりあえず、俺に“独り”の寂しさを思い出させた、その責任はしっかり取ってもらわないとな。



END


 
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