束縛体質

目を開けた先にあったのは自室の天井。背中に伝わる感触からして此処はベッドの上だろう。
それからついでに。
呆れが半分を占めている、それでも一応は心配そうな快斗の顔。
たぶん目の前にあるのは見慣れた風景だった。むしろ問題は、この状況に到った経緯が全く記憶にないことだろう。

「快斗?どうして…」
「何も覚えてない?新一がぶっ倒れたっていうから、事件現場まで引き取りに行ったんだよ」

事件と聞いて、正午頃起こった殺人事件の概要が、鮮明に頭の中へ蘇った。
タクシーで連れて帰ってきたんだとか、熱が38度あるのだとか、その後付け足された説明は全て右から左へ抜けていく。

犯行があったと思われる時間にアリバイのなかった人物の顔が次々と浮かんだが、“犯人”に限定して考えようとすると全くの空白だった。

「それで、事件はどうなったんだ?」

勢い込んで尋ねると、快斗が呆れ顔でため息をついた。

「まだ未解決」

返ってきたのは予想通りの返答で。

「だったら寝てる場合じゃないだろ!今すぐ現場に戻って…」
「ストッープ!事件は後で!とりあえず今は寝てないと駄目!」

快斗の制止なんか聞こえない振りをして、俺は素早く起き上がった…いや、実際のところ、起き上がろうとして、果たせなかった。


「…これ、なんだ?」
「んー?」

半ば呆然とした問い掛けに、返ってきたのは生返事。

そして、俺の動きを阻んでいる代物を見て、ニヤリと笑う。

「おとなしく寝てろっていう俺からの命令」

うねうねとベッドに張り巡らされているのは、肌触りのよさそうな純白のリボンだった。

「…おまえなぁ…」

寝返りくらいは打てるけれど、とても起き上がれそうにない。ついでに自力でほどくのも無理そうだ。
少し体を起こしただけでも頭がくらりとする、こんな状態では。


「今すぐほどけっ!」

病人に何しやがる、と喚けば、病人の自覚あったんだ、と快斗が感心したような声を出した。

「ほどいてあげてもいいよ?おとなしく寝てるならね」
「分かったからさっさとほどきやがれ」

ここまで実力行使されてしまっては、言いなりになる他、道がない。

「仕方ないなぁ」

シュルシュルシュルシュル…

どういう仕組みになっているんだか、快斗がリボンの端を引っ張るだけであっという間に解けていく。
数秒足らずで解放されたのはよかったのだが。

左手首へやけにしっかりとリボンが結びつけられているのは、高熱が見せた幻ではないはずだと、思う。

「で、なんで今度はおまえと繋がってんだよ?」
「俺、束縛体質なんだ」

爽やかな笑顔で快斗が言った。

そんなこと、今更宣言されなくても十分知ってる。


更に熱が上がった気がして、ぐったりとベッドへ沈み込んだ。



END


 
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