怪盗キッドが俺の要望通りクールビズを実践したと言うので、久しぶりに犯行予告現場へと足を運んでみた。
クールビズというからには、いつも以上に奇抜な格好をしているのだろうと、密かに期待していたのだが。
「いったいどこらへんが涼しげなんだよ」
いつもと全く同じじゃねぇか。
思わず零した抗議を聞いて、キッドが得意げにフフンと笑う。
「ここだよ、ここ!」
キッドはスポッとシルクハットをとってみせた。
「おでこに冷えピタ貼ってみた」
言いながら嬉々として前髪を掻き分ける。
「どう?」
「……」
とりあえず、言葉にならないほど間抜けだった。
と、いうか。
クールビズじゃねぇだろ、それ。
「名探偵にも分けてあげよっか?」
冷えピタの束を取り出し、呑気に笑っているキッドを見て。宝石を返せと言う気も失せるほど脱力する。
「…いらねぇよ」
「そう言わずに。これ、けっこう気持ちいいんだよ。」
尚も勧めてくるキッドから後退って離れ、
「…あれ?名探偵、どーしたの?」
追い掛けてくる声は聞こえないことにして、俺は一刻も早く帰宅するべく踵を返した。
終。
努力は認めるけど方向性が間違ってんだよ。
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