「暑い…」
「うん、暑いねぇ」
扇風機の真ん前を完全に陣取って、それでも怠そうに座り込んでいるコナンの呟きに相槌を打ったら。
「って、何で蹴るの?!」
相変わらず怠そうに立ち上がったコナンから、いきなり蹴りが飛んできた。
「涼しげな顔で言われるとムカつく」
そう言ってまたぐったりと腰を下ろす。
「…この顔、地なんですが」
俺だって十分暑いんだよ?
まぁ、コナンが横暴なのはいつものことだし、こんなぐったりしている相手には腹も立たないけれと。
何日も猛暑日が続いているためか、今日のコナンはいつにも増して元気がない。
何とかいつもの彼に戻って欲しいと思考を巡らせてみる。
あ、そういえば…
「なー、めーたんてー」
ポケットの中に突っ込んでいたカードの存在を思い出して、ニンマリと笑った。
「来週出す予告状が出来たんだけど、一足早くコナンちゃんにあげるよ」
ちゃんと凝った暗号考えたんだよ、と言いながら、途端に瞳を輝かせたコナンへ手渡す。
やっぱりコナンに一番効き目があるのは暗号だよな。
代わりに俺の存在は忘れ去られるけど。
一応キッドのことを考えているんだし、いいかと自分を納得させる。
「あ、でも俺は行かねーからな」
そんな俺の努力が、コナンの一言で呆気なく霧散した。
「なんで?!」
「夏の間は、あんな暑苦しい格好した奴見たくない」
ショックを受けつつ理由を問うた俺に、返ってきたのは淡々とした答えで。
「そんな理由?!世のお父さんたちだって夏でもスーツ着てるじゃん!」
何で俺だけダメなんだよ?!
「…クールビズしてないから嫌だ」
「と、言われても…」
「ま、夏中捕まらないように頑張るんだな」
困りきった俺など気にせず、完全に人ごとのような顔でそう告げる。
「涼しくなったら顔出してやる」
でも予告状の暗号だけは毎回見せろよと、どこまでも勝手な探偵くんを目の前にして。
俺は真剣に、クールビズの導入をするべきか考え始めた。
終。
だって、名探偵が来ないとつまらないんだ。
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