いつだって勝てない

夏休みに入ってから新一は、要請を受けて事件現場に出向くか、引きこもって本を読んでるか。
その2パターン以外の行動を目にした試しがない。
青春真っ只中のはずの、高校生の夏休みの過ごし方としてちょっとそれはどうなんだ、と思う。

「せっかく夏休みなんだからさぁ。引きこもってばっかいないでどっか行こうよ」
「どっかって?」

手元の本から顔を上げないまま、新一が答える。
まぁ返事が返ってくるだけマシな方だ。
そもそも会話が成立するとは思っていなかったから、

「えっと…プール、とか?」

とりあえず適当に思いついた場所を言ってみる。
男2人でプールかよ、と。
言った後、心の中で盛大に突っ込んだ。

「…俺は海の方が好きだ」

新一は意外と真面目に要望を述べてくれた。
恋人同士になる前も換算すれば、新一とは随分長い付き合いになるが。海が好きとは知らなかった。
と、いうか。

「…それ、理由は明らかに嫌がらせだよね…?」
「おぉ、よくわかったな」
「海はやめよう?ものすごく暑いし日に焼けるしイイコトないよ?」

もちろん本気じゃない、のだろうけど。
万が一決行されたら心底困る。

「ばーろ。お前が嫌がるところなんか、2人で行ってもつまんねぇよ」
「新一…」

冗談だと言って新一が笑う。
何だかんだ言って優しいんだよな、と嬉しくなった。
ついでに、貴重な笑顔に見惚れていると。

「仕方ねーから水族館で我慢してやる」

あれ…?

ほだされかけたところで爆弾が降ってきた。

「何だよ、何処でもいいから出掛けたいんだろ?」
「…やっぱり夏は、家にいるのが1番だねっ!」

あっさり白旗を振って引き攣りそうな笑みを浮かべる。

恋人と二人っきりで迎えた初めての夏はどうやら、引きこもったまま過ごす羽目になりそうです…

「Prrrrr…」

恨みがましい目で睨んだ先、新一が鳴り響いた電話に手を伸ばす。
相手は今日も目暮警部らしい。

「…米花駅近くのマンションで密室殺人?…はい、…大丈夫です。すぐに伺います」

何の未練もなく本を放った新一が立ち上がる。推理小説よりも現実の事件に、より深い魅力を感じるらしい。

「じゃ、出掛けてくるから」

優先順位としては、俺の存在は随分低い場所に位置するらしく。

せめて、

あっさりと外出していった新一を見送りながら考える。

事件現場へ押しかけて、解決した後は思い切りデートに連れ回してやる。



END


 
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