「今日も失敗しなかったんだな」
あんなに邪魔してやったのに。
「当然だよ」
真夜中の屋上で対峙した真っ白い奴は、得意げな顔で本日の獲物であるビッグジュエルを放ってきた。
余裕釈々な様子が無性に悔しい。
「俺のこと誰だと思ってんの?」
「国際的…コソ泥。」
「だから泥棒じゃなくて怪盗だってば」
その組み合わせ、何か嫌。
「間抜けでお似合いだと思うぞ」
「えっ、俺マヌケなの!?そんな認識されてんの!?」
ショックを受けたような顔をして俺をみる。それはキッドの衣装に似合わな過ぎて、やっぱり間抜けだよなと思う。
「今頃気付いたのか…?」
「俺はコナンに敬意を示して“名探偵”って呼んでるのに」
今度は間抜けに泣き真似を披露する。
「好敵手に対してその認識はあんまりじゃない?」
探偵は批評家云々言ってた気障で嫌みな男は何処へ消えてしまったのだろうか。
「そもそも敵相手に毎回顔合わすたび滑稽な告白してくること自体間抜けだろ。さっさと逃げろよ」
「逃げるなんて冗談じゃない!名探偵と少しでも長く一緒にいたいし…ホントに好きだし」
とどめに切なげな瞳で乙女のような言い草。
「好きな相手に愛の告白して何が悪いの?」
駄目だ。結局コイツには何にも伝わってない。
「何もかもだよ、このバ快斗!」
「…え!?何で俺の名前知ってんの!?」
目の前の男が突然ポーカーフェイスを消し去って、真面目な顔でとんちんかんなことを聞いてきたのは一ヶ月前。
「名探偵が好きって…言ったらどうする?」
「…頭大丈夫かよって聞く」
それが殊の外嬉しかったとか、ましてや俺もだなんてことは、当分言ってやるつもりはない。
コイツの“好き”は軽すぎて信用ならない。正体を明かす気も感じられないし。
これは簡単に差し出せるような想いじゃないから。
その言葉が、信用できるまで積み上がったら、雪崩を起こすくらいに高くなったら。
そのうちいつか。
END
結局両想いだからめでたしめでたし。
2010.12.7
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