「新一は…?」
帰ってこない彼が心配で、携帯も全く通じなくて。
今日は向こうに泊まる、と言って出て行ったことをようやく思い出した。
阿笠さんのところだろうと思って、さっそく訪ねてみたのだけれど。
「彼ならもう、いないわよ」
現れたのは、妙に虚ろな目をした哀ちゃんだった。
そして新一はもう、いないと、言う。
「いないってどういうこと?」
どっか、行っちゃったの?
最悪の予想ばかりが頭の中を回っていて、でも、それを口に出すなんてできなかった。
口に出したら本当になってしまいそうで怖かった。
「だったら捜しに行かないと」
「捜す必要は、ないけれど」
酷く平淡な声で彼女が言う。
「だって」
何処にも行けるはずないんだもの。
もう、何処にも。
「それって、え…でも、」
その先は言葉にならなかった。
何も聞かなくても、彼女の表情で全てを悟ってしまう。
体中から力が抜けていって。
そのまま、ガクリと床に膝をついた。
両の手の平が冷たすぎる。
そんな些細なことすら悲しく思えて、けれど、涙が一粒も零れない。
「…い、つ?」
譫言のように呟く。
「たぶん昨晩よ。見つけたのは今朝だから」
「死因、は?」
続けて尋ねると、無表情だった彼女の顔が悲しく歪んだ。
「薬」
「もしかして、解毒剤の…」
副作用が、原因で?
声にできなかった部分まで彼女はちゃんと読みとって、かぶりを振る。
「その薬じゃないわ。彼は、江戸川コナンに戻るつもりだったのよ」
おそらくは、貴方のためだけに、ね。
「え」
手渡されたのは一枚の紙。
『コナンを、おまえに返してやるよ』
手紙ですらない。一枚のメモ用紙に記されていた言葉。
「彼、APTX4869を隠し持っていたみたいなの」
何のために、だったのか。
それはもう知る術がないけれど。
「…自殺、か」
初めてその毒薬を服用した時のように身体が縮んでいたとしても、コナンに戻った彼は間違いなく殺されてしまうことだろう。
どっちにしても、死んでしまう。
「私が、こんな薬、作らなければ…」
「ちがうよ」
苦しげに零した彼女へ告げる。
「哀ちゃんは何にも悪くない」
彼が残した言葉を見て、分かってしまった。
「新一を追い詰めたのは、間違いなく俺だ」
江戸川コナンの通夜の席で、隣に立っている彼を見て。
こんな時まで平気な顔しなくてもいいのに。
そう思った。それで睨みつけただけだった。
いつも、言葉なんてなくてもちゃんと伝わるから。
そんな風に、どうしようもなく歪んで届くなんて思いもしなかった。
一言、聞いてくれればよかったのに。
そしたら、どっちも大好きだよって、伝えて…
つた、えて……
腕の中が、空っぽだ。
この胸の内にも何にもない。
ただ、
悲しすぎる罪悪感だけを両手いっぱいに抱えて、これから先、一体どうやって生きていけと言うの…?
END
いろいろとすみません…
2010.4.22
title:MAryTale
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