凍えそうな思いで待ち構えていた俺の目の前、キッドはあくまで優雅に降り立った。
即座にボール射出ベルトの準備。
「くそっ」
舌打ちする。かじかんだ手が動かない。
「この怪盗紳士に挨拶もなしか?」
「これが挨拶代わりなんだよ!」
思い通りにならない指に苛立つ。
蹴りつけるボールが出てこないまま、キッドに距離を詰められてしまった。
「止めときな。無理に動かすと痛むぜ?」
手元にスッと影が落ちる。
「!?」
何故か手袋を外したキッドの手指が素肌に触れる。ドキリとして思わず動きを止めた。
「なるほど。氷みたいに冷てぇな」
ほんの一瞬だけ、やっとこの男を捕まえたような気がした。ただ手が触れただけなのに。
「あったまるまで休戦ってことでどうだ?」
提案しつつ、足元の階段に座り込む。
「ほら、名探偵も」
「こんなところに座ったら余計冷えるだろ」
引っ張って隣に座らされ、抵抗できたのは口先だけ。
「くっつけばすぐにあったまる。体温を分け合うってよく言うじゃねぇか」
「…奪い合うの間違いだろ」
お互いこんなに冷え切っている現状では。
怪盗と探偵が真夜中の階段に寄り添って座る。何をするでもなく、ただ、星空を見上げてみたりする。
奇妙な図だとは思うけれど結局、怪盗だって探偵だって寒いものは寒いのだ。
END
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