「ヤキモチ?」
灰原の質問に「まさか」と答える。
「眉間にシワ寄ってるわよ」
指摘されてから取り繕っても既に遅かった。
視線の先には、可愛らしい下級生と向かい合わせで立つ快斗の背中。
「…アイツ、意外とモテるんだよな」
こんな光景を見せられてしまうと少しだけ、ほんの少しだけ不安になる。
「あら、意外でもないことは同じ顔した貴方が一番よく分かってるんじゃない?」
独り言には嫌な反論が返ってきた。
わざわざ江古田までやって来たのは、歩美たちが快斗のマジックを見たいと言い出したからだ。しかし校門前でいくら待っても快斗は現れず、かろうじて顔を知っている女子生徒に所在を尋ねてみた。彼女は可愛いお客さまねと微笑んだ後、快斗なら後輩の女の子に呼び出されて校舎裏にいると言う。
「それってもしかして…」
「愛の告白ってやつですか!?」
途端に目を輝かせたコイツらを、彼女は嬉々として中へ入れた。つまりは現在、のぞき見とやらをしている訳で。
「あのルックスに、人好きのする性格、マジックの腕はプロ並…モテない方がおかしいわね」
珍しく灰原が快斗を評価するようなことを言う。
「尤も、中身はただのショタコンだけど」
しかし続く言葉は相変わらず辛辣だった。
「あのなぁ…」
あんまりな言い様に、少しは快斗をフォローしてやろうかと思ったのだが。
「ねぇ、ショタコンってなぁに?」
問題は会話に聞き耳を立てていたコイツらがいることだ。
「そうね、簡単に説明すると…」
「んなこと説明するな!」
「何で?」
灰原の説明を遮れば、途端に純真な攻撃が降ってくる。
「おい、勿体ぶらずに教えろよ」
のぞき見していたことも忘れて騒ぎ出され、静かにしろよと一人焦った。こんなにうるさくしていては絶対気付かれてしまう。
「……あれ?」
案の定、快斗が振り返った。
「っコナンちゃーん!!」
うんざりとため息。
俺たちに気付いた快斗が駆けてくる。ほんの一瞬でも不安になった己が、バカバカしく思えてくるほど満面の笑顔で。
「会いに来てくれたの?」
「ちげぇよ。コイツらが、」
そばに来たと思ったら既に抱き上げられていた。
あんまり勢いがありすぎて抵抗する隙もありはしない。
「照れ隠しはいいって。それともさっきのこと怒ってる?ちゃんと丁重にお断りしたから大丈夫だよ」
「だから、お前は人の話を聞けっ」
どうすればそこまで楽観的になれるんだ?
呆れ顔で聞く。
断ったことを知って安心した、なんて絶対に悟らせない。
「だって、どんな理由でもコナンちゃんに会えるのは嬉しいし」
相変わらずの快斗に呆れていると、
「僕、ショタコンの意味が何となく分かりました」
やり取りを全て聞いていた光彦がそう言った。
私も、と歩美まで続く。
「何だよ、俺にも分かるように説明してくれよ」
何より食欲優先の元太には、全く伝わっていないようだったが。
「つまり快斗お兄さんはコナンくんが大好きってこと。そうでしょ?」
快斗は、歩美の言葉を聞いているのかいないのか、呑気にニコニコ笑っていた。
「当たらずとも遠からずよ」
とんでもない解釈を訂正する前に、あっさり肯定されてしまう。
頼むから分かってくれるなと、脱力して横目に灰原を睨んだ。
END
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