鬼さんこちら

どうしていつも俺の居場所が分かるのか、と。
今夜もしっかり現れた男に尋ねた。

快斗は隣のブランコに腰掛け、冗談めかした声で答える。

「いつも見守ってるからだよ。空の上から、あの月みたいに」

キィー、と鎖が軋んで揺れる。

そう表現されるのは死者であって、だったらオメーは幽霊か?

言いかけてやめた。コイツの場合、見守っているのは本人でなく鳩だ。

「そういうの世間一般ではストーカーって言うんじゃないか?」
「両想いだから何にも問題ないじゃん」
「俺がおまえの跡つけ回してもいいのかよ」
「全然構わないし、むしろ大歓迎だね」

脱力。
もはや何を言っても無駄だと気付いた。

深夜の鬼ごっこはいつも快斗が上手だ。
手段を選ばないのはお互い様で、文句も言えない。
必ず見つかる。気付けば立っている。手も触れないで捕まえる。

始まりは一ヶ月ほど前だったろうか。
眠れない長い夜に布団の中から抜け出して、ふらりと街を歩いていると、何処からともなくキッドが現れた。

『怪盗が探偵に何の用だ?』
『あ、カイトウじゃなくてカイトだから』

そんな感じで本名を知った。

『漢字で書くとこう』

公園の地面を枝で掘って書かれた文字。さらさらと掌で消してしまう。
汚れた手袋を外したついでのように派手な衣装も脱いで。
呆気にとられているうちに、いつの間にか素の彼と知り合いになっていた。

布団を抜け出し、彼に見つかる。そんな夜を何度も繰り返す。

平然とストーカー行為を続ける快斗に文句を言うよりも、こんなことを早くやめればいい。大人しく眠れればいいのだと思う。

ぼんやり見上げた月は満月で、隣にいる彼はその化身。

たぶんものすごく取るに足らない、くだらなくて、考えたところでどうしようもない、ぐるぐる同じところを回るばかりの思考に疲れ、窓から月を見ていると、会いたいと思うからいつまでも眠れない。
自分でもうんざりするしかないけれど。



「だってコナンには…どんなにしたって足りないくらいだし」

すっかり己の思考に沈んでいると、今現在隣でブランコに揺られている男の、言い訳じみた声が聞こえて我に返った。

「……何を?」

ストーカー行為と返されたら蹴り飛ばそうと思ったが、どうやらそんなことを言い出す雰囲気ではなさそうだった。

「どんなに心配したって足りないってこと」
気になって心配で眠れない。

ブランコから下りて俺の正面に屈んだ快斗が、

「そろそろ帰ろう?送るから」

触れるだけのキスをして手を引いた。

「これで今夜の逢い引きは終わり」
「……いつから逢い引きになったんだよ」

多少熱の上った顔で睨む。
繋ごうとする手を振り払い、帰るべき場所へ歩き出す。
満月は何処までもついてくる。鬼ごっこも月が相手では勝ち目がない。
走っても逃げても見上げればそこに。



自身を月に例えてみせた、この男もたぶん、振り返ればそこに。



END


 
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