弱いヒト

「いつか戻ってくるよね?また会えるよね?」

ねぇ、コナンくん。

キンと、耳鳴りがする。
大好きだった人の夢を見て泣いた。泣きながら布団の中で嘘つきと詰った。

約束したのに。嘘つきウソツキ…

「どれくらい外国にいるの?いつ戻ってこれるの?」

半ば錯乱して噛み付いて、永遠の別れを知らなかった。生きているのに会えなくなるなんて、そんな理不尽なことは知らなかった。

知らないままでも、よかったのに。



そういえばあの時泣きながら問うた言葉の全てに、曖昧に笑うだけで決して頷かなかった彼のことを今さら思い出して、僅かに残っていた希望とか救いとか、キラキラした全てが消えてしまった。







「目暮警部…」

目の前で、トリックを暴いて動機を突き付け、涙ながらに自白した男が連行されていく。
それは悲しいながらも見慣れた光景で、半ば上の空の俺は隣に立つ彼をぼんやりと呼んだ。

「……僕は、何かを間違えたでしょうか」

独り言じみた呟きに警部が、一瞬目を瞠ってから大袈裟に答える。

「何を言っているんだ工藤くん」

背中を叩く、力強い手の平。

「今日の推理も見事だったよ。犯人も素直に自白したし、反省もしていた。何も間違っていないじゃないか」



事件現場を後にして一人になって、警部の言葉を胸の内で繰り返した。

俺は何も間違っていない。

そう、ひたすら言い聞かせるように。

五年間工藤邸に届いていた、江戸川コナン宛の手紙がとうとう途絶えた。親戚だから本人へ届けてくれるはずだと思っていたのか、薄々正体に感付いていたのか、確かめる術はないけれど。

会うことのないまま過ぎた年月。
余りに唐突に途絶えた手紙。
忘れてくれたならいいと思う。

それでも、コナンを一心に慕っていた少女が、今も泣いている気がしてならなかった。



――俺は、何かを間違えたか?



今度は誰に聞けばいいんだろう。

否定の言葉をくれれば誰でもいい。例えば行き摩りの誰かでも。



2011.4.10



title:MAryTale


 
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