最近のコナンは早歩きだ。
俺が普通に歩いても少し遅れるほど早歩きだ。
なにぶん足が短いため、その様子はちょこまかと忙しなく見える。
何をそんなに急ぐかと問うた。
「おまえに合わせられんのが嫌なんだ」
コナンは決然とそう答えた。
「別に合わせてるつもりないけど?」
「同級生の奴らと歩いてる時はもっと早かった」
あっという間に遠くなったと零す。
珍しく素直に心を晒す。
「いつだよそれ?」
「一週間くらい前、だったと思う」
声かけろよ。
言いかけて思い止まった。
つまりは小走りにならないと声すらかけられないことを、気付いてすらもらえない体であることを、コナンは寂しく思ったはずで。
「一週間前かぁ…さすがに、覚えてねぇけど」
急いでたんじゃないかな?
「……へぇ」
あまり納得していない顔だ。
朧げな記憶で話しているのだから仕方ないか。
とにかく今は納得させられるかが大事なのではなく、ただ、早歩きを止めさせたい訳で。
「例え同じ高校生になったとしても、歩調がぴったり揃うとは限らない、と思うけど」
まだ、少し先を行く彼の歩調は緩まない。
ランドセルもカタカタと忙しなく揺れる。
「それに、コナンちゃんとは長い間一緒にいたいからさ」
こんな下校ラッシュ真っ只中の公道で、堂々と言っていい台詞なのかどうか、俺だって少しは迷うけれど。
「ゆっくり歩けばいいじゃん。勿体ないよ」
コナンが立ち止まってこちらを見た。
「勿体ないって…」
変な奴。
呆れ顔で言って、やっと、隣に並ぶ。
ほんの少し息が切れている。
そんなに無理することなかったのに。
ちょっとは恋人へ心を晒すようになったところで、行動が相変わらず意地っ張りだ。
しかし、と高校生に戻った彼について考察してみる。
ここまで容姿が似通っているのだし、きっと身長や足の長さも同じ。
だったら歩調も同じかもしれない。
同じだったらいいなと思った。
「なに考えてんだよ」
クスッと笑ったことが気になったのか、不機嫌顔でコナンが聞いてくる。
「おまえのこと」
近い未来のね。
そう、心の中で付け足した。
END
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