ガウェインさんに手を引かれてパーキングへ辿りつくと、街中でよくみかける乗用車や軽トラックの中に、素人目でも明らかにわかる高そうな車が一台停まっていた。すごい真っ白だなー。前の部分に付いてる王冠のマーク素敵だなー。とその見るからに高そうな車を、どこのお金持ちの方の車かな?と思いながらも、ガウェインさんの車はどれだろう。と見回していると、「こちらです」と言いながら一台の車を手で示した。


「えっ?!」
ガウェインさんが手で示したのは、先程私がどこのお金持ちの方の車だろう。と思っていた車で、思わず足を止めてしまった。


「どうかしましたか?」
急に足を止めた私を不思議に思ったガウェインさんは首を少し傾げながら私の顔を見た。


「こ、これガウェインさんの車ですか?」
私は驚きを隠すことができず少し声を裏返らせてしまいながらガウェインさんへ問いかけた。


「はい、そうですよ。さぁ、どうぞ」
そう言いながらガウェインさんは助手席のドアを開き私を中へと招き入れた。ご丁寧に頭を上にぶつけないように。とドアの上部を手で押さえてくれている。


「し、失礼します」
車に乗り込もうとしたが、革張りの椅子や黒で統一された車内には砂やほこり等の汚れが一つも見つからなかったことから、これは土足で乗り込んでいいのかな?靴は脱いだ方がいいのかな?という疑問が生まれて立ち止まった。


「気にせずそのままお乗りください」
そんな困っている私にガウェインさん少し笑いながら声をかけてくれた。


「は、はい。失礼します・・・・」
会釈をしながらゆっくりと助手席へ乗り込むと、「閉めますね」と言いながらガウェインさんは優しくドアを閉めて運転席へと移動した。


「名無しさんは何が食べたいですか?」


「えっ、私の名前・・・・」
ガウェインさんが普通に口にした私の名前を聞いて何故知っているのか。という疑問を持った私は口にした。


「先程、御友人がそう呼んでらっしゃったので。もしかして、間違っておりましたか?」


「いえ、合ってます・・・・」
そっか、さっき琳華ちゃんが私の名前を呼んでいたのを聞いたから知ってたのか。


「で、名無しさんは今何が食べたいですか?」


「なんでもいいです・・・・おまかせします」


「わかりました。では、私のオススメのお店へ行きましょう」


「はい。お願いします」
私がそう答えると車はゆっくりと動き出した。高級感が漂う車内に終始緊張し、私はガチガチの状態で身体を固まらせた。どうしよう。何を話せばいいのだろう。そもそもこんな大人な方が私なんかと会話して楽しいのだろうか。と思い口を閉ざして前を見つめていれば、「名無しさんはこの車お気に召しましたか?」と問いかけられた。


「え、私、車のことはよくわからなくて・・・・こういう車には乗ったことがなくて・・・・その・・・・少し、緊張します・・・・」
今までの人生で、親が運転してくれる車しか乗ったことがない私には車のことなどわかるはずもなく、せっかく質問してくれたことに上手く答えることができなかった。


「そうですか。では、どういった車がお好きですか?」


「えっと、ああいう車は可愛いな。と思います」
たまたま横を走っていたCMで可愛い女優さんが乗っている小さくて形が角々した車を指差すと横にいるガウェインさんは「なるほど」と言って何か考え始めた。


「あの車でしたら明日には手に入りますので、明日またドライブでもしませんか?」
信号待ちで車が止まるとガウェインさんは満面の笑みを浮かべながら私の顔を見つめた。


「えっ、いえいえ、そ、そんなことしなくて大丈夫です!」
私は手を思い切り横に振りながらガウェインさんの申し出を断ると、ガウェインさんは、っふ。と少し吹き出して笑った。


「ふふっ、冗談ですよ」


「はぁ・・・。もうガウェインさんは本当にできちゃいそうなので、信じちゃいましたよ」
私は肩の力が抜けて背もたれに思い切り身体を預けながらため息をついた。


「車の件は冗談ですが、ドライブの件は本気です」


「えっ」
小さな声で言われた言葉が上手く聞き取れず聞き返せば、「何でもないです」とだけ答えてにっこりと笑った。


「さぁ、着きましたよ。ここです」
そう言って車を入れようとした建物を見て私は口を大きく開けたまま固まった。


「こ、これお店ですか?!」
普段ファミレスやファストフード店にしか行かない私にはまったく馴染みのないこれまた高級感溢れるどこかのお屋敷のような建物を見て私の思考は一瞬停止した。入り口の前へ車を停めると、スーツを着た男の人と女の人が現れ、男の人は運転席へと回りこみドアを開けてガウェインさんを降ろし、女の人は助手席のドアを開けて私を降ろしてくれた。その出来事にも驚いて、私は車から降りた状態でどうして良いかわからず立ち止まっていると、「名無しさん。行きましょう」と言って、私の手を取ったガウェインさんはお店の入り口へと歩いて行った。私も連れられて中へ入ろうとしたが、そのお店から出てきたお客さんらしきドレスを着た女性とスーツを着た男性の姿を見て足を止めた。


「ちょ、ちょっと待ってください!」
突然足を止めて私の手を掴んでいるガウェインさんの腕を掴んで歩みと止めた。


「どうしましたか?」
そんな私を見たガウェインさんは首を傾げながら私の顔を覗き込んだ。


「あの、どう見ても私・・・・場違いで・・・・」
お店を出入りする煌びやかな服を着た大人たちを見て、明らかに場違いな制服姿の私が気軽に入っては行けない場所だとすぐに察した。


「そんなことはありません。貴女は誰よりも素敵です」
足を止めて下を向いた私の両手を優しく掴んだガウェインさんは私の目線に合うように少し屈んで微笑んだ。


「どんな格好だったとしても、その魅力が陰ることなどあり得ません」


「ガウェインさん・・・・・・」


「参りましょう。私のお姫様」
そう言って片膝を付いたガウェインさんは、私の右手の掌を優しくなぞるように持ちそっと手の指を支え、手の甲へ唇を落とした。


「が、ガウェインさん!!」
その行動に心底驚いた私は、叫び声をあげながら右手を自分の胸元へと引っ込めた。顔が信じられないぐらい熱いし、一瞬で頭に血が上ったせいか、めまいのように視界がくらっとした。


「おっと、大丈夫ですか?」
少し身体がよろめいた私の身体を瞬時に支えたガウェインさんは私の顔を覗き込んだ。


「だ、大丈夫です・・・・」


「では、店内へ入りましょう」
そう言ってさりげなく腰へと添えられた腕に押されて私たちは店内へと入って行った。