「オルタお疲れ様!サポート入ってくれて助かったよ!ありがとう」
俺は最後の敵を倒し終わったオルタの元へと駆け寄って声をかけたが、オルタはどこか遠くを見つめてぼーっと立っていた。てっきり、小言の一つでも言われると思ってからその様子をみて拍子抜けした。


「オルタ?」
オルタの横まで行って声をかければ、オルタは俺のことを一瞬だけチラ見してまた遠くを見つめた。


「ふんっ。終わったならさっさと戻るわよ」
俺らを置いたままどんどん前に進んでいくオルタの後姿を見ていつもの雰囲気と違うことに気づいた。後ろにいるみんなにも戻るよ。と声をかけて俺はオルタの後を追いかけた。


「名無しさん何ともなければいいね」
横に並んだ俺はオルタにそう声をかければ、オルタは一瞬驚いた顔をして足を止めた。その様子に首を傾げれば、オルタの口からは「別に。心配なんてしてないわよ」という返事がかえってきた。どうみても心配しているようにしか見えないけど、ここでそれをツッコんだら、きっとムキになって否定するに決まっているから俺はそのまま「そっか」とだけ言って口を閉じた。カルデアに戻ればオルタはすぐに早歩きである場所へと向かっていった。きっと、あそこだろう。俺もその後をついて行けば案の定ある場所に辿り着いた。


「あ、オルタおかえり。お疲れ様。あ、立香くんもお疲れ様」
食堂で夕飯を食べていた名無しさんが俺らを見つけて声をかけてくれた。いつものようにニコニコと笑っている顔をみて、少しほっとした。


「名無しさんもお疲れ様。検査どうでしたか?」
声をかけてきた名無しさんを無視して夕飯を取りにいったオルタを横目で見ながら気になっていたことを質問した。


「うん。何ともなかったよ。平気」
名無しさんは笑顔で検査結果が正常だったことを俺に伝えた。そっか。よかった。と俺の気持ちは安堵の気持ちで一杯になった。名無しさんが以前魔術を使った時に起こした心臓発作の原因は、火傷の傷のせいだと前にドクターから聞いていた。所々自然治癒で治った血管が魔術を使った時に異常を起こして心臓発作を起こしたらしい。名無しさんのそのケガは俺のせいだ。俺が一人で自分の身を守れないから、名無しさんが俺の盾になってオルタの攻撃を受けて首から腕まで大火傷を負った。
顔の近くまであるその傷は、長袖とタートルネックの服を着ていても、服の隙間から少しだけ見える。その傷を見る度に俺が落ち込むことを知っているから、名無しさんはいつも笑顔でケガのことを大丈夫だと伝えてくれる。本当に優しい人だと思う。
俺なんかよりもずっと優秀な魔術師だ。きっと、名無しさんがマスターだったらもっとすんなり人理修復されたと思う。昔、そのことを名無しさんに伝えたことがある。だけど、その時彼は俺に「俺なんかじゃ全然ダメだったよ。正直俺の方が魔術師としての力は上かもしれないけど、力なんかよりもずっと大切なものを立香くんはたくさん持ってる。だから、みんな君のために頑張れるんだ」と笑顔で言ってくれた。俺はその言葉に今でも救われてる。


「アンタね!いっつもいっつも私の夕飯にステーキを用意させてんじゃないわよ!」
エミヤから夕飯を受け取ったオルタが激怒の表情で名無しさんに詰め寄ってきた。


「あれ、オルタはステーキ嫌い?」
そんな激怒のオルタにも臆することなく名無しさんは笑顔でオルタに質問をした。


「嫌いか好きかの問題じゃなく、毎回戦いから帰ってくるたびに食わせるんじゃないわよ!って話よ!」


「そっか。疲れて帰ってくると思ったからお肉の方がいいかな。と思ったけど、迷惑だったね。ごめん」
少しだけ困ったように笑った名無しさんを見て、さっきまで激怒の表情をしていたオルタの顔が少しだけ、うっ。と何とも言えない表情に変わった。


「・・・・ふんっ。今回はいいけど、次やったら焼き殺すわよ」
そのまま大人しく名無しさんの隣の席へと腰を下ろしたオルタを見て、名無しさんはまたニコニコとした表情でオルタを見つめた。


「名無しさんってほんとオルタのこと好きだよね」
俺は素直に思ったことをそのまま伝えると、今まさにステーキを口に運ぼうとしていたオルタが、はぁ?!と言いながら顔を赤くさせた。


「うん。好きだよ」
何の恥ずかしげもなく好きだと伝えた名無しさんを見て、ステーキが刺さったままのフォークをオルタは名無しさんに思い切り向けた。


「アンタはほんとにっ!これでも食べて黙りなさい!」
無理矢理名無しさんの口へとステーキを詰め込んだオルタを見て、肉のサイズが余りにも大きかったから慌てて止めようとしたが、その肉はすんなり名無しさんの口の中へと入っていった。


「名無しさん水!水!」
絶対に飲み込めるサイズじゃないと思い慌てて水の入ったコップを差し出すと、名無しさんはすぐにそのコップを受け取り肉を流し込んだ。


「うわぁ、このお肉すっごく美味しいよ!オルタ!」
いきなり肉を口に突っ込んできたオルタを注意することなく、肉の美味しさを伝えた名無しさんをみて、オルタも大人しくステーキを口に運んだ。


「っ!!」
口に入れた瞬間一瞬驚いた表情に変わり、その後少しだけ頬を緩ませた。


「美味しいね。オルタ」
そんなオルタに名無しさんは笑顔で話しかけたが、オルタはすぐにいつもの表情に戻り、鼻で笑った。


「まぁまぁです。まぁ、3流のコックが作った味とでもいいましょうか」


「そっか。じゃあ、エミヤさんは1流の3流コックさんだね」


「名無しさん。それ言ってることめちゃくちゃ」
1流の3流コックってなんだ。1流なのか3流なのかまったくわからない。それとも3流の味を出す1流ってことか?まったくわからない。


「ははっ。そうかな」


「で、検査結果はどうだったの?」
オルタはステーキを食べる手を止めることなく目線だけ名無しさんに向けて問いかけた。


「なんともなかったよ」
そんなオルタを安心させるような笑顔を向けた名無しさんはさっきと同じ答えをオルタにした。


「・・・・そう。よかったわね」
オルタの問いかけに大丈夫だと答えた名無しさんの顔を見て、オルタが一瞬目を見開いて手を止めた気がしたが、すぐにいつもの表情に戻った。きっと何ともなかったことに安心したんだろうな。レイシフト中ずっと心配そうにしてたし。


「じゃあ、俺、そろそろ部屋に戻るね。オルタと立香くんはどうぞごゆっくり」


「あ、うん。おやすみなさい」
急に席を立ち上がって俺達に一言残していった名無しさんを見て、いつもならオルタが食べ終わるまでここに残っているのに・・・・。と違和感を感じたが、今日の検査で相当疲れたんだろうな。と納得した。


「・・・・これ、あとあげる」


「えっ?!オルタ!」
名無しさんが食堂から出ていったのを見て、オルタはステーキがまだ残っている皿を俺の前に突き出して名無しさんを追う様に席を立った。何か話したいことでもあったのかな・・・・・。あっ・・・・


「名無しさん忘れ物してる・・・・」
さっきまで名無しさんが使っていた机の上に白い紙が裏返しの状態で置かれていることに気づいた。きっとトレイの下に置いて忘れてしまったのだろう。一体何の紙だろう?と思ってちらっと紙の中身を見てみると、今日の検査結果が書かれていた。


「C判定・・・・」
検査結果の欄に大きく書かれたその文字を見て俺の頭は一瞬真っ白になった。なんでこんなことがここに書いてあるんだろう。だって、さっき名無しさんは大丈夫だって言ってたのに・・・・きっと、何かの間違いだ。名無しさんにこの紙を届けなきゃ。そう思って俺はすぐに名無しさんとオルタの後を追いかけた。幸い、食堂からそんなに離れていない場所に2人はいた。


「ちょっと待ちなさいよ」


「あれ、オルタどうしたの?」
自分の後を追ってきたオルタに気づいた名無しさんは少し驚いた顔をしてオルタのことを見つめた。


「アンタ嘘ついたでしょ」


「嘘?何のことだろう?」
名無しさんはオルタの言葉を聞いて、まるで話がわからない。という風に首を傾げた。


「検査結果のことよ」


「何でもなかったよ。それよりも、オルタあの短時間でステーキ食べきってきたの?すごいね」


「はぐらかさないで!ほんとは検査結果どうだったのよ」
ただならぬ2人のやり取りを見て、俺は思わず物陰に隠れてしまった。オルタはさっきの名無しさんを見て違和感に気づいていたんだ。


「何ともなかったよ」
オルタに問い詰められても名無しさんは笑顔で何でもなかったと答え続けていた。


「・・・・・嘘。何があったの。ちゃんと教えて」
少しだけ下を向いたオルタがいつもの強気なしゃべり方からは考えられないぐらい弱々しい声で名無しさんに問いかけた。


「ははっ、参ったな。・・・・・今日さ、血管の検査したんだけど、検査結果はC判定だった。もし、次に魔術を使ったりしたら、もしかしたら血管が破裂するかもしれないってさ」
そう言って名無しさんはまるで人事のように笑顔でオルタに伝えた。血管が・・・・破裂・・・・?!俺の脳はその言葉を聞いて完全にストップした。血管が破裂なんてしたら名無しさんは・・・・・


「なんで、そんな大事なこと秘密にするのよ!」
掴みかかるように近づいていったオルタの手を名無しさんは優しく掴んだ。そして・・・・


「だって・・・・・」
名無しさんはオルタの腕を引いて廊下から外れた通路へと導いた。


「知ったらオルタが泣きそうな顔するから」


「そんな顔してないわよ・・・・・この私が泣くわけ・・・・ないじゃない・・・・」
オルタは名無しさんの肩口に顔を埋めるようにしてその体をきつく抱きしめた。


「大丈夫だよ。オルタのせいじゃないから。大丈夫」
優しくオルタの体を抱きしめた名無しさんはまるで子供をあやすように優しくオルタの背中をぽんぽんと叩き続けた。あの傷は今のオルタが名無しさんに付けたものではないけど、オルタはオルタなりにあの傷のことを背負って苦しみ続けていたことをその時初めて知った。

俺はそんな2人の様子を見守ることしかできなかった。


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