人理焼却によるグランドオーダー完遂から、一年。
特異点はすべて消滅し、人類の危機は去った。
過去改竄という汎人類史への反逆行為を可能とするレイシフトは現時刻を以って凍結。
カルデアに召喚されたサーヴァントも、その役目を終えたものとして契約を解除し、退去。
カルデア所長代行であるレオナルド・ダ・ヴィンチを除き、サーヴァントはすべて、地上から消え去ることとなった。
そのことは、全サーヴァント・全カルデアスタッフへと通達された。反応は様々で、すんなりそのことを納得するものもいれば、子供のように駄々をこねるものもいた。
ジャンヌダルク・オルタはどちらかといえば後者側だったが、清姫のように、「嫌!」の一点張りで話すら聞かないような態度は取らなかった。*そんな清姫もダヴィンチからカルデアでの記録はちゃんと保管されており、再召喚された際には記憶が引き継げることを教えられ、しぶしぶ退去を納得した。というより、させられた。


名無しとジャンヌダルク・オルタが恋仲なのは周知の事実だった為、その通達がされた後、色んなスタッフやサーヴァントが名無しやジャンヌダルク・オルタに声をかけた。ジャンヌダルク・オルタは、「まぁ、役目を終えたのだから当然でしょ」と言いながらも、内心は退去することに納得できていなかった。きっと、名無しも同じ思いだろう。と思っていたが、スタッフに声をかけられた名無しは、意外にもあっさりと「仕方ないね」と退去の件を受け入れている様子だった。皆、もっと名無しが「嫌だ」「離れたくない」と言って寂しがると思っていたから、面食らった様子だった。


「シルビアさんは栄転先決まったんですもんね」
査問会に提出するレポート作成の手伝いをしている名無しは、手に資料を持ちながら、スタッフのシルビアと2人で歩いていた。


「そ。私はロンドンに行くわ。時計塔のある一派にスカウトされたの。名無しくんはどうするの?」


「俺は、立香くんと同じで一度実家に帰ります。その後はまだ決まってませんけど、やりたいことはあるので、それができる所で働こうとは思ってます。」
カルデアは山の上の僻地にあり、そう簡単に外との行き来ができないため、候補生の時から実家に一度も帰れずにいた。転職先も決まっていないし、一度実家に帰った後、ゆっくりと就職先を探そうと思った。火傷の傷のことも、魔力を簡単に使用することができないこともまだ家族に話せないでいる。きっと、伝えたら驚かれるだろうが、自分の家は他の魔術師の家と違い、昔からまったく厳しくはないし、むしろ末っ子ということもあってか、とても甘やかされて育てられたと自負している。上に兄もいるから自分がダメだったとしてもこれからの名無家の心配もない。


「へぇ。よかったら私と一緒に来る?貴方なら大歓迎されるわ」


「ありがとうございます。考えておきます」
まだ就職先が決まっていないと言ったから気を使ったシルビアさんが自分の栄転先に誘ってくれたが、きっと自分のやりたいことはそこにはない。と思い、せっかくの気づかいを無下に扱うこともできないので、前向きな返答をした。


「名無し」
前方からオルタの声が聞こえ、名無しはシルビアから視線を外して、声のする方を向くと、機嫌がいいとも悪いともなんとも言えない表情のオルタがそこに立っていた。


「オルタ。これダヴィンチちゃんの所に届けたらすぐ行けるからちょっと待ってて」
仕事がひと段落したらシミュレーションを使ってでかけようと約束していたのを思い出した名無しはオルタに声をかけた。
退去が決まってからは、こうして名無しとオルタは思い出を作るように一緒にいる時間を今まで以上に増やしていった。魔力の使用をする機会もないだろうから。と今まで頻繁に行っていた検査も頻度を減らし、必要以上に他の人の仕事に首をつっこむのもやめ、色んな所に足を運んだ。今日もその予定が入っていた。しかし・・・・


「いい」


「えっ?」
それは行かないという意味だろうか?一体どうしたんだろう。と名無しがオルタに視線を向けた。


「ガキ共が使いたいみたいなのよ。最後にティーパーティーするんですって」
はぁ・・・・とため息をついたオルタは自分の髪を撫でた。そうか、明日が退去の日だからみんなそれぞれ催し物をしているのか。と納得した。


「そっか。じゃあ、今日はどこに行こうか?」


「アンタの部屋でいいわよ。私たちが退去した後、アンタも帰るんでしょ?荷物の整理手伝ってあげるわよ」
最後の日にわざわざ部屋の片付けしなくても・・・・と思ったが、オルタといることを優先して、まったく部屋の片付けをしていなかった名無しはその言葉に甘えることにした。


カルデアに来てから増えたものも多いため、捨てていけるものは捨ててなるべく荷物を少なくしていこうと思った名無しは、捨てるものが多い衣類の片付けを担当し、捨てるものが少なく、箱に詰めていくだけのものが多い机周りの片付けをオルタに担当してもらった。お互い黙々と作業していると、急にオルタが「あ」と声を出した。


「どうかした?」
作業の手を止めて、机の方にいるオルタに視線を向けると、オルタはなにやら、にやっとした表情で一つの手帳を手に持っていた。


「あ、それ。オルタからのラブレター嬉しかったなー」
いつの日か日記を書きながら寝てしまってた時にオルタが部屋にやってきて名無しが日記の下書きに使っていたメモ帳に書いた言葉一つ一つにオルタが返事を書いてくれたことを思い出した。


「ラブレター?!ち、違うわよ!」
さっきまでのにやっとした笑いはどこにいったのか、急に顔を赤くさせて慌てたように大きな声を出した。


「あれ?違った?俺はそうだと思ってたんだけどな。嬉しかったな。嫌がられてるのに無理矢理付き合わせてると思ってたから・・・・」
そう言って名無しは床を見つめるように視線を落とした。自分から無理矢理始めてしまったこともあり、めんどくさいことに付き合わせてしまったと、どこかで罪悪感を持っていたから、オルタからのラブレターともとれるあの言葉の数々に名無しの心は救われていた。


「・・・・嫌だと思ってたならこんなに続けてないわよ。それに、私のことを思って始めてくれたんでしょ。これ」
その言葉を聞いた名無しは、首を縦にも横にも振らず、笑顔で返事をした。始めた時はめんどくさいと思っていたし、なんでこんなことを。とも思っていたけど、続けていく内に段々とお互いの心の中が見えていったり、口では言いにくいことをここに書くことができたり、会えない日が続いた時でも、お互いを気にかけるきっかけになったり、渡しに行くことで会える理由ができたりと良い事ばかりだった。とオルタは思った。


「新しく買ったばっかりだったのにな。その本は最後まで書きたかった・・・・」
名無しは新しく買った分厚い日記を見つめながら、悲しそうにつぶやいた。この先もずっと一緒にいると思っていた。それこそ何冊もその分厚い日記が埋まるぐらい。


「そうね・・・・。そういえば、さっき、査問会とかいう奴ら、冷酷で結構ひどいことしてくるって聞いたけど大丈夫なの?」
日記を机の上に置いたオルタは何かを思い出したかのように聞いた話を名無しに教えた。


「噂では聞いてるけど、ダヴィンチちゃんもいるしたぶん大丈夫だよ」
その噂はもちろん名無しの耳に入っていたが、こちらがあっちの挑発に乗らずにいれば何事もなく終わるだろう。もし、何かあったとしても、ダヴィンチちゃんがいるし、何とかしてくれるだろう。と思ってそのまま口にした。すると・・・・


「そう。ダヴィンチがいるものね。私がいなくても・・・・」
名無しの発言を聞いたオルタは一瞬目を見開いたあと、机の上に置いた日記に手を置き、そこに視線を落とした。


「えっ?」
さっきまで笑顔で話していたオルタの様子が変わったのを見て、名無し首をかしげた。


「どうかした?」


「なんでもないわよ」
そう言ってオルタがドアの方に向かって歩いて行くのを見て名無しは慌てて立ち上がり駆け寄った。


「なんでもないようには見えないけど。思ってることがあるならちゃんと教えて欲しい」
それでも足を止めないオルタの腕を名無しが掴んだが、その手はすぐに振り払われた。


「なんでもないって言ってるじゃない!」


「オルタ」
足を止めたオルタの腕を名無しは再度つかみ直した。すると、オルタは大きく息を吸ってゆっくりとその息を吐いた。


「私だけが寂しいと思ってる・・・・・」
キッ!と睨みつけるように見るオルタの瞳に名無しは驚いた。「そんなことは・・・・」と制止するように口を開く名無しの言葉を今度は「ほんとバカみたい!」という言葉で塞いだ。


「アンタは私がいなくなったって平気なんでしょ?!私の代わりなんてすぐ見つかるし、すぐに私のことだって忘れるのよ!」
名無しの方に体を向けたオルタは、頭に血が昇った様子で、感情をそのまま名無しにぶつけた。泣きそうなのを我慢しているのか、瞳が薄っすら赤くなっていた。


「本当にそう思ってるの?」
今にも噛み付いて来そうな勢いで想いをぶつけるオルタに名無しは冷静な声で問いかけた。


「えぇ、思ってるわよ!私はこんなにもあんたと離れたくないと思ってるし、こんなに好きなのに、なんであんたは平気なのよ!私のことなんて好きじゃなかっ!」
想いが次々に口から溢れ出て、思ってもいないことまで口から出た瞬間、オルタの腕は強く引っ張られベットに押し倒された。オルタをベットに押し倒した名無しはそのまま貪るような激しいキスをオルタにすると、オルタもそれにこたえるように唇を合わせた。その内、ぬるっと舌を差し入れられ、初めての感覚にオルタの体は一瞬びくっと反応したが、すぐに自分の舌を名無しの口の中へと伸ばした。荒い呼吸と唇を重ねる音だけが部屋に響く中、お互い呼吸の仕方すらわからなくなるほどの激しいキスに脳内の酸素がどんどん失っていくのがわかった。さっきまでは、口を開けば思ってもいないことまで次々に言葉にしていたのに、オルタの頭の中は、目の前にいる存在が愛おしい。ということ以外何も考えられなくなっていた。


「・・・・本当にそう思ってるの?」
激しいキスのせいで呼吸が荒くなる中、合わせていた唇を離した名無しは、自分の下で横たわっているオルタにもう一度問いかけた。


「名無し・・・・」
脳内に酸素が回っていなかったせいか、目が少し虚ろになりながら、オルタは彼の名前を口にした。


「俺はオルタのことが大好きだ。今までもこの先の未来もこんなに愛するのは君だけだ。この先もずっと一緒にいたい、できることなら結婚だってしたいし、俺達の子供を産んで欲しいとも思ってる・・・・」
瞳の奥に感情の火を灯しながら名無しはオルタに向けて自分の気持ちをぶつけた。サーヴァントと人間では無理なことも多いけど、叶うならこの先の幸せをオルタと歩みたいと名無しは心から願っていた。


「だけど、みんなが退去を受け入れているのに、俺達だけがそのルールをやぶることなんてできない。俺だって・・・・離れずにすむならオルタと離れたくなんかない・・・・」
あぁ、泣きそうだ・・・・奥歯を噛み締めてないと、すぐに涙腺が緩んで目から想いが溢れてしまう気がした。オルタの目をじっと見つめて自分の気持ちを伝えていた名無しは今にも涙が目から零れ落ちるのを感じて、すっとオルタの上から自分の体をどかせようとしたが、オルタは名無しの首に腕を伸ばしてそのまま頭ごと体を抱きしめた。


「ごめん。本当はわかってるの。アンタが私のことを愛してくれてることも離れたくないと思ってることも。でも、もう、この気持ちをどうすればいいのかわからないのよ・・・・」


「オルタ・・・・」


「好き・・・・・このまま離れたくない!」
力強く名無しの体を抱きしめたまま耳元で叫ぶようにオルタは泣きながら言葉を告げた。


「俺もだよ。同じ気持ちだから・・・・いつか君と一緒にいられる方法を必ず見つけるから、それまで待ってて欲しい」
しゃくりあげるオルタの体を抱きしめかえしながら名無しも涙を流しながら満面の笑みを彼女に向けて気持ちを伝えた。


「待つわよ!アンタが迎えに来るっていうならいくらでも待つわよ!でも、迎えに来なかったら地獄まで追っかけて呪ってやるんだから!」


「ははっ。それは怖いね。絶対に迎えに行くから、安心して待ってて」


――――――――


「はぁ・・・・・はぁ・・・・」
さっきやられたわき腹が痛む。血が床に落ちていくのが見えて、このままだと見つかるのも時間の問題か。と冷静に考えた。立香くんたちは無事に逃げれただろうか。二手に分かれたあと、敵が全員こちらに来ていたから、恐らく大丈夫だろう。
自然と呼吸が浅くなる。血が止まっていないせいか目も霞んできた。とりあえず、逃げなければ、と、隣にある部屋に逃げ込んだ。部屋に入った瞬間、今まで無理矢理引きずっていた体を床に投げた。まずいな、こんな所で死ぬわけにはいかない。


「はぁ・・・・・っぐ・・・・・ぁ・・・・」
先程から自分の心臓がバクバク動く音が大きく聞える。出血が多いせいか、心臓の速度がどんどん速くなるのが音からわかった。その時、カチっという音が聞え、俺は目を見開いた。魔力制御が解除された。これで治癒魔術が使える。と、血みどろになっているわき腹に片手を添えて魔力を注いだ。右の頚動脈に激痛が走ったが、奥歯を噛んで痛みをこらえた。無事、わき腹の出血は止まったが、さっきまでそれなりの量の血を流していたため、その場から動けずにいた。まずいな。俺の血を追って、敵が近くまで来ているはずだ。このままだとすぐに見つかる。なんとかしなければ。と辺りを見渡すと、床に召喚陣が書かれているのが見えた。たしか、敵にも何体かサーヴァントがいた。ここで召喚したのか。これは都合がいい。この状況を打開できるサーヴァントを召喚することができれば!俺は四つん這いになりながら、召喚陣が書いてある場所まで移動した。今は魔力も使用できるし、1体なら召喚できるだろう。オルタとの約束を果たすためにこんな所で死ぬわけにはいかない。たのむぞ俺の運。


「素に銀と鉄・・・・・抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」
英霊召喚呪文を口にし終えると、召喚陣がぶわっと白く光った。それを見てやった成功した。と安堵した。あとは、どのサーヴァントが来てくれるかだ。今は逃げるための足が欲しいからせめてライダークラスであって欲しい。今一番この状況で必要なサーヴァントを頭の中に思い描いた・・・・だけど・・・・


「欲を言えば、オルタがいいな・・・・」
これから来てくれるサーヴァントには申し訳ないけれど、そんな都合のいいことを考えてしまった。だけど、俺は願わずにはいられなかった・・・・・。たとえ、運よく彼女が召喚されたとしても、霊基トランクが手元にない今、カルデアで共に過ごした彼女ではないジャンヌダルク・オルタが召喚される。それは、彼女との約束を果たしたことにはならない。召喚する際に、魔力を使用したため、再び頚動脈に激痛が走り意識を失いかけた。かろうじて残った意識で、目を薄っすらと開けることはできるが、脳の働きが今にも停止しかけていた・・・・。朦朧とする意識の中、召喚陣を覆うように白く光っていた光が消えていき、二本足が見えた。よかった。サーヴァントを召喚できたようだ。と安心したが、安心したのと同時に自分の意識とは裏腹に瞼が完全に閉じた。気を失う前に、指示だけはしなければ。と、思い、「急に・・・・喚び出してすみません・・・・ここから・・・・逃げる手伝いをしてください・・・・ちょっと死ぬわけにはいかなくて・・・・」と目を閉じたまま、たどたどしく言葉を伝えた。すると・・・・・


「サーヴァント、アヴェンジャー。召喚に応じ参上しました。」
聞き覚えのある透き通った声が頭上から聞え、さっきまで頑張って開けようと思っていた瞼は自然と持ち上がり、俺は目を見開いた。


「お、るた?」
俺は驚いた顔のまま、上を見上げると、そこにはジャンヌ・オルタがいた。


「……どうしました。その顔は。さ、契約書です」
そう言って差し出された一枚の紙は、カルデアでジャンヌ・オルタを召喚した時に差し出されたものと同じ紙だった。懐かしい。こんなこともあったな。と思いながらも、俺を見て何一つ顔色を変えない目の前の彼女を見て、やっぱり『違う』彼女を召喚したのだと理解した。


「ごめんね・・・・今、ちょっと契約書は書けなくて・・・・取り急ぎ、ここから逃げなくちゃいけなくて・・・・・きっとすぐそこまで敵がきてて・・・・ある人との約束を果たすために、今・・・・・ここで死ぬわけにはいかなくて・・・・ここから逃げる手助けをして欲しい」
なるべく笑顔で話しかけたくて、笑うと切れた口の端が痛むのを我慢しながら、俺は無理矢理表情筋に力を入れた。


「そうですか。・・・・・で、そこの死にかけてる男は、私と一緒にいられる方法は見つけられたのかしら?」
倒れている俺の顔を覗き込むようにしゃがんだジャンヌ・オルタの言葉を聞いて名無しは目を見開いた。


「オ・・・ルタ・・・・なんで・・・・?」
霊気トランクがない今、彼女がここにいるはずがないのに何故・・・・?と記憶を遡った。そして、査問会の連中に追われ、カルデアから去る際に、元のダヴィンチちゃんから『餞別』と言って、ペンダントをもらったのを思い出した。


「まさか・・・」
俺は自分の首にぶら下げていたペンダントを目の前に出すと、筒状になっている部分に蓋が付いており開閉する構造になっていることに気がついた。この中にオルタとのデータを入れたということか。


「あぁ、それが私たちの縁を結んだってわけね」
俺のペンダントを見たオルタは状況を理解したようで、うんうん。と首を縦に振って納得していた。


「なに驚いてるのよ。まさか、『別の私』が来たと思ったんじゃないでしょうね?」
名無しが驚いた顔をしているのを見たオルタは、怪訝そうに眉間に皺を寄せた。その言葉に名無しは肯定も否定もできずにいた。そもそも他のサーヴァントが来ると思っていたし、奇跡的にジャンヌ・オルタを引き当てたとしても、一度退去したサーヴァントはたとえ同じ召喚者に再召喚されたとしても記憶を引き継ぐ事はできないことから、自分のことを『知っている』彼女がくるとは思わなかったのだ。ダヴィンチちゃんから「何かあった時に必ず君を守ってくれるから」と渡されたペンダントの存在を思い出さなければ、これが彼女との記録で触媒になったことにも気付かなかっただろう。最初から、名無しが召喚するのは彼女だけ。と決まっていたわけだ。それに気がついた名無しはふっ。と笑った。


「こんなとこで死んだら許さないから。まぁ、死んだとしても一緒に地獄に落ちてやるけど」
名無しの冷え切った頬に手を添えながらオルタはニヤっと笑った


「ははっ・・・・。君がいるなら地獄だって怖くない」
心からそう思った。君がいるならどんなところだって怖くない。


「バカ。こんなところで死なせるわけないでしょ。ちゃんと約束も守ってもらわなきゃいけないしね」


「あぁ、君と一緒にいる未来のために生きなきゃ・・・・・」
安心しきった表情の名無しを見つめたオルタは、床に倒れている名無しに覆いかぶさりその唇に噛み付くようなキスをした。



『最初で最後の君へ』 完 



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