カルデアが夏季休暇に入り、数日間の休みをもらった。休暇中オルタと遊ぼうと思っていた俺は、何をするか彼女と相談しようとしていたが、何かあったのか心ここにあらず。といった様子で、わざわざ霊体化して探しものをしていたり、何か考えている様子を見て、休み中のことを相談できずにいた。思いつめた様子もないから、何があったか聞かなくても大丈夫だろう。と思っていたし、何より、休暇前ということで仕事が膨大に溜まっており、自室に戻ることもほとんどできていなかったため、彼女と大した会話もできずにいた。

そんな中、ようやく夏季休暇に入り喜んでいた所、ダヴィンチちゃんに呼び出されて、ハワイ諸島でフォーリナー反応が検出されその調査のために、立香くん、マシュ、ジャンヌ・オルタたちと共にハワイ諸島へと行くことになった。部屋でゆっくりオルタと過ごそうと思っていた俺は少しだけがっかりしたが、寝る間も惜しんで、ウキウキとした様子でガイドブックを読んで付箋をつけているオルタを見て、任務だけど楽しい休暇になりそうだと思った。
「霊体で行くなんて、風情がないにも程がある。」と文句をつけたオルタたちと民間の飛行機でハワイ島に行くことになり、俺の分までじゃんけんに勝ってくれたオルタとファーストクラスで優雅なフライトを過ごした。空港に着くといつの間にかオルタの姿が見当たらなくなり、エコノミークラスで乗っていた立香くんたちと合流していると、突然目の前に水着姿のオルタが現れた・・・・普段布の下に隠されている真っ白な肌が惜しげもなくさらされた姿を見て、血液が沸騰するように熱くなり、全身が燃えるように熱かった。そんな状態で視線を空中にさまよわせてドギマギしていると、その様子を見た、ロビンフッドに「あんたもちゃんと男だったんだな」とニヤニヤした顔でからかわれて更に暑くなった。何も言葉を発さない俺に不満を持ったオルタが近づいてきて、「・・・・何か言うことないわけ?」と、俺の顔にぐっと体を近づけてきたが、顔を赤くさせたまま目をぎゅっと閉じて「すごく綺麗だよ!」と言うので精一杯だった。オルタがせっかく素敵な水着に着替えてくれたのに、こんな一言で終わらせるなんて・・・・・もっとたくさん褒めたかったのに・・・・と落ち込んでいると、「目、そらしてないで、ちゃんと見なさいよね。アンタのために選んだんだから」と両手で俺の瞼を押し上げたオルタは、俺と目があうと、こんな情けない俺に呆れた顔一つせず満面の笑みを浮かべていた。「ちょっと刺激が強すぎて・・・・徐々に慣れるから・・・・その・・・・時間をください」と小さな声で言うと、「しょうがないわね」と俺の手を握り締めた。・・・・ん?なんで刀?水着姿があまりにも衝撃的すぎてすぐに気がつかなかったが、彼女の腰には刀が携わっていた。いつもの剣はどこに?と思い、「刀かっこいいね」と声をかけると、彼女は、体を一瞬ピクリと反応させたあと、何故か、唇をうーっと突き出して頬を赤くさせた。その反応に首をかしげると、おずおずと鞘ごと刀を引き抜いて、「さ、触りたいなら触ってもいいわよ」と、俺から視線を外したまま刀を差し出してきた。せっかくだからと刀を受け取り、「すごい!かっこいいなー!」と一人で盛り上がる俺を見て、「えぇ、そうでしょう!私の刀が一番かっこいいでしょ!あのサムライの刀なんかより、わ!た!し!の刀が一番かっこいいでしょ!」と強めの圧が込められた言葉をかけられたため、俺は壊れた人形のように首を縦に振り続けた。そんな俺達のやりとりを見ていたマシュは何かに気付いたのか、「あ、先日佐々木小次郎さんの刀を名無しさんがべた褒めしていたのを気にしてたんですね!」と言い、その言葉を聞いた瞬間オルタはマシュの胸倉を掴んで、「違うわよ!気にしてなんかいないわよ!絶対に!絶対に!」と先程よりも圧がかかった言葉と共に余計なことを言うな!と言わんばかりの目を向けた。マシュの言葉を聞いて、先日カルデアの廊下でたまたま会った佐々木さんの刀を見て、「やっぱり刀、かっこいいなー!」と言った俺に「私、洋刀ですけど、何か文句でも?!」と不機嫌になってしまったオルタのこと思い出した。まさか、刀にしたのはそれが理由?と思い、ようやくマシュの胸倉から手を離したオルタのことを見つめると、俺と目があったオルタは、手を空中でぷらぷらさせながら「あー、ただカッコイイからこれにしただけよ!」と俺から目を外しながら言った。

その後、小悪魔系後輩ことBBちゃんによって特異点ルルハワになってしまったハワイ諸島でサバフェスが開かれることを知り、フォーリナーの調査もあるため、みんなの作品を購入だけしに行こうと思っていたが、サバフェスにジャンヌダルクが出展することや、彼女たちが優勝候補だということを知ったオルタの気持ちに火がつき、ジャンヌ・ダルクに対抗するために、俺とオルタはサバフェスに出展者として参加することになり、初心者2人では無理だ。ということで、立香くんたちにも手伝ってもらうことになった。
その後、たまたま出会った黒ひげさんとの戦闘に勝利した俺達は、彼が予約していた高級ホテルの一室を譲ってもらい、そこを拠点に過ごした。

ジャンヌ・ダルクたちに対抗して同人誌を作ることになったが、未経験者だらけの俺達は何から始めていいかもわかない状態で、他のサーヴァントから作り方を教えてもらい、なんとか手探りで作品を作っていった。今までたくさんの漫画を読んできたが、自分で描こうと思ったことは一度もなかった俺は、作品に対して何もアイデアが浮かばなかったが、意外にもオルタは、悩みながらではあるが、着々と物語の内容や、キャラクター、コマ割等決めていった。
元々、俺が漫画好きで部屋に自分の本を数十冊置いており、日記だけだと使用する文字や言葉に偏りがあるから、読み書きを覚えるのに便利そうだ。と、オルタに漫画を貸し、それをよく彼女が読んでいたが、以前まではパラパラとめるくように読んでいたのに、最近では、真剣に一コマ一コマ理解するように読んでいた。あの時は、ようやく好みの漫画と出会ったのかもしれない。と思っていたが、あの時から彼女は『勉強』していたのかもしれない。
悪戦苦闘した結果、サバフェス開始まで全体ページの半分も描ききれず、コピー誌で無料配布する。ということで、『ゲシュペンスト・ケッツァー』の初めてのサバフェスは終わりを迎えた。これで、後はカルデアに帰るだけ。そう思っていた・・・・ループするまでは・・・・

サバフェス終了後、早々にホテルに戻り就寝した俺達は、目が覚めると空港にいた・・・・
そこにはBBがおり、何故、俺達がループさせられたか。の話を聞いた。
フォーリナーXXに倒された女神ペレは力を失い、やむなくBBが女神ペレの神核をインストールし同化した。その彼女の力を取り戻すためには、サバフェスの優勝商品である、聖杯が必要になり、優勝をするまで永遠にループさせられることとなったそうだ。
幸いにも、オルタはやる気に満ち溢れており、何度も何度も新作を描き続けた。全員疲労困憊の状態になりながらも何度も何度もループを重ねた・・・・・フォーリナーXXを無事『休職』にすることで、フォーリナーの件を解決することができた俺達は、同人誌製作に専念することにした。


「ねぇ、この話面白いと思う?」
作品を描く手を止めずに、オルタは隣にいる俺に声をかけてきた。表情はいつも通りではあるが、声からは少し不安が感じられた。


「面白いと思うよ」
そんな彼女の不安が少しでも和らぐようにと俺は返答した。事実、そう思っている。


「本当に面白いと思う?」


「うん」
不安なのか、オルタは何度も今描いている作品が面白いか俺に確認してきた。今描いている話は、魔女に呪われた少女と、自身の醜さを嘆く怪物の物語。最後には怪物が人間に戻り、少女と結ばれる話だ。今までも色んな作品をオルタたちと作ってきたが、その中でも1番面白いと思っている。何度も面白いと伝えたが、それでも彼女は不安そうだった。


「ねぇ、オルタ。なんでこの話を書こうと思ったの?」
ベタ塗りの作業をしていた俺は、手を止めずに彼女に問いかけた。今まではカルデアにいるサーヴァントたちが登場するようなほのぼのとした内容の作品ばかりだったのに、今回は登場人物もオリジナル、内容も今までのほのぼのとしたものとは打って変わりシリアスな展開になるような作品だった。なんで彼女は突然これを描こうと思ったのだろう・・・・そう疑問に思わずにはいられなかった。俺の問いかけに一瞬手を止めた彼女は、数秒時間をおいた後、「・・・・別に。ただこれが描きたいと思っただけ」と答えた。


その後、こういうシーンを付け足したい。というオルタの意見から、それだとページが増える。だけど、このシーンがあった方がいい。それだと全体構成を見直すことになる。作業が増える。間に合わない。と、作業を間に合わせるのを優先して描きたい部分を我慢するか、作業が間に合わないのを覚悟で描きたいことを全て描くかの選択を迫られたオルタは思い悩んでしまったが、息抜きに立香くんとオルタが外に出た際に偶然出会ったジャンヌ・ダルク、刑部姫、葛飾北斎をオルタが負かせたという理由で、彼女たちが作業を手伝ってくれることになり、ネームを一から切り直す作業からやり直し、ジャンヌ・ダルク、刑部姫、葛飾北斎の手を借りて急ピッチで作業を進めた・・・・・


みんな全力を出し切り、ふらふらな状態になりながら無事『クロスビッキの魔法姫と怪物』を完成させた。会場に向かう途中でメイヴの妨害を受けながらも無事会場に到着した俺達は、見事サバフェスで1位を取り、聖杯を手に入れた。
BBとの約束通り聖杯を彼女に渡すために、俺達はマウナケア天文台へと向かった。そこで、オルタから、今回の件に関する不穏な情報を聞いた。BBが同化したと言っていた女神ペレの本拠地はキラウエア火山。しかし、彼女は、その地に一度も訪れていなかった。それに加え、BBが合流地に指定した場所は、女神ポリアフが住むマウナケアだった。ガイドブックをよく読んでハワイ島に関する知識を頭に入れていたオルタはそのことに気がついた。そして、その考えは見事的中し、悪巧みをしていたBBを成敗し、突如現れたゴージャスPさんの粋な計らいにより、サバフェスが1日延長されることとなった。そのことに喜んでいる中、ヒロインXXに連行されたBBがなにやら本を数冊置いていった。なんだろう。と近づくと、それは俺達が今まで描いた作品だった。それを見ながら、「こんなに描いたのか」「懐かしい」と、思っている中、オルタは何かを見つけて、俺をみんなから離れた場所に連れ出した。


「これが・・・・今回私たちが描いた本。こちらが・・・・私が本を描くきっかけになった本」


「微妙に・・・・違うね」


「そうね。でも、終盤までの展開はほぼ同じ。エンディングがちょっと違ってるけど、それだけ。・・・・で、恐ろしいことに気付いたのだけど、これ私が描いた本ってことになるわよね」


「そうだね」
目の前にある事実から考えるにそれしかないだろう。と思った俺は、大きく頷いた。すると・・・・


「・・・・・。は、は、は、は、恥ずかしいわああ!!自分で自分の描いた本に嫉妬して努力しようとしてた訳なの私は!?BBのヤツ、はじめからこのつもりで、未来の完成形の本をカルデアに置いておいたわね・・・この面白い本を乗り越えようとか、ホザいてた訳ね私!死ね!過去の私、死ね!今すぐ!あーーーー!!あーーーーー!!
突然オルタはそのまま頭を抱えた状態で、硬い地面に向かって地団太を踏んだ。


「お、オルタ?!」
普段見ることにない彼女の様子に俺は驚きの声をあげた。


「いっそ殺して・・・・最後の最後で、まさかのどんでん返しよ・・・・。わらわは知りとうなかった、こんな事実・・・・」
オルタは、あまりの羞恥心や怒りやら色んな感情のせいで、よくわからない言葉使いになってしまっていた。


「しばらくはダウンさせて・・・・。燃え尽きた・・・・燃え尽きたわ完全に・・・・」
両腕をぶらんと投げ出した状態でその場にうずくまった彼女に合わせて俺もしゃがみこんだ。


「そんなに恥ずかしがらなくて、どちらにしてもこの素敵な話を思いついたのも作り上げたのもオルタだってわかったんだからよかったじゃないか」
そう言いながら、彼女の背中をそっと撫でると、彼女の体は一瞬ピクっと動いた。


「でも、自分に嫉妬して躍起になってたなんて、独り相撲すぎて・・・・・死にたい」
はぁ・・・・と大きなため息をついてオルタは再び膝に顔を埋めてしまった。


その後、その場でうずくまり続けるオルタを半ば強引にホテルへと連れ帰り、次の日を迎えたが、相当ショックだったのか、恥ずかしかったのか、彼女はベットの中から1度も出てくることはなく、そのまま1日が終わろうとしていた。明日はカルデアに帰る日だし、放っておいても大丈夫だろう。と、ちょっと早いが最近徹夜続きで寝不足だったし俺も寝よう。とオルタが寝ているベットに潜り込もうと布団に手をかけた瞬間、その手をぎゅっと掴まれた。


「オルタ?」
俺の手を握り締めている人物の名前を呼ぶと、オルタは、のっそりとベットから体を起こした。その後、「ちょっと付き合って」と手を引かれて海へと連れて行かれた。毎晩のように騒がしかったはずの海が今日は何故か人が少なく、奥の方にはまばらに人影が見えるが、俺達の周りには誰もいなかった。


「遊ぶわよ」
ここに来る途中で手に入れた浮き輪マットを海に置きながらオルタは俺の手を掴んだ。


「えっ?今から?こんな夜に?!」
夜に浜辺を歩くことはあっても夜の海に入ったことがない俺は、驚きながらオルタに問いかけると、オルタはじっと俺の顔を見つめた。何か気に障ることを言ってしまっただろうか。と、彼女を見つめたまま自分の発言について思い返していると、突然オルタが俺の首元に手を伸ばし、ネックウォーマーのように首元まで布があるパーカーのチャックを一気に下まで下げた。


「えっ?!オルタ?!」
突然の彼女の行動に驚きの声をあげていると、あれよあれよという間にパーカーを脱がされた。


「海水で濡れるよりいいでしょ。それに、夜だからそれがなくても傷はあんまり見えないし・・・・」
「ほんと、よくこんな暑そうなもの着てられるわよね」と俺から剥いだパーカーを折りたたんで砂浜の上に置いたオルタを見ながら、やっぱり彼女には気付かれていたか。と苦笑いをした。ルルハワに来てから数度海へ泳ぎに行こうと誘われたが、その度に、泳げないから。肌が弱くて海水で肌荒れを起こす。と、適当に嘘をついて回避し続けていた。だけど、本当は、みんなの前でこの傷をさらしたくなかっただけだった。もちろん見られるのが嫌なわけではない。ただ、この傷を見て嫌な気分になる人もいるかもしれない。と思うと、なるべく避けたかった。きっと、オルタだけは俺のその嘘に気がついて、夜ならパーカーがなくても傷が目立たないだろ。という理由で海に誘ってくれたのだろう。「はい」とオールを渡された俺は、オルタを乗せた浮き輪ボートを海の中にひっぱり自分もその上に乗って沖の方に進めた。


「あーぁ。本当は、アンタと行きたいところいっぱいあったのに」


「知ってるよ。ガイドブックにいっぱい付箋つけてたもんね」


「はぁ、結局大して観光もできずに終わったわね」


「また来ればいいだけだし、俺は気にしてないよ」


「っ?!」
ずっと遠くの月を見上げていたオルタは俺の言葉を聞いて、視線を俺に向けた。その視線に、ん?と首を傾げると、彼女は嬉しそうに笑って「そうね」と答えた。オルタたちと最後に描いた話にも月の描写が出てきたのを思い出し、それをきっかけに脳内ではあの話のことが自然と思い出された。


魔女に呪われた少女と、自身の醜さを嘆く怪物の物語。
二人は惹かれ合い、すれ違い
共に魔女と戦い、やがて結ばれる。
呪いは変わらず、怪物は変わりもせず。
それでも二人は、二人のまま、愛を育むことを選ぶ。


「ねぇ、オルタ。勘違いだったら、すごく恥ずかしいんだけどさ、あの2人って俺たち?」
俺は手に持っているオールで沖に向かって漕ぎながら、マットの上に座っているオルタに問いかけると、あっさり「そうよ」と返事が返ってきた。


「じゃあ、怪物が俺で、魔法姫がオルタ?」


「別に、アンタがどっちとか、私がどっちだとか思って描いたわけじゃないわよ。ただ私はあの物語を通して肯定したかったの」


「肯定?なにを?」


「種族や姿、形が違ったとしても愛は存在する。ということを」
俺の顔を見て微笑んだオルタを見て、俺はオールを漕いでいた手を止めて目を大きく見開いた。


「最初は、怪物が人間に戻って姫と結ばれて幸せになる展開を考えていたわ。だけど、別に、同じじゃなくたって愛は生まれる。育むことだってできる。だから、怪物は怪物のまま、姫は姫のままで幸せになる結末に変えた」


「そっか」
立香くんやマシュたちが俺達の関係について何か言ってくることはないし、むしろ、温かく見守ってくれて、応援までしてくれている。だけど、中には俺達の関係を良く思わない人たちもいる。サーヴァントと人間が結ばれて幸せな未来が訪れることはない。役目を終えればいつか別れがくる。そんな否定的な事を色んな人たちから何度も言われた。まぁ、それを言われたからといって、オルタとの関係を終わらせようと思ったことは一度もないし、距離を置こうと思ったこともないけど、少しだけ暗い気持ちにはなった。


「あ、勘違いしないでよ。別に周りに認められたいとかそういう意味じゃないからね」


「わかってるよ」
彼女は、そういう言葉をかけられている俺を気遣ってくれたのかもしれない。俺達は何も気にせず愛し合っていい。幸せな未来はきっとくる。と。周りに肯定を求めたのではなくて、俺に肯定を伝えてくれたことがとても嬉しかった。そう思うと、目が熱くなり、鼻の奥がツンと痛くなった。こぼれかけた涙を拭うように、オールを握った手で目を擦った。すると・・・・


「うわっ!」
突然反対側の腕をオルタに引っ張られて、マットの上に勢いよく膝をついた。その勢いのせいで、マットの上に海水が多少かかったが、沈むようなことはなかったので、安心した。しかし・・・・


「オルタ・・・・オールが・・・・」
突然オルタに腕をひっぱられた俺の手からはオールが落ちて海に沈んでしまった。張り切って漕いでしまったため結構浜辺から距離が離れてしまっていた。まぁ、最悪俺が泳いでマットを運べばなんとかなるか・・・・。


「別にそんなのなくたってこの距離なら帰れるわよ。それに・・・・」
俺の腕をもう一度ひっぱったオルタは俺の肩を押して、自分が座ってた所に俺を寝かせた。


「私はずっとこのままでもいい」
片足をあげてあっという間に俺の上に跨ったオルタはそのまま身体をぺたりと俺にくっつけた。俺の胸板にオルタの胸が押しつぶされるような形で乗っかり、その刺激的な感触や光景に一瞬体が強張った。


「お、オルタ!?」
今の状況に戸惑い、どこもかしこも刺激的すぎて一体どこに目線を向けていいのかわからずただただ視線をさまよわせていると、突然頬にちゅっとキスをされた。


「今日で最終日なのに一体いつ慣れるのよ」
ここに来た初日に慣れるまで少し時間をください。と彼女に言っていたのを思い出した俺は言葉に詰まった。


「えっと・・・・」
この刺激的な光景に慣れるなんて一生無理かもしれない。と、返答に困っていると、また、ちゅっと頬にキスをされた。意を決して目を開いて彼女を見ると、熱のこもった瞳で俺を見つめるオルタと目が合った。


「オルタ」
俺は彼女の名を口にしながら、顔を傾けて彼女の唇に自分の唇をそっとくっつけた。


「オルタ、愛してる」
キスの合間に彼女にそう伝えると、満面の笑みを浮かべたオルタは「私も」と言って、俺の唇に噛み付いた。乗っているマットが俺らの動きに合わせて激しく動く中、満天の星空の下、2人しかいない海で息が切れるほど激しくキスを繰り返した。愛してる。その気持ちを、余すことなく伝えるために。


・・・・突然のイルカの襲撃により、浮き輪マットが転覆し、「こ、こんな夜遅くに海で2人でイチャイチャするだなんて!破廉恥極まりないです!」と自称『お姉ちゃん』がやってきてオルタが激怒するのは数分後の話である。


home|