【絆レベルが4の時の話】


「はぁ・・・・・・」
定期検査の結果を見た名無しの口からは思わずため息がでた。前回よりも悪くなったその結果を見てダヴィンチからは、万が一のことを考えて。と魔力使用を禁止された。


「せっかく検査が終わったらオルタと種火集めしに行こうと思ってたのにな・・・・」
今後、魔力使用を制限する為の機械を体内に埋め込むことになり、それについてダヴィンチと医療スタッフと話し合っており、気づけば日付が変わっていた。深夜になり、人気がなくなった廊下を歩いていると、シミュレーションルームが使用中になっていることに気づいた。こんな時間に一体誰が?と興味本位で名無し部屋の中に入った。
部屋に入ると、まさに今シミュレーションの真っ最中のようで、戦闘の激しい音が鳴り響いていた。緊急のシミュレーションかなにかだろうか?と思ったが、さっきまで一緒にいたダヴィンチからそんな話を聞いていなかった名無しは疑問に思いながら周りを見渡すと、そこには一人のスタッフがいた。


「ムニエルさん。こんな時間にどうしたんですか?」


「えっ?!あ、名無しくん!それが聞いてくれよ。今日は、いつもよりも早く仕事が終わったからゆっくり休めると思ってたのに、廊下を歩いてたら、急に、ジャンヌオルタさんに声をかけられて・・・」


「えっ、オルタに?」
普段、オルタとムニエルが会話している所を見たことがなかった名無しは、オルタがムニエルに声をかけるなんて、一体何の用があったんだろう?と首を傾げた。


「そう。それで、いきなり、これからシミュレーション使いたいから動かせ!って言われて、今この状況なんだよ」
よっぽど今日は早く休みたかったのか、椅子の上で体を90度曲げたムニエルは落胆した表情をしていた。オルタがシミュレーションを使って何をしたかったのだろう?と、目の前にある大きなモニターに映し出された、彼女の姿を見た。


『ちょっとメガネ!次行くわよ!次!早くしなさい!』


「えー!まだやるんですか?!もう3時間ですよ。それに、この戦闘プログラムはギルガメッシュ王が自分の為に組み立てた特別なプログラムなので、この先何が出てくるのか俺も知らないですし、危ないので、ここら辺でやめましょうよ」


『はぁ?まだやめるわけないじゃない!ぐだぐだ言ってないで早く進めなさい!』
戦闘真っ最中のジャンヌオルタから通信が入り、ムニエルは、これ以上やるのは危険だからやめよう。と声をかけていたが、彼女はその言葉を聞き入れなかった。
現在、ジャンヌオルタがやっている戦闘シミュレーションは通常のプログラムとは異なり、最近レベルがカンストし通常の戦闘プログラムでは物足りなくなったギルガメッシュ王が自ら作ったプログラムであるため、どんな敵がでてくるかここにいる誰も知らないし、この先何が起きるのかも誰もわからない。3時間戦い続けていることもあり、確実に疲労しているジャンヌオルタにこの先のプログラムをクリアすることはできるのだろうか。と名無しは心配になった。


「それに、これ、前にセイバーオルタさんも試験段階でチャレンジしたらしいですけど、最後まで行けかったみたいですよ」


『へぇ、ますます面白いじゃない。あの女がクリアできなかったものを私がクリアして鼻っ柱折ってやるわよ!』


「あ、ジャンヌオルタさん!あー・・・・また通信切っちゃったよ・・・・」
通信を強制的に切られたムニエルは頭を抱えた。


「ギルガメッシュ王が作ったプログラムか・・・・」
あのギルガメッシュ王のことだ、セイバーオルタがクリアできなかったからといってレベルを落とすようなことは絶対にしないだろう。むしろ、もっとレベルを上げているはず。と名無しは考えた。セイバーオルタのレベルはたしか、75。ジャンヌオルタのレベルは50。レベルのことだけ考えると、セイバーオルタにクリアできなかったものをジャンヌオルタがクリアすることはまず難しいだろう。


「でも、なんで、オルタは急にシミュレーションを?」
わざわざムニエルさんを呼び止めてまで、今日戦闘シミュレーションを行いたかった理由はなんなのだろう?と疑問に思い、ムニエルさんに問いかけた。


「あー。それは、今日、立香くんが種火集めにジャンヌオルタさんを連れて行ったじゃないですか」


「うん」
昨日の夕食時に立香くんから明日の種火周回にオルタを借りたいと言われ、隣にいた彼女へ確認を取り、今日同行していることは知っていた。


「で、今日のメンバーの中にセイバーオルタさんがいたんですよ。そこで、弱い。とか、レベルが低い。とか色々言われたみたいで、それで火がついちゃったみたい」


「あー。なるほど」
2人のオルタが顔を合わせる度にいつもケンカしていた姿を目撃していた名無しはその場がどういう状況だったのかを察した。


「もう勘弁して欲しいですよ」


「ごめんね」


「なんで名無しさんが謝るんですか。これは全然名無しさんのせいじゃないですよ」


「でも、オルタのレベルがセイバーオルタさんに劣っているのは俺のせいでもあるから。俺がもっと種火周回に一緒に行けてれば彼女のレベルはもっと上がってただろうし、今日馬鹿にされるようなこともなかったはずだ・・・・・」
立香のサポートでジャンヌオルタが種火周回を参加する時は、獲得した種火の1割をもらっている。立香は、気をつかってもっと持って行っていい。と言っているが、日に日に増えていく立香くんのサーヴァントのレベル上げの分がなくなってしまうからと名無しは断っていた。ジャンヌオルタのレベル上げは、ほぼその種火だけで行っており、名無しと一緒に行ったシミュレーションで獲得した種火は、片手で数えれるほどしかない。自分がオルタと一緒にいければ獲得した種火は全てオルタに使ってあげられるのに、それをしてこなかったのは、全部俺の責任だ。と名無しは自分の無力さを責めた。


「そんなことないですよ!名無しさんはっ!「きゃあ!」」
ムニエルが一生懸命自分の思いを名無しに伝えようとした瞬間、ジャンヌオルタの悲鳴が聞えてきた。すぐに大画面へ名無しとムニエルが視線を向けると、ジャンヌオルタに向けて無数の攻撃が仕掛けられていた。


「オルタ!」
その様子を見た名無しは思わず彼女の名を叫んだ。


「くっ!クッソ!なんなのよこれ!」
ジャンヌオルタは、四方八方から敵に襲われながらもそれを防いでは攻撃してを繰り返し戦い続けていた。ムニエルがすぐに全体が見えるように画面を広範囲に広げた瞬間、名無しとムニエルは言葉を失った。


「なんだこの数は・・・・・」
ジャンヌオルタを囲むように大量のオートマタがいた、その数はざっと見て約100体ほどだろうか。いや、それ以上か?こんな数を彼女一人で倒せるのだろうか・・・・と2人はすぐに心配になった。


「がぁっ!」
前方の敵を防いでも後方から攻撃され、それを防いでもまた違う方向から攻撃され・・・・その繰り返しで攻撃を浴び続けているジャンヌオルタはこの数分の間で所々から血を流しボロボロになっていた。


「ムニエルさん!すぐに強制終了を!」


「さっきからやってる!でも、弾かれるんだ!」


「弾かれる?・・・・まさか」
あの王のことだ。生易しいものを作るはずがない。恐らく、クリアするか、あるいはそこで死を迎えるまで帰還できないように作ったに違いない。


「・・・ま、まぁ、あそこで倒れたとしても、プログラムは終了して戻ってくるし、大丈夫ですよ」
このどうしようもできない状況に思わずムニエルは空笑いをしながら名無しの顔を見た。


「何が大丈夫なのかさっぱりわからない」
画面の中で大量のオートマタからの攻撃を受けてボロボロになっていっているジャンヌオルタを見て名無しは声を発した。


「えっ?」
普段の名無しからは絶対に聞くことがないであろう地を這うような低い声が聞こえ、ムニエルは一瞬空耳かと思った。


「オルタが傷ついてるのに、何が大丈夫なのか俺には全く理解できない」


「ちょ、ちょっと名無しさん落ち着いてください」
自分に向けられた冷酷な目を見てムニエルは全身から汗を吹き出しながら慌てた。ムニエルはこの目を昔一度だけ見たことがあった。あれは、まだ名無しがマスター候補生として訓練していた時だった。候補生たちが1対1で戦闘を行う訓練の時に、相手を一瞬で負かした名無しは今と同じ目をしていた。ただ、それを見たのは一度きりで、その後は、訓練のたびにバイタルが乱れ苦しむ彼の姿しか見ていなかったし、その後すぐに候補生を辞退し、自分たちと同じスタッフとして働く姿しか見ていなかったムニエルはすっかりその目のことを忘れていた。


「ムニエルさん、俺もあそこに行きます」


「えっ?!名無しさんが?」


「えぇ。でも、きっと俺だけじゃ彼女を無事に戻すことができないと思うので、俺をあそこに行かせたあとすぐに誰かサーヴァントを呼んでください」


「えっ、でも・・・・・」


「いいですね?!」


「はいっ!」
名無しに強く言われたムニエルは反射的に大きな声で返事をした。


―――――――――――――――


「っぐ!」
倒しても倒しても数が減らない敵にジャンヌオルタは眉を寄せながら奥歯を噛み締めた。


「喰らえ!」
旗を握り直し、前方からまた飛んできた敵を力一杯殴り倒したが、その敵の後ろから更に敵が現れ、右腕に攻撃を受けた。先程から十数体倒したと思うが、まだまだ多い敵を見て心が折れかけていた。しかし、ここから逃げ出すなんて考えは彼女にはさらさらなかった。


「キリがない!ここは一気に宝具で!・・・・これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮──『吼え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)』!!」
ジャンヌオルタは前方にいた数体の敵を宝具で一気に焼き尽くした。が・・・・


「そんなっ!・・・・ぐあっ!」
突如左足に激痛が走り、引っ張られたその足に従って体が床に叩きつけられた。そして、その拍子に手から剣が離れ遠くに落ちてしまった・・・・・


「なんなのよ!」
激痛の正体を見るためにジャンヌオルタは目線を左足に向けると、足には、皮膚を突き破りながら刺さっているオートマタの手があった。離れた所にいるオートマタから伸びたそれをすぐに足から引き抜いたが、足からはダラダラと血が流れ、何か仕込んであったのか、足が痺れて立ち上がることができなかった。
そんな絶望的な状況の中、倒れた彼女にとどめを刺そうと、周囲にいる敵が一斉に飛び掛ってきたのを見て、ジャンヌオルタは、ここまでか・・・・と覚悟を決めた。その時・・・・・


「『防護壁』!」
突然ジャンヌオルタを守るように、白い壁が現れた。


「アンタなんでここに・・・・?!」
今まさに自分のことを守ってくれた名無しのことを彼女は驚いた顔で見つめた。


「オルタ、これ借りるね」
彼女から離れた所に落ちていた剣を拾い上げ、目の前にいた敵を切り裂き、後ろにいる敵を瞬間強化した腕で殴り飛ばした。その後ろから現れた敵には、ガンドを撃ち、その隙に横から襲い掛かってきた敵の足を蹴り倒し頭を踏み潰した。


「す、すごい・・・・」
ジャンヌオルタは一切無駄のない動きでどんどん敵を倒していく名無しを見て驚いた。今まで自分が戦い、彼がそれのフォローをすることはあっても、こんな風に前線に立って戦っている姿を見たことがなかったから、今、目の前で次々と敵を倒していく姿を見て、彼にこんな戦闘能力があったことを初めて知った。
その後も、剣を敵に投げつけて、刺さった剣を掴んで宙で前転し、抜いた剣で更にその後ろの敵を倒していた。


「アンタ、結構戦闘慣れしてるのね」


「だてにマスター候補生として訓練を受けていたわけじゃないからね」
ジャンヌオルタを守っている防護壁に近づく敵にガンドを撃ちながら、名無しは彼女の問いかけに答えた。数は着実に減ってきたものの半分以上はまだ残っている。彼女がまだ戦えそうなら・・・・と、視線をジャンヌオルタに向けたが、足を痛めて立ち上がれないまま床に倒れており、所々血を流している姿を見て、一人で戦う決心をした。

剣を握ったまま体を一周させ周りにいた敵を一掃し、一列に並んでいる敵に炎の魔術をぶつけた。


「はぁ・・・・はぁ・・・・」
久しぶりにこれほどの魔力を使用したこともあり、今にも倒れそうな程のめまいが襲い名無しの息は上がっていた。後ろに空いている空間を見つけ、そこへ行き、魔術で近くにいる敵を一掃しようと考えたが、少しオルタから離れると、敵が防護壁へ一斉に攻撃をしかるため、そこから移動することができなかった。


「う゛っ!」
ジャンヌオルタに近づく敵にガンドを撃っていると、突然、右首に激痛が走り、痛みのあまり動きが止まった。それと同時に、ここにくる直前に言われたダヴィンチからの魔力使用禁止の言葉が頭の中で警告のように再生され、これ以上の魔力の使用は危険だということを察した。
名無しはすぐに剣と体術のみに戦い方を変更し、動けないジャンヌオルタを守るように張った防護壁の維持にだけ魔力を使用した。
剣で敵の攻撃を防ぎ、後ろから襲い掛かってきた敵を羽交い絞めにした時、後ろから高速の攻撃を喰らい、ジャンヌオルタのいる防護壁の前まで飛ばされた。


「うっ・・・・・いった・・・・・」
モロに攻撃を喰らった名無しは全身が痛みすぐに立ち上がることができなかった。


「ちょっと!大丈夫?!さっさと令呪寄こしなさい。私が倒すわ」


「ごめん。それはできないみたいなんだ」
恐らく令呪を使用するために追加で魔力を使用すれば確実に先程と同じ激痛が右首を襲い、もしかすると・・・・・ということが、名無しの頭の中に浮かんだ。


「はぁ?なんでよ!」


「今は説明できない。オルタは、ここにいて。俺は大丈夫だから」
攻撃を受けた時に切ったのか、額からダラダラと流れる血のせいで片目が開けなかったため、左目を拭いながら名無しが後ろにいるジャンヌオルタのことを見た瞬間、彼女は目を見開いて固まった。


「アンタ、血が・・・・・」


「あぁ。これくらい大丈夫。平気だよ」
彼女の不安そうな表情を和らげるために名無しはにこっと笑ったが、彼女の表情は和らぐどころか、もっと辛そうなものに変わった。
打ち所が悪かったのか、再び剣を握ろうと腕に力を込めたが、全く力が入らず握ろうとすればするほど腕が震えた。


「アンタはもう下がりなさい!私が戦う!」
その様子を見たジャンヌダルクオルタは、防護壁を叩いて名無しにここから出すよう呼びかけた。しかし・・・・


「それはできない」
名無しは防護壁を解除することなく、目の前の敵と戦い続けた。強化の魔術は使用できないため、腕や足を掴んでのパーツを折って分解し続けた。


「なんでなのよ!ちゃんと説明しなさい!」


「これ以上は魔力が使えないんだ!」
このまま理由をあやふやにしていても彼女は絶対に納得しないだろう。と思った名無しは素直に理由を話した。


「はぁ?カルデアからの魔力はきてるんでしょ?使えないわけないじゃない!ていうか、この壁をさっさと消しなさいよ!」


「それはできなっ・・・・・っぐあ!」
旗を杖のようにして立ち上がろうとしているジャンヌオルタに敵と戦いながら返事をした瞬間、また首に激痛が走り名無しは右首を手で押さえた。


「ちょっと、どうしたのよ!」


「うっ!ぐっ・・・・・」
心配そうに自分に声をかけるジャンヌオルタに名無しはすぐに笑顔で「大丈夫」と伝えたかったが、あまりの激痛に耐え切れず、床に両手を付いた名無しは、痛みをこらえるために奥歯を噛み締めた。


「ねぇ!何があったのよ!いい加減ここから出しなさい!っは!」
今までどんなに叩いても開くことがなかった防護壁がしゅんっ。と突然消えて、壁に手をつけていたジャンヌオルタの体は、床へと投げ出された。


「しまった・・・・!」
防護壁が無くなったのを見た名無しは、まずいと思いもう一度張り直そうとしたが、間に合わず、敵が一斉にジャンヌダルクオルタに襲いかかろうとしていた。


「間に合ってくれ!」
彼女を守るように、柱状に出した炎で敵を燃やし尽くし、彼女に襲いかかろうとしていた敵を一掃したが・・・・


「ぐはっ!」
名無しは口からおびただしい量の血を吐き出してその場に勢いよく倒れた。


「名無し!」
オルタはすぐに立ち上がり足を引きずりながら名無しへと駆け寄った。その間にも敵は襲いかかってきたが、旗でその全ての敵を殴り飛ばした。


「すごい血の量・・・・大丈夫?!目を開けなさい!」
口から出た血のせいで血まみれになった名無しのことを顔をぐしゃぐしゃに歪めながらジャンヌオルタは抱きしめた。


「私が勝手にやったことなんだから、アンタがここまで頑張る必要なんてないじゃない!放っておけばいいのに、なんでここまでするのよ!」
かすかに呼吸は聞えるが、今にも消え入りそうなその命の灯火を目にして、ジャンヌオルタは焦ったように声をかけた。


「そんなの決まってる・・・・君のことが・・・・好きだから・・・・大好きだから・・・・」


「っ!何言ってるのよ!私のことなんて好きになるわけないじゃない!こんな女・・・・誰も好きになんて!」


「君のことが大好きだから・・・・・傷ついて欲しくないんだ・・・・・だから、その為なら俺は・・・・俺は・・・・・」
血で濡れた手をジャンヌオルタの頬へと名無しは伸ばしたが、その手は彼女に届くことはなく、重力に従って床へと落ちた・・・・。


「ちょっと!名無し!返事をしなさい!目を開けなさい!名無し!名無し!」
心臓の辺りに耳を当てたが微かにしか聞えないその音を聞いて焦りを感じた。早くここから名無しを出さないと!だが、周りには、まだまだたくさんの敵が残っている。さっき一人でも倒しきれなかったのに、名無しを守りながらなんて戦えるのだろうか・・・・。いや、さっきこいつは自分を守りながら戦い続けた。こんなにボロボロになっても守り続けた。今度は私がこいつを守らなきゃ。私は名無しのサーヴァントなんだから!そう思いながらジャンヌオルタは床に落ちている自分の剣と旗を握り直した。


「どこからでもかかって来なさい!全員ぶっ殺してやるわよ!腕がもげようが、足がもげようが何だっていい。こいつは絶対に死なせない!」
剣を目の前に構え周囲にいる敵に向け、じりじりと接近してくる敵に立ち向かうため、両足に力を込めたその瞬間、「ハハハハハ!」という高笑いが聞えてきた。


「よく吼えた雑種!あとは我(オレ)に任せよ。・・・・矢を構えよ、我(オレ)が赦(ゆる)す! 至高の財をもってウルクの守りを見せるがいい! 大地を濡らすは我が決意! 『王の号砲』(メラム・ディンギル)!!」
突如、無数の光が敵に降り注ぎ、まだ残っていた敵たちを一撃で全滅させた・・・・・。その技には見覚えたがあるジャンヌオルタは、眉間に皺を寄せながら、後ろを振り向くと、「この程度の敵も倒せぬとは、低レベルにもほどがあるぞ雑種」と言いながら、ジャンヌオルタたちの元へ賢王様が近づいてきた。


「アンタがこんなめちゃくちゃなもの作ったからこんなことになったんじゃない!」
敵が全滅したのを確認したジャンヌダルクオルタは、後ろで倒れている名無しを抱きかかえた。


「これを作ったのは我(オレ)ではない。若き我(オレ)の方だ。我(オレ)にこんなものを作っている暇等ない。それに、勝手に使用したのは貴様だろう。低レベルの癖に背伸びをするからこんなことになるのだ。この我(オレ)の手を煩わせた代償は大きいぞ、雑種」


「うっ・・・・助けてくれたことは感謝してるわよ・・・・それに勝手に使ったことも反省してるわ・・・・・」


「ふん。まぁ、よい。・・・・それはもうダメか?」
ギルガメッシュは、ジャンヌダルクオルタの腕の中で目を閉じている名無しに目を向けた。


「ダメなわけないでしょ。ていうか、ダメになんかさせないわよ!」


その後、すぐにシミュレーションルームから帰還すると、そこにはダヴィンチと医療スタッフ全員がスタンバイしており、すぐに名無しは、医務室へと運ばれた。医務室に着いた瞬間、一度心臓が止まったりもしたが、輸血に魔力の補給等、最善の治療を尽くし、名無しは一命を取り留めた。


そして、その事件以降、絶対に魔力が使用できないように。と、ダヴィンチは、魔力の使用を制限する機械を名無しの心臓部分に埋め込んだ。この機械が埋め込まれている限り、名無しは少しの魔力も使用することはできない。
ただし、死ぬかもしれないという危機的状況に陥った時にだけ使用できるように。と、心拍数が250以上になった時のみ機械の『ロック』が『解除』されるようになっており、解除された場合すぐにダヴィンチの元に通知が届くようになっている。


―――――――――――――――


「やっと目を覚ましたわね」
ベットの淵に腰をかけていたジャンヌオルタは、目覚めた名無し頬を安心した表情で撫でた。


「オルタ・・・・・もしかして、またずっとここにいてくれたの?」


「前みたいに何週間も目を覚まさなかったらどうしようかと思ったわ」
名無しの胸に倒れこんだジャンヌオルタは、目を閉じて、規則正しい速度で鳴る心臓の音を聞いていた。


「心配かけてごめんね」
そんな彼女の頭を名無しは、力が入らない腕でゆっくりと優しく撫でた。


「オルタは、メフィストにやられた傷はもう治った?」
メフィストとの戦いで、たくさん傷ついた彼女の体見ていた名無しは心配で問いかけた。


「あんなの、名無しの魔術でほぼほぼ治ってたわよ」


「そっか。それならよかった」


「ねぇ・・・・。お願いだから、私の前からいなくならないで」
名無しの胸に顔を埋めたままのジャンヌオルタは、くしゃくしゃになるほど力強く布団を握り締めて懇願した。


「ごめんね・・・・」
名無しはそんな彼女を安心させるように頭を優しく撫で続けた。


「・・・・もし、死んだら絶対に許さないから」


「君を守って死ねるならそんな幸せなことはないよ」


「死んだら地獄まで追っかけてやるんだから」


「ははっ。君が来てくれるなら死ぬのも怖くないね」


「バカ・・・・」



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