「オルタおはよう。今日も元気そうだね」
食堂の隅に座ってコーヒーを飲んでいたジャンヌオルタに名無しは声をかけた。「さっき自室に行ったんだけどいなかったからここにいるかな。と思って来たんだ」と言葉を続けてオルタを探していたことを伝えた。


「気安く話しかけないでください」
そんな名無しをちらっと一度見たオルタはすぐに反対方向に顔をそらし、いつもの不機嫌そうな表情を浮かべた。


「あ、ごめんね。今日、立香くんたちと一緒に種火回収しに行ってくれるから、体調どうかな。と思って。でも、元気そうならよかった」
そんな不機嫌そうなオルタを気にせずに名無しは笑顔で話しかけ続けた。相変わらず、オルタはそっぽを向いたままだったが、名無しの言葉を聞いて少しだけ、表情が柔らかくなったようにも見えた。


「・・・・・あんたが私と一緒に行けばいいだけの話じゃない」
拗ねたような顔でボソボソと言ったオルタの言葉を聞いて名無しは少しだけ困ったような表情を浮かべた。昨日の全体ミーティングの後に彼が医療スタッフに呼ばれていた姿を見て、明日はその日か。と気づいた。今日の種火はクラスがランダムで出現するため、マスターからジャンヌオルタをサポートにお願いしたい。と頼まれていたことも知っていた。その時にすぐに、あー、明日のオルタの機嫌は悪いな。と察した。


「そうだね。俺もオルタと一緒に行きたいな。この前2人で行った森にまた行きたいね。ちょっと敵が強くてオルタに無理させちゃったけど、色んな花が咲いてて綺麗だったよね」
意図的なのか天然なのか話をそらした名無しは先日2人で種火回収しに行ったレイシフト先の思い出を話し始めた。その横でオルタもそのことを思い出したのか、すぐに鼻で笑った。


「あんたは一人で子供みたいにはしゃいじゃって、ほんとみっともないったらありゃしなかったわよ」


「ははっ。オルタと久しぶりに一緒にいれたから嬉しくなっちゃって」
そう名無しが伝えると今までそっぽを向いていたオルタは彼の方へと顔を動かした。その顔はいつもの青白い色ではなく、耳まで真っ赤に染まっていた。


「あ、アンタはなんでそんなことを恥ずかしげもなくいつも言ってくるのよ!」


「えっ、でも本当のことだし。俺はオルタが好きだし」
無邪気な笑顔を向けながら素直にオルタへの思いを伝えれば、オルタは恥ずかしさの限界を超えたのか、ダンっ!と音を立てて机を叩きながら立ち上がった。


「わ、私はアンタのことなんて大嫌いだから!」
真っ赤な顔をさせたまま大声で嫌いと叫んだオルタを見て、名無しはいつものようにニコニコと笑顔を向けていた。言われた言葉と表情がまったく合っていない。


「うん。それでもいい。俺は君が好き」


「し、信じられない!もう行くわ!」
真っ直ぐに気持ちを伝えてくる名無しの視線と言葉に耐え切れなくなったオルタは逃げるように席を離れた。相当嬉しかったんだろうな。とその現場を見ていたサーヴァントや職員たちはみんな同じことを思っていた。


「気をつけてね。みんなとケンカしないようにね」


「子供じゃないんだから言われなくたって大丈夫よ!」
怒りながらカップを片付けるためにこちらに向かってきたオルタは返却口にカップを戻しながら「ごちそうさま。まぁまぁの味だったわ」と吐き捨てるように言って去っていた。まぁまぁの味を毎日飲んでくれるなんて・・・・。まぁ、色々あって生活リズムが一定じゃない名無しがここに来るのを待つために食堂に来ていることは知っているがな。そんなに会いたいなら自室に行けばいいと毎回思うが、彼女は素直じゃないから難しいのだろう。


「あ、名無しくん。こんな所にいたんだね。君が検診に来ないって医療スタッフが心配してたよ」
オルタが食堂を去って行った後に入れ替わるように職員が一人名無しの元へとやってきた。やはり今日は検診だったのか。私は詳しく彼のことを知らないが、以前、レイシフト先で魔術を使用した際に心臓発作を起こし意識不明の状態になってから、名無しの検診は事細かく行われている。きっと次に食堂で会えるのは夜だろう。いつも笑顔で明るい彼だから無理をしていても周りがまったく気づけないのだ。だから、すぐに異変に気づけるように2週間に1度検診を行っている。その日が来るたびに心配なのか、それとも相手にしてもらえないからか、オルタは心底不機嫌になる。おそらく理由は半々だろう。


「すみません。オルタに一目会いたくて。すぐに行きます」
呼びにきてくれた職員へ謝罪をし、名無しはすぐに席を立った。検診の日は朝から何も食べられないために彼の大好物をたくさん乗せたプレートを夕飯に出すようにしている。これは彼のサーヴァントではない私が唯一できる彼への応援方法だ。


「ねぇ、マシュ。あの二人、ここが食堂だってわかってるのかな」


「どうでしょう。お二人はいつもあんな感じなので」
中々集合場所にこないジャンヌオルタを迎えにきたマスターとマシュは、食堂の片隅で先程の2人のやり取りを見てしまい、まだ結構な数のサーヴァントと職員たちが残っている食堂で堂々と素直な想いを伝え続けていた名無しを見て疑問を口にしていた。


「あ、立香くん!今日はオルタのことよろしくね」


「あ、うん。ケガさせないように気をつけます・・・・」


「ありがとう。あ、エミヤさん。今日の夕飯はいつものお願いします。あと、オルタ用にステーキを用意しておいてもらってもいいですか?きっと疲れて帰ってくるだろうから」


「了解した。肉の準備をしておこう」
普段あまり人にお願いやワガママを言ったりしない彼だが、唯一彼女のためにはそれを言うことがある。こんな小さな願いではあるが、彼の願いを聞くと何故か安心する。


「よろしくお願いします。あ、ごめんなさい。今すぐに行きます!」
名無しが来るのを待っている職員に気づき彼は慌てて食堂を去っていった。きっと今晩もオルタは心配して彼が食堂にくるのを待ち続けるのだろう。本当に素直じゃないサーヴァントだ。


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