「ルールはシンプルにどっちかが倒れるまで殴り続ける。でいいでしょ?」


「くひひひひ!いいですね!実にシンプルでいいですよ!」


あの後シミュレータールームに来た俺達は、ジャンヌオルタ・俺ペア、メフィスト・立香くんペアに分かれて戦闘を行うことになった。戦闘はあくまでサーヴァントが行い、マスターは戦闘補助のみ行って良いというルールになった。立香くんがずっと探していたメフィストの戦闘シミュレーションの相手がようやく見つかったが、立香くんは随分と浮かない顔をしていた。このままオルタとメフィストを戦わせても大丈夫なのだろうか・・・・・


「オルタ、この戦いがもし俺の為なんだったら・・・・」


「勘違いしないで、これはアンタのためじゃない。私だけのためだから」
俺の言葉にかぶせるように否定の言葉を口にしたオルタは俺の方を見ることなく背中を向けていた。


「でも・・・・・」
そうは言ってもこうなった原因は明らかに俺がメフィストに言われた言葉のせいだ。その為にオルタに戦ってもらうなんて・・・・・・


「いい?私は、大事な奴っ・・・・・自分のマスターを侮辱されて腹立ててるだけなんだから」


「オルタ・・・・」
俺は、未だに背を向けたままのオルタを見つめて彼女の名を呼ぶことしかできなかった。


「どうせアンタは『それ』が付いてる限り魔力は使えないんだから、そこでただ突っ立って待ってなさい!アイツは私がボッコボコにしてきてやるから!」
そう言ってオルタは俺に背を向けたまま部屋の真ん中へと歩いて行った。そんなオルタの様子にため息をついた俺は未だ心配そうな顔をしている立香くんに近づいた。


「はい、立香くん。これ持ってて」


「ん?名無しさんこれ何?・・・宝石?」
そう言って立香くんは俺が差し出したものを見て首を傾げた。


「うん。その宝石には俺の魔力が込められてるから、何かあった時は身を守ってくれるよ」
ダヴィンチちゃんに『あれ』を付けられて魔力を自由に使えなくなってから、いつも護身用としてペンダントにして持っている宝石を立香くんに渡した。


「えっ?いいの?」


「うん。色々あって今ダヴィンチちゃんに魔力の使用を制御されてて使えないんだ。だから、防護魔術をかけてあげられない代わりにそれを持ってて」


「えっ、魔力が使えないって、やっぱりあの検査がっ」


「アンタ何してんのよ!さっさとこいつ殺るわよ?」
立香くんが何かを言いかけた声にかぶるようにオルタの声が遠くから聞えてきた。


「ごめん。すぐに戻るよ。じゃあ、立香くんちゃんとこれ握り締めててね」
宝石を手に乗せた立香くんの手を強く握らせた俺はオルタの近くへと向かった。これで、立香くんの身に何かが起きても大丈夫だろう。


「うふふ。うふふふふ。楽しみですね。体をバラバラにしてあげましょう!アハハハハ!」


「オルタ気をつけてね。恐らく普通の攻撃じゃないだろうから」


「わかってるわよ。まぁ、アンタは何の心配もしないでそこで待ってなさい!」
そう言ってオルタは先陣をきって目で追えない程のスピードでメフィストに向かって突進して行った。メフィストはまだ武器を構えておらず、隙だらけの状態だった。これは、一発でケリが付くかもしれない。と思ったがメフィストは近づいてくるオルタを見てニヤっと笑った。


「イイですねェ!イイですよォ!?」
オルタが旗を振りかぶった瞬間メフィストとオルタの間で爆弾が爆発し、オルタの攻撃がメフィストに届く前に後ろに下がった。あの爆弾いつ出したんだっ!動きが速すぎる!


「っく!」
オルタはすぐに体制を立て直してメフィストに向かって再度攻撃をしかけたが、避けられてばかりいて、なかなか一発が当たらずにいた。その後も、メフィストが積極的に攻撃してくることはなく、間合いを詰められれば手に持っている大きなハサミを振り回し、危なくなれば、オルタの攻撃から逃げる為に爆弾を使用して逃げていた。


「イヒヒヒヒ!」
オルタが連続で炎を飛ばし攻撃を仕掛けても、それをメフィストが避けて代わりに目の前で爆発が起きるばかりだった。あと一歩のところで捕らえられずにいるオルタのイライラが段々溜まってきているのが目に見えてわかった。


「ちょこまかちょこまか動き回って目障りなのよ!」
メフィストが避ける方向に先回りしたオルタは、そちら側にきたメフィストに向かって大きく旗を振りかぶったが背後からオルタの足元に向かって動いている爆弾の存在に俺は気づいた。


「オルタ!足元に爆弾がしかけられてる!」


「っ?!」
爆弾の存在を知らせるために急いで大声で叫んだ俺の声に反応したオルタは右に避けたが・・・・


「そっちはダメだ!」


「えっ?」
オルタが避けた方向にも爆弾が仕掛けられており、彼女の腕に爆弾が当たった。


「オルタ!」


「イヤッホォォォ!!命中命中!」
オルタに爆弾が当たったのをみてメフィストは嬉しそうに笑った。爆弾の煙でむせてはいるが、とりあえずは、爆弾による大きな傷は無さそうで少しだけ安心した。


「くそっ!」
爆風を払いながらも旗を構え直したオルタは、奥へと逃げていったメフィストを追いかけていった。


「来ましたね!来ましたね!」
追いかけてきたオルタを見て嬉しそうに笑うメフィストを見て、危険な予感がした俺は「オルタ!一回止まって!」と声をかけたが、頭に血が上ったオルタはその声を聞かずにそのまま突っ込んでいった。案の定オルタが向かった先にはたくさんの爆弾が仕掛けられており、メフィストは自由に逃げ回っていた。


「いちいち避けるのもめんどくさいわね!どうせあの程度の爆弾なら当たっても平気よ!」
そう言って目の前に飛んできた爆弾に向かってオルタは旗を振り下ろしたが、その瞬間・・・・・


「あぁ、その爆弾。さっきよりも威力強いですよ」


「っ?!」

オルタの目の前で大爆発が起きた・・・・・

さっきの爆弾とは比べ物にならないぐらいの威力があり、離れた場所にいる俺のところまで強い爆風が飛んできて身体が後ろへ飛ばされそうになった・・・・・


「っく。オルター!!」
こんなのを目の前で浴びたら軽傷でいられるはずがない!オルタは無事だろうか。とすぐに煙の中で彼女の姿を探したが、中々姿を見つけることができず、俺は近くへと急いで走り寄った。


「っほんと!むっかつくわね!」
煙の中から姿を現したオルタは左腕に傷を負ったようで、腕を守るように抑えていた。早くその傷を治してあげたいのに、今の俺にはそんな魔力を使うことすらできなくて・・・・


「っくそ!」
そんな自分に思わずイラだった俺は右手を握り締めて上から下へと振り下ろした。オルタは、一度体制を整えるためにその場から離れようとしたが、少しその場から移動すれば、大きなハサミを持ったメフィストが襲い掛かってきて、逆へ逃げようとすれば、オルタの動きを読んだかのように配置された爆弾が次々に爆発していった。


「ふふふふふ!逃がしませんよ!」
オルタが右へ行けばメフィストのハサミが襲いかかり、左へ行けば左が爆発が起き、まるで、その場から動かさないように攻撃が仕掛けられていた。逃げないように攻撃する割には、彼女へ直接当てることがないその攻撃の仕方に疑問を持った俺は、メフィストの様子を目で追っていれば、にっこりと笑った彼と目が合った。まさか・・・・・


「さぁぁってっ、御覧あれぇっ!!」
そう言ってメフィストが出した蛇状にいくつも繋がった爆弾はオルタの方へ向かうことはなく、まっすぐ俺の元へと向かってきた。


「っ!!」


「名無し!!」「名無しさん!」

「両目、脇腹、膝、脊髄。設置完了!『微睡む爆弾(チクタク・ボム)』!! アハハハハハ!!」
俺に向かってきた爆弾が今までの爆弾と違うことはすぐにわかったが、まさか宝具をぶつけてくるとはな。宝石は立香くんに渡した分しかないし、魔力も使用できない今。絶体絶命の状態だった。視界の端には、立香くんが令呪を使用しようと手を上げているのが見えたが、きっと間に合わないだろう。せめて、少しでも身体へのダメージが減るようにと近くにあった柱の裏へ隠れようと足を動かした。


「名無し!!」
メフィストの宝具が当たる瞬間名前を呼ばれたのと同時に目の前が真っ暗になり、体に強い衝撃を感じた。その後、すぐに凄まじい爆発が起き、爆風によって体が飛ばされ、鼓膜が割れそうな程の爆音が耳に届き、床に体がぶつかった。



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