「いたたたた・・・・」
滑り台のように洞窟の入り口から下へと落ちていった私たちは、受身を上手くとることができないまま地面へと叩きつけられた。


「大丈夫か?!」
私の下敷きになってくれたセイバーは、痛いと声を出した私の身を気遣って、すぐに体を起こしながら私の顔を覗き込んだ。


「うん。セイバーが支えてくれたから平気」


「そうか。それならよかった。・・・・・しっかし、お前はほんとに」
セイバーはほっとした表情で私の顔を見たあとに呆れたようにため息をついた。


「ほんとにごめんなさい。ねずみが突然足元に現れてビックリしちゃって・・・・」


「お前って意外とトラブルメーカーだよな」
そう言いながら立ち上がったセイバーは私の手を握って立ち上がらせて、膝や服についた土をほろってくれた。


「ごめんなさい」


「こうなっちまったもんはしょうがねぇだろ。一回上に戻るぞ」


「うん」


「じゃあ、背中に乗れ」


「うん」
私に背を向けてしゃがみこんでくれたセイバーの肩に手を乗せれば、軽々と私を持ち上げた。


「よし、行くぞ」
そう言って足に力を入れたセイバーが入り口に向かって飛んだ瞬間


「「っ?!」」
何か透明な膜が現れて、私たちの行く手を阻んだ。その透明な膜に弾かれて私たちは地面へと戻された・・・・・


「今のって・・・・」
その不思議な現象に私が首をかしげながらセイバーに問いかけると、セイバーは何か考えた後に、私に「少し下がってろ」と言って奥に行かせて、剣を握り締めた。


「おらっ!」
透明な膜に向かって振り下ろした剣は、見事なまでに弾かれて、セイバーは地面へと戻された。


「セイバー・・・・・」
その様子を見て不安になった私はセイバーに声をかけたが、その後何度か透明な膜への攻撃を繰り返したセイバーは剣を下ろして私の方を向いた。


「名無し。入り口に戻るのは無理そうだ」


「そうみたいだね・・・・・」
今までの様子を見ていてなんとなく察してはいたが、いざ言葉にされると、急に不安感を押し寄せてきた。


「外と違ってこの中は何が起こるかわからねぇから、ここに一人で残しておくわけに行かねぇし、このまま俺と奥へ進むぞ」


「うん・・・・」
自分が招いてしまった状況だが、今までここへ訪れた人たちがみんな死んでしまったかもしれない。という情報を知っているから、こんな何もできない私が足手まといになってしまわないか、不安で仕方なかった。どうしよう。と下を向いていれば、突然、頬をつねられた。


「いたっ」
その突然の痛みに声を出せば、目の前のセイバーは笑顔を浮かべていた。


「この俺様が一緒にいるんだ。何が起きても大丈夫だっての」
そう言って頬をつねっていた手で優しく私の頬を撫でた。


「セイバー・・・・」


「でも、これだけは守れ」
急に真剣な表情になったセイバーは強いまなざしを私に向けた。


「何?」
空気感が変わったのを感じた私は少し緊張しながら問いかけた。


「自分の身が危なくなったら迷わず俺を置いて逃げろ」


「えっ」
セイバーを置いて逃げるなんてそんなこと・・・・・と思い、口を開こうとしたが、そんな私をみたセイバーは「いいな?」と強く念押しをするように言葉を続けた。今こんな状況にしてしまった責任を感じてしぶしぶ首を縦に振った。「よし、じゃあ、いくぞ」と手を引かれた瞬間、ゴゴゴゴゴゴっという凄まじい音が聞こえてきて、私は思わずセイバーにひっついた。


「な、なにこの音!」


「わからねぇ。だけど、きっとこっちの道からだな」
そう言って二股に分かれた片方の道の方へセイバーが目を凝らしながら見つめた。そのままその音の正体を待ち続けていれば、音がどんどん大きくなり段々こちらに近づいてきているのがわかった。セイバーはすぐさま剣を構えて、私を後ろに下がらせた。そのまま10秒程待つと黒いものが置く奥すごいスピードで近づいてくるのが見えた。


「セイバーあれって・・・・」
黒すぎて何かよくわからない私は首をかしげながらセイバーの肩に手をかければ、はっ!と何かに気づいたセイバーはすぐに私の前にしゃがみこみ「乗れ!」と言って私の腕を掴み背負った。


「えっ、なに?!」
突然の状況に頭が付いていっていない私はただただセイバーの指示に従っていれば、セイバーは音のする方とは反対側の道を凄まじいスピードで走り出した。背負われながらも後ろから聞えてくる凄まじい音の正体を知るために後ろを振り向けば、洞窟に幅と同じ大きさの巨大な岩が私たちに向かって転がってきていた。


「せ、セイバー!岩が!」


「わかってる!どうにかするから掴まってろ!」
私ではどうすることもできないため、とりあえずセイバーの脚力にまかせるしかない。と思い、セイバーの首に必死にしがみつけば、セイバーは前を向きながら舌打ちをした。その様子を見て、しがみつく力が強すぎただろうか?と疑問に思っていたら、地面から岩で体ができている人型の生物が出てきた。


「っち!こんな時にゴーレムまで現れるのかよ!」
イライラした様子のセイバーは、剣を握り直しながら、そのゴーレムに向かって速度を上げて突っ込んでいき剣を一振りすれば、ゴーレムの首の部分が取れて、ガラガラと音を立てながら、体が崩れていった。それを見て、倒した!と思っていたが、すぐに体が再生されたゴーレムが複数体現れた。


「こんな数相手にしてられっかよ!」
セイバーは剣だけではなく蹴りでもゴーレムを倒していったが、すぐに再生をするその生物に苦戦をしていた。後ろから来ている岩の存在もあり、前に進む足を止めることなく、ゴーレムを相手にしてきたが、奥に進んでいくと、道を完全に塞ぐようにゴーレムが一列に並んでおり、このままでは通れない状態になっていた。


「くっそ!なんだよあいつら!」
後ろも前も塞がれた状態でどうしようもなくなったセイバーは、宝具を使用しようと剣に魔力を込めたが、その瞬間、私は横にあるものを発見し、セイバーの肩を押し無理矢理降りた。


「はっ?!名無し?!」


「こっち!!」
私のその行動に驚いたセイバーは私のことを驚いた表情で見つめたが、私はすぐにその腕を掴んで横へと走った。


「入って!」
そう言って、偶然見つけた、壁にできた隙間にセイバーを押し込んで自分も中へと入った。それと同時に私たちの横を巨大な岩が横切り奥へとゴロゴロ転がっていった。


「ふぅ・・・・助かった・・・・・」
私は、間一髪の様子を見て安堵し、体がくっつき目と鼻の距離にあるセイバーの顔へと目を向ければ、セイバーは安堵というよりも緊張した顔をしていた。鎧を通しているはずなのに触れている部分からはわずかにバクバクと心臓の音が聞えてきて、目の前にある口元に視線を向ければ、力が入っているのか、ぐっ。と一文字になっていた。その様子を見て、どうしたのだろう?と首を傾げれば、私の視線に気づいたのか、はっ!となった後に、慌てて隙間から出ていった。


「よ、よく見つけたな、こんなとこ」
何故か少しどもりながら私がこの隙間を見つけたことを褒めてくれた。


「うん。偶然目に入って」


「そ、そうか。よくやった」
何で目を合わせないのだろう?と疑問に思ったが、すぐにまた私に背を向けてしゃがみこんだセイバーを見て、私は背中に掴まった。その後も奥へ進むたびに、大量のゴーレムが現れたり、大量のこうもりが現れたりしたが、セイバーがすぐに倒してくれたため何事もなく前へ進むことができた。


「あー、魔力が持つか心配だな。俺の場合は、魔力が切れるとただの人間に戻っちまうからな」
大量のこうもりを倒し終わったあとに、セイバーは心配そうに、ぼそっとそんなことを呟いた。それを聞いた私はあることを思い出して、セイバーに背中から下ろしてもらうように頼んだ。


「どうした?」


「セイバーの言葉聞いて魔力補給のこと思い出して。ちょっと目をつぶっててくれる?」
そう言って笑顔を見せれば、セイバーの目が何故かキラキラと輝いた後、顔が赤くなり視線を右往左往させて目をつぶった。「口を開けて」とお願いすれば、一瞬緊張したように体が強張ったあとにゆっくりと口を開いた。「そういえば、すっかり渡すのわすれてたよ」とつぶやくと、セイバーは目を閉じたまま「ん?」と少し首を傾げたが、私は鞄から取り出したものをそんなセイバーの口の中へ放り込んだ。


「っ?!」
その瞬間目を見開いて口を押さえたセイバーは、勢いで飲み込んでしまったようで、目を見開いたまま私のことをじっと見つめた。


「お、お前、な、何を!」


「それ、綾瀬さんと共同開発した、私の血液入りカプセル」


「はぁ?!」


「私の血液を綾瀬さんが濃縮して飲みやすいようにカプセルに詰めてくれたの、何個かできたから何回かはこれで魔力供給できるよ」
そう言って、カプセルが入った瓶をセイバーに見せれば、恐ろしいものを見るような顔をした。連日、綾瀬さんとセイバーへの魔力供給の方法を考え、綾瀬さんが考案してくれたものだ。何かあった時のために渡しておこうと思ってたのにすっかり忘れてたから渡すことができてよかった。


「お前らはなんつーもんを作ってんだよ!」


「私たちの緊急の魔力供給の方法はこれしかないんだから仕方ないでしょ」


「だから、他の方法があるって何度も」


「それは嫌。って言ったでしょ。何度も」
私がむっとした顔でそう伝えるとセイバーは、ガシガシと頭をかきながら、一人で前へ進んでいった。なんで、そんなにキスの方法にこだわるのかわからない。直接血を飲むのはさすが嫌かな。と思ってちゃんと飲みやすいように。って考えてカプセルも用意したのに・・・・。私たちは少し距離をあけたまま一言も言葉を交わすことなく歩き続ければ、入り口のようなものが見えて、中へと進めば、その中は広い空間になっており、端から端まで続く人一人分の幅しかない道が一本だけあり、その外側は下がまったく見えない程の真っ暗闇が続いていた。落ちたら確実に死ぬ・・・・。そう思ったら自然と足の力が抜けて床に座り込んでしまった・・・・セイバーは、なんともない。といった様子でどんどん前に進んで行ってしまった。どうしよう・・・・。ちらっと顔を前に覗き込ませて下を見てみたが、真っ暗な景色以外何も見えず、心なしか冷たい風が吹いてきているように感じた。どうしよう。怖い・・・・。私は、目をぎゅっとつぶって震える手を両手で握り締めていた。


「ほら、行くぞ」


「えっ」
目を開ければ、先に進んで行ってしまっていたはずのセイバーが私の目の前にいて、目の前に背を向けてしゃがみこんでいた。


「さっさと乗れよ」
そう言ってセイバーが乗るのを催促してきたが、私はそれどころではなかった。


「足に力が入らなくて立ち上がれないの・・・・・」
腰が抜けてしまったことを正直に伝えると、セイバーは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに柔らかい表情をしながらため息をついた。


「はぁ・・・・じゃあ、とりあえず手を前に伸ばせ」


「うん」
セイバーの指示に従って腕を前へ伸ばせば、背を向けたままのセイバーがその腕を掴み、あっという間に背負ってくれた。


「・・・・震えてんじゃねぇかよ」
自分の首に回った手が震えてることに気づいたセイバーは、心配そうな声でぼそっとつぶやいた。


「こんな高さ怖いもん・・・・・足だって踏み外しちゃうかもしれないし・・・・」


「ほんとお前は俺がいなきゃダメだな」


「うっ・・・・」


「まぁ、この状況を嬉しいと思ってることに、お前は気づいてねぇんだろうが・・・・」


「えっ?」
下を絶対に見ないように背中に顔面をくっつけている私には、ぼそっとつぶやかれたセイバーの声が聞えなかったため、聞き返したが、すぐに「なんでもねぇよ」という返事がかえってきた。その後無事に渡りきれた私たちは、奥へと進んでいった。


「ここ、行き止まりかな?」
部屋全体が一つの円柱の形になっている空間にたどり着いたが、入ってきた入り口以外に行けるよう出口が見当たらず、首を傾げた。


「でも、ここまで一本道だったし、考えられるとしたら、最初の岩が転がってきた道の方に進むっていう選択肢だけだな」


「それって、今まで通ってきた道を全部戻るってことだよね?」


「そうなるな」
あの道を戻るとなるとまた敵が襲ってくるかもしれないし、なんとか、ここから先に進む道はないのだろうか。と、上を見上げれば、あるものを発見した。


「ねぇ、セイバー。まさかだけど、あれじゃないよね?出口」
そう言って上を指させば、セイバーもそれを見つけたようで、「マジかよ」と大声を出した。距離はざっとみて下から200mの高さはありそうだった。その出口の横へと視線を走らせていけば、地面からその出口へ繋がるように壁に足場になりそうな突起が円柱に沿うような形で大体30cm間隔で付いていた。


「あの足場を登っていくしかなさそうだな」


「だよね。セイバー一人だったらいけそう?」


「あぁ、そうだな。だけど、お前をここに残しておくわけにいかねぇから一緒に行くぞ」


「どうやって!?」
セイバーの急な提案を聞いて私は驚きの声をあげた。


「ほら、さっき見たいに背負って」


「無理!絶対落ちる!」
そんなことをすれば、重力に従って私がそのまま落下するのが目に見えている。


「でも、他に方法はねぇだろ」


「・・・・・抱っこ、とか?」
背中がダメなら逆側しかない。という判断をした私がぼそっとそう伝えると、セイバーは一瞬固まって、目を泳がせた。


「だ、抱っこって!そ、それは色々とさすがに・・・・まずいだろ・・・・・」
顔を赤くさせながら目線を右往左往させて、言葉がどもり始めた。そうだよな。いくらモードレッドの姿だったとしてもさすがにそれはダメか。と思い私は再度頭を悩ませた。


「だよね・・・・うーん・・・・」


「まぁ!でも、それしか方法はねぇし!それで行くぞ!」
さっきまでの拒否はなんだったんだろう。と思うぐらい何故か突然すんなり受け入れたセイバーに疑問を持ちながらも私はセイバー正面から首に手をかけて抱きついた。


「落ちるの怖いから紐で結ぶね」
そう言って鞄から取り出した紐を私とセイバーのお腹の部分に巻きつけた。安定感が出た気がするけど、それと同時にセイバーの体が固まった気がする。


「い、行くぞ」
そう言って緊張した様子のセイバーが壁に手をかけた。足場になりそう。と言っても、突起の幅は片足がようやく置ける程しかなく、不安定なことにはかわりがないため、私はただただ邪魔にならないようにと首に抱きつき肩口に顔を埋めたままじっとしていたが、セイバーの身体が熱いことに気づいて顔を上げると、セイバーの顔が赤くなっているのが見えた。


「ごめん。重いよね」


「はっ?お前が重いわけねぇだろ」


「でも、顔が赤いからきっと無理してくれてるんだろうなって」


「こ、これは、別に・・・・なんでもねぇよ!」
重いわけではないのなら、ただ単純に運動しているからだろう。と思い、再度、私は首に抱きついたまま微動だにしないようにした。それからしばらく経った頃、「よし、結構きたな」というセイバーの声を聞えてきて顔をあげれば、半分ぐらいの地点にたどり着いていた。


「すごい、こんな速いスピードでここまでくるなんて」


「まぁな。俺にかかればこんなもんだ!」
私が褒めた言葉にセイバーが乗っかり、嬉しそうな顔をしながら登り続けていれば、下から地震のような揺れが起きた。


「うおっ」
その大きな揺れによってセイバーの身体は大きく傾き、下へと落ちていきそうになったが、瞬時に剣を壁へと突き刺しそれに身体を預けて揺れがおさまるのを待った。


「なんなんだろうこの揺れ」


「わからねぇ。ただの揺れじゃねぇことはたしかだな」


「そうだよね・・・・・」
揺れがおさまるのをセイバーに身体を預けながら待ち続けていれば、さっき大きな岩が転がってきた時と同じようなゴゴゴゴゴゴっという凄まじい音が聞こえてきた。


「これって・・・・・」


「何かくるぞ!」
その音を聞いて再度身構えたセイバーは、首を色んな角度に向けながら周囲の状況を確認していると、ガッ!!っという大きな音が鳴った


「「っ?!」」


「下だ!!!」
セイバーの声を聞いてすぐに下へと視線を向けると、さっきまで私たちが立っていた床が上へとすごいスピードで、せり上がってきていた。


「せ、セイバー!」


「とりあえず、これに飛び乗るぞ」


「うん!」
上に上がってきている床に飛び乗ると宣言したセイバーに身を全て預ければ、セイバーは上手くタイミングを合わせて床に飛び乗った。その事に安心したが、その床がどこまで上がっていくのかがわからない私たちはとにかく出口の方に目を向けていた。出口まではもうすぐだ。ここから出口に飛び込めばいけるはず!そう思って私もセイバーも前を見てれば、突然また床が大きく揺れ始めて・・・・・


「きゃあ!」


出口の高さに届く前に床が粉々に割れた・・・・・・。
足場を完全に失った私たちは下へと真っ逆さまに落ちていった・・・・・。
そのことに慌てふためいていれば、下から、人ではない何かの叫び声が聞えてきて視線を向けると、そこには、大蛇がいた・・・・!
大蛇は、私たちに向かって真っ直ぐ上に飛んできてその大きな口を開いた。


「セイバー!どうしよう!」
慌てた私は急いで目の前にいるセイバーに問いかけた。


「そんなの決まってんだろ!」
いつの間にか私たちを繋いでいた紐を切ったセイバーは自分の顔の前にひっぱりあげた。そして・・・・


「きゃあ!」


「お前だけでも先に行け!」
セイバーは出口に向かって私を勢いよく投げ飛ばした。そのおかげで、身体がゴロゴロと床に叩きつけられながらも、出口に無事にたどり着くことができたが


「セイバー!!!!」
私を救ったセイバーは大きく口を開いた大蛇に剣を突き刺し、そのまま下の暗闇へと消えていった・・・・・