「そういえば、体液の検査結果あがったわよ」


「あー・・・・」
あの時の恥ずかしい気持ちが一気にこみ上げてきた私は頭を抱えながら下を向いた。一刻も早くあの時の記憶を消し去りたい。


「言ってた通り、全部の魔力が体液に溶け出してるって言っても過言じゃない数値だったわ」


「やっぱりそうなんだ・・・・」
どうやらアーチャーのマスターの言葉が本当だったことが検査結果から証明されたようだ。すみれちゃんも言っていたがそんな魔術師は他には存在しないらしい。私だけどうしてこんな体質なんだろう・・・・・


「おい、なんでお前が一緒にメシ食ってんだよ」
私とすみれちゃんが会話をしていると、私の横に座っていた王逆くんが心底嫌そうな顔をしながら話しかけてきた。うわっ、すごい機嫌悪そう・・・・。
すみれちゃんの家に行った後からすみれちゃんは学校で頻繁に私に会いにくるようになった。最初は、そんな私たち2人の様子を、何だ?ケンカか?!という風に見守っていたクラスメイトたちも、今では、仲の良い様子を見て、すみれちゃんがやってきても大して視線を向けてこなくなった。女子からは何があったのか聞かれたが色々あって仲良くなったとしか説明していない。まぁ、来るたびに、王逆くんは心底嫌な顔をして追い返そうとするが、その度にすみれちゃんはそんな言葉を軽くかわして入り浸っていた。そうしてお昼ご飯も一緒に食べるようになり、今は普段閉鎖されている屋上で3人でご飯を食べている。なんで閉鎖されている屋上の鍵を王逆くんが普通に持っているのかは不明だけど、もはや、いちいち細かいことは気にしないようにした。


「あら、別にいいじゃない。私、名無しの『お友達』だし」


「名無し。悪ぃ事は言わねぇから、今すぐこいつと縁切れ!」
そう言って持っている箸をすみれちゃんに向けながら王逆くんは私に話しかけてきた。箸を人に向けてはいけません。とさりげなくその手を下に下ろしながら「ははは・・・」と空笑いをして曖昧な返事をした。


「ひどいこと言うのね。・・・・そういえば、王逆くんは毎日お弁当持ってきてるけど、自分で作ってるわけ・・・・ないわよね?誰に作ってもらってるの?」
すみれちゃんの問いかけに私の心臓が一瞬ドキッと高鳴った。まさか・・・・ばれた・・・・?今までずっと購買で昼食を買っていた王逆くんが毎日お弁当を持ってくるようになれば、不思議がられても仕方ないと思い、万が一誰かにお弁当を見られても大丈夫なように、私と王逆くんのお弁当のおかずは毎日種類をいくつか変えたりしていたが、すみれちゃんとお昼ご飯を食べるようになってからは、絶対にバレないように、おかずを全種類変えるようにしていた。マズイ。このままではバレる・・・・よし、ここは私が、誰だろう?って態度を取ればきっと王逆くんもそのことに気づいてごまかしてくれるはず!先手必勝だ!


「名無しに決まってんだろ」


「王逆くーん!」
先手必勝だ。と意気込み口を開こうとした瞬間に王逆くんは私が作ったと言ってしまった。急に自分の名前を大声で呼ばれた王逆くんは、何だよ。という驚いた目で私を見てきたが、私はすみれちゃんになんて言い訳をしようか頭を悩ませた。絶対に嫌な気持ちになってるだろうな。と目の前にいるすみれちゃんを見ると、彼女は驚いた顔など一つも見せずに笑った。


「でしょうね。そんなクオリティのおかずをそこら辺の人が作れると思ってないわよ。しっかし、わざわざ毎日おかずを変えるくるなんて思わなかったわ」
え、何で私が作ってるってわかっててわざわざ聞いてきたんだろう。と不思議に思っていたら、すみれちゃんはとても意地悪な表情をした。


「毎日私にバレないように頑張って隠してるから意地悪しただけよ。名無しの焦った表情を見るのも楽しいわね」


「もう・・・・」
そんな彼女の意地悪に呆れ顔をすれば、横にいる王逆くんだけが状況を理解しておらず、「なんで隠さなきゃいけねぇんだよ」と一人疑問を抱えていたが、それを説明するには、まず、すみれちゃんの王逆くんに対する想いも説明しなきゃいけないため、「なんでもないよ」とごまかした。


「で、さっきの話に戻るけど」


「うん」


「私は、体液の種類によって魔力の量が違うんじゃないか。と仮定して研究したのよ」


「う、うん」


「そしたら、ビンゴ。魔力量は種類によって違ったわ」
そう言ってすみれちゃんは一枚の紙を私たちに見せてきた。その紙には、血液、汗、唾液、ち、膣の・・・・・分泌液と書かれていた。恐らくその横に書かれている数が魔力量なのだろう。ぱっと見た限り、数倍以上違う数値もあり驚きを隠しきれなかった。こんなに違うなんて・・・・・汗の倍が血液・・・・その2倍が唾液で、そのさらに3倍が・・・・・?!私の思考はそこで停止した。横にいる王逆くんもそのことに気づいたようで、最初は、「へー。」とか言いながら数値を見ていたくせに今は顔を真っ赤にさせて紙を読み進めていた指が震えていた。


「て、てめぇ!これガセネタじゃねぇだろうな!」
明らかに違いすぎる数値を見て思わず王逆くんはすみれちゃんに怒鳴り声をあげた。


「ガセなわけないでしょ。ちゃんと検査したわよ。これでも、綾瀬の一族は、日本じゃどこの魔術師の一族よりも医療技術や研究技術は上なんだから」
そう言いながらもう一度私たちの目の前にバンっと紙を見せ付けてきた。もうなんて言葉を口にすればいいかわからない。


「とりあえず、早急に魔力が必要になったらキスでもしておきなさい」


「き、キスだと?!・・・・・・ま、まー、魔力供給の王道っちゃ王道だしな。き、キスぐらいなら俺はいつでも・・・・」


「そうよね。まぁ、一番数値が高いのは膣からの分泌液だったから、これはセック・・・・」


「うおおおおおお前!何言おうとしてんだよ!」
すみれちゃんが言いかけた言葉を王逆くんはすぐに大声を出して止めた。この人は恥じらいというものがないのだろうか。何故こんなに淡々と・・・・・


「仕方ないじゃない。前にも言ったけど、名無しからの通常の魔力供給では、細いストローで飲み物を飲むぐらいの量ずつしか供給できないんだから、どうしても必要になった場合はこういう方法もしなきゃいけないってことよ」
私とセイバーの魔力供給のパスが完全じゃない以上他の方法での供給を考えていかなきゃいけないけど・・・・でも・・・・


「ま、まぁ、そういうことなら仕方ねぇよな!俺はすげぇ魔力食うし、戦闘中に魔力切れになることもあるしな!そ、そういう時なら、そ、そういうことしてやっても!」


「ダメだよ!」


「は?」


「前にも言ったでしょ?そういうことは好きな人とじゃなきゃしちゃいけない。って」
私がそう王逆くんに伝えると、王逆くんは一瞬目を見開いて驚いた顔をしたあとにゆっくりと下を向いた。


「そうかよ」
さっきまでは顔を赤くさせながらなんだがご機嫌に話していたのに、今は打って変わって、冷水を浴びたように顔が白く戻り、どこか悲しそうな表情をしていた。


「きっと、いつか好きな人ができた時に後悔すると思う。大事な人のために大事なものを残しておかなかったことを」
そんな悲しそうな王逆くんに言い聞かせるように私は真剣な表情で彼に話しかけたが、彼の目には一度も私は映らなかった。


「・・・・俺、先に戻る」
そう言って王逆くんは食べ終わったお弁当を少し乱暴に片付けてさっさと屋上から出て行ってしまった。彼が出ていった扉をずっと見つめていると、「あーぁ」という少し残念そうな声が聞えてきた。


「せっかく合法的に王逆くんとキスもそれ以上のこともできるんだからしちゃえばいいじゃない」


「そんなのダメだよ。いくら理由があってもそういうのはダメだよ・・・・それに血液でも十分なわけだし。王逆くんには私の未熟さのせいで嫌な思いをさせたくない」
そうだ、キスやそれ以上のことをしなくたって血液でも十分なんだから、わざわざそれ以上を求めてしなくたっていいんだ。それに、すみれちゃんは王逆くんのことが好きなんだからこんなことを私たちがしたらきっと悲しむ。


「彼は全然嫌なんて思ってないと思うけど、むしろ・・・・」


「えっ?」


「ううん。何でもないわ。でも血液って言ったって、セイバーが貴女のこと傷つけられるわけないじゃない」


「そう。だから、ちゃんと自分の体を傷つけれるようにする」
今はまだ自分で自分の体を傷つけることへ恐怖を感じているが、これしか方法がないのなら覚悟を決めなければいけない。


「まぁ、そのことは私が考えてあげるわ。それよりも!ずっと伝え忘れてたことがあるのよ!」
すみれちゃんが私の肩を掴む勢いで近づいてきたことに驚き少しだけ身を後ろへと下げた。


「なに?」


「監督役の居場所!」


「あぁ。そういえば」
セイバーが私の元に戻ったことでマスターをやめなくてよくなった私は、すっかりその役目を必要としなくなった監督役の存在を忘れていた。


「監督役ってマスターやサーヴァントを監視するだけじゃなく、戦闘時に起きたトラブルのカバーやサーヴァントを失ったマスター保護の他にも、戦争に関しての情報を教えてくれたりするから会うだけ会ってみたらいいかもしれないわよ」


「すみれちゃんは会ったことあるの?」


「えぇ、ランサーを失ってすぐに会いに行ったわ」


「・・・・・そっか。じゃあ、私も行こうかな。何かセイバーの力になれることが見つかるかもしれないし」


「じゃあ、今日の放課後王逆くんも一緒に連れて行きましょう」