私は目の前で繰り広げられているセイバーとアーチャーの戦いを手に汗握りながら見守り続けていた。接近戦ということもあり、セイバーの方が有利かと思ったが、アーチャーはセイバーの攻撃を躱しながら適度に間合いを取りつつ攻撃をし続けていた。その一進一退の攻防の途中で何度かセイバーが押されそうになる姿を冷や冷やしながら見ていたが、脳内では先程のアーチャーの言葉をずっと考えていた。綾瀬さんの一族とアーチャーのマスターとの関係や、アーチャーが私たちを攻撃してきた時に乱入してきたと言っていたものたちは誰なのか・・・・・。


「ちょこまかちょこまか動きやがって!鬱陶しいんだよ!!」


「っ!?」
何度も自分の攻撃を躱されてイラだったセイバーが怒鳴り声を上げながら先程よりも早いスピードでアーチャーとの間合いを詰めて剣を振り下ろせば、その攻撃を躱しきれなかったアーチャーはそのまま隣のビルの壁に叩きつけられた。


「倒した・・・・?」
その凄まじい威力を見て戦いが終わったかと思いセイバーに声をかけたが「いや、まだだ!そっから動くな!」と大声で叫ばれた。セイバーはとどめを刺すためにアーチャーの元へと飛んで行き再び剣を振り下ろしたが・・・・・


「令呪を持って命ずる。アーチャー回避せよ!」


セイバーが剣を振り下ろした先にはアーチャーの姿がなかった・・・・


「アーチャーは一体どこに・・・・・」
私とセイバーは姿を消したアーチャーの行方を追って視線を動かせば、すぐにその姿は見つかったがその横には知らない人が立っていた。


「間一髪だったね。アーチャー」


「マスター、ここには来るなって言っただろ」


「なんだいその言い草は。せっかく加勢してやろうと思ったのに」
マスターと呼ばれたその女性は横で片膝を付いて軽く息切れをしているアーチャーのおでこを小突きながら不満そうな顔をしていた。


「その必要はねぇ。さっさと家に戻ってろ・・・・今日は娘さんが遊びに来てるだろ」


「あれが・・・・アーチャーのマスター・・・・・っ?!」
アーチャーたちをじっと見ていたらその二人に向かって凄まじい勢いで何かが突っ込んでいくのが見えた。


「っく!」
アーチャーは瞬時に反応し突っ込んできたものを弓で受け止めたが勢いが強すぎたせいでマスターを抱えたまま床に転がっていった。


「はっ!余所見してたからてっきりこのまま殺していいのかと思ったぜ!」


「セイバー!!」
今しがた2人に突っ込んでいき剣を振り下ろしたセイバーの名を呼んだが、その目は敵の2人をしっかりと捉えていた。


「うっ・・・・・マスター下がってろ。すぐに戦いを終わらせる。娘さんのところに早く帰ってやろうぜ」
体の所々がボロボロになり血を流しながらも立ち上がったアーチャーは安心させるように優しい笑顔をマスターに向けた。


「アーチャー・・・・・。無茶はするんじゃないよ。昨日も使ったせいでもう残り1画しか残ってないからね」
自分の手に描かれている令呪を見つめながら心配そうな顔をアーチャーに向けた女性はアーチャーの足に手をかざし何かぶつぶつ呟いたあと一歩後ろへと下がった。


「あぁ。わかってる。やばくなったら撤退する。まぁ、それまでここでのんびり見ててくれよ」


「期待してるよ」
その言葉を交わした瞬間アーチャーの姿が見えなくなった。


「えっ。一体どこに!」
姿を消したアーチャーの行方を追って私とセイバーはあちこち見渡したが、暗闇に紛れているのかその姿をまったく見つけることができなかった。


「妙な魔術使いやがったな。あのババア!うおっ!」
突然上から降ってきた矢をセイバーは間一髪の所で受け止めた。さっきまで確実にセイバーが優勢だったはずなのにこのままでは・・・・・


「くっそ!」
その後も見えない所から次々に飛んでくる矢を受け止め続けていたが、このままではらちがあかないと思ったのか、セイバーは矢が飛んできた方向に向かって凄まじい速さで突っ込んでいった。しかし・・・・・


「セイバー待って!!」
セイバーが突っ込んで行った方向で何かが光ったのが見えた私は慌ててセイバーを制止したが、セイバーは止まることなくそのまま勢いよく突っ込んで行った。


「かかったな!」


「ぐあっ!」


「セイバー!」
セイバーが突っ込んで行った所には罠が仕掛けてあり、見えない糸が蜘蛛の巣のように張り巡らされていて、その糸にセイバーがひっかかった瞬間無数の矢がセイバーを貫いた。未だその糸にひっかかったまま動けずにいるセイバーの元に私は慌てて駆け寄ったが


「っ!!」
走っている私の足元に一本の矢が刺さり足を止めさせられた。


「セイバーのマスター。悪いが、邪魔はさせねぇぜ」


「アーチャー・・・・・」
私は足元に矢を放ったアーチャーのことを睨みつけるように見つめたが、アーチャーはそんな私に少しだけ困ったような顔をしながら近づいてきた。


「マスター・・・・来るな!」
体中に矢が刺さり苦しそうなセイバーは力を振り絞って私に声をかけた。あまりにも痛々しいその姿を見て思わず涙が出そうになった。


「セイバー!待ってて今助けるから!」
肩にかけていた弓と矢を手に持ちセイバーを捕らえている糸に向かって矢を射ったが、風に負けた矢は糸に届くことなくカランカランと乾いた音を響かせて床へと落ちていった。


「あっ・・・・」


「悪あがきはやめておけ。大人しくしてたらあんたの命だけは奪わないでおいてやる」


「てっめぇ!俺のマスターに手ぇ出したらぶっ殺すぞ!」
口からも流れている血を飛び散らせながら怒鳴っているセイバーを見て、アーチャーはため息をついた。


「そんな状態でそんなこと言われてもな」
勝利を確信しているのか、余裕な表情を見せるアーチャーを見て早くこの状況を何とかしなければと頭を働かせた。さっきは少し距離があったけど、もう少し近くまで近づければもしかしたら矢が届くかもしれない!そう思い、余所見をしているアーチャーの隙をついて私は再びセイバーの元へと走り出した。


「セイバー!」
あと、数メートルの所まで近づいた私は弓と矢を再び手に取って番えながらも更に距離を縮めた。


「バカ!来るんじゃねぇ!マスターよけろ!」


「えっ?」
セイバーの静止の言葉が届いたのと同時に私の足元にアーチャーの矢が刺さり軽い爆発が起こり体が吹き飛ばされた。


「名無しー!!」
セイバーが私の名を呼ぶのが聞えたのと同時に地面に体を叩きつけられて体中に痛みを感じた。


「うっ・・・・・」
急いで体を起こして痛みを感じる足と掌を見れば擦りむいて血が出ていた。痛い。正直涙で出るほど痛い。


「アーチャーてめぇな!!殺す!殺してやる!!」
私のその姿を見たセイバーは自分を捕らえている糸を引きちぎろうと四肢を動かしながら血走った目でアーチャーを睨みつけていた。


「大人しくしててくれればこんなケガさせずにすんだのに・・・・・悪いな。これに懲りたら今度こそここで大人しくしててくれ」
私に近づいてきたアーチャーはケガをしている私を辛そうな顔で見つめながら頭にポンポンと手を置いて再びセイバーへと向き合った。アーチャーの言うとおり、このまま大人しくしていればきっとこの人は手を出してこないし、こんな痛い思いをすることはもうないだろう。だけど・・・・・だけど・・・・・!


「セイバー!」
私は上半身を起こして瞬時に床に落ちていた弓と矢を手に取り構えて矢を射った。


「「「「っ!!」」」」
私が放った矢がさっきの矢とは明らかに違い、オレンジ色に光り輝き凄まじい速さと威力でセイバーの元まで飛んでいきセイバーを捕らえていた糸を貫いた。糸が切れたことによりセイバーの体は開放されて地面へと膝から着地していた。


「あ・・・・・・」
私は矢を射った姿のままその信じられない光景を唖然と見て固まっていた。


「やってくれたな、セイバーのマスター。どうやら俺はアンタを甘く見ていたみたいだ。悪いが少しの間眠っていてくれ」
私の前に立っているアーチャーは振り上げた片手を私の首めがけて振り下ろそうとしたが、その瞬間お腹からぐっと体を持ち上げられてアーチャーとの距離が離れた。


「無事かマスター!」
私を抱えたまま数メートル後ろへと飛んだセイバーはすぐさま私の無事を確認したが、私なんかよりもずっとたくさん傷つき血だらけになっているセイバーを間近で見て、思わず言葉を詰まらせた。


「おい、大丈夫か?!やっぱ傷痛むか?」
何も言わない私を見て重症なのかと勘違いしたセイバーは、その場にゆっくり私を下ろして下から上まで私の姿を心配そうに見回した。


「ひでぇケガだな。肉見えてんぞ」
先程擦りむいた私の足は皮がめくれて肉が見えており血がツーっと足首の方まで流れていた。「あー。ひっでぇな」と言いながらセイバーは、触ることもできずにただただ指が傷口に触れるか触れないかのところで指先をさ迷わせていた。


「逃げよう。セイバー」
セイバーの腕を掴んで目を見つめれば、セイバーは一瞬驚いた顔をしたあと眉間に皺を寄せた。


「は?何言ってんだよ。今ならあいつをっ!・・・・いや、それよりもお前の手当ての方が優先だな。悪い」


「そうじゃない!そうじゃなくて!」


「名無し?」


「セイバーがこれ以上傷つくのがイヤなの!」
セイバーの体に抱きつきながら肩口に顔を埋めた。さっき無数の矢を体に浴びたセイバーを見て死んでしまったかと思った。もう二度と会えなくなってしまうかと思った。ランサーと戦った時に聖杯戦争が命がけの戦いだということを理解していたはずなのに、いざ、セイバーが傷つく姿を見ると怖くなってしまう。


「なんだ。そんなことかよ」
肩口に顔を埋めていたままの私の頭を優しくポンポンと叩きながら、少し笑ったような声でセイバーは優しくつぶやいた。


「えっ?」
顔を上げてすぐ横にあるセイバーの顔を見れば、「それなら、大丈夫だ」と私に満面の笑みを見せた。


「要はこれ以上俺がやられなきゃいいんだろ?もうお前を心配させるような戦いはしねぇ。だから、俺のことを信じて今度こそここで大人しく俺の戦いを見ててくれ。さっきは助けてくれてありがとな。マスター」
今度はセイバーから私に抱きつき、あやすように背中を優しく2回ほど叩いて体を離した。


「セイバー」


「戦いが終わるまで、大した手当てはしてやれねぇけど待ってられるか?」


「うん。大丈夫」


「まぁ、こうやって舐めておきゃ治るだろ」
そう言ってセイバーは私の擦りむいて血が出ている掌を掴んで傷を舐めた。その瞬間私からは悲鳴にも似た声が出て、全身の血が顔に集まり顔を熱くなった。


「せ、セイバー何してるの!」


「何って消毒だろ。・・・っ!!」
私の掌を舐めてケロっとした顔をしていたセイバーだったが、一瞬、目を見開いて苦しそうな顔をした。


「セイバー大丈夫?」
もしかしてさっきの傷が痛むのだろうか。と心配してセイバーの様子を見たが、不思議なことにセイバーの体中からダラダラと流れていたら血が止まっていた。さっきのように手を握って魔力を送ったりはしていなはずなのになんで・・・・と疑問に思っていたが、当のセイバーは自分のその様子に気づいていないのか、「今なら勝てる気がする」とアーチャーの方に向き直り剣を構えた。


「マスター、ちょっくらあいつの首を獲ってくる。お前の仇も一緒に取ってきてやるから安心しな!」


「気をつけてね」


「おう!」
私に元気よく返事をしたセイバーは先程よりも更にスピードを上げてアーチャーへと突っ込んでいった。そんなセイバーに反応が遅れたアーチャーは弓を構える前に遠くへと吹き飛ばされた。


「俺のマスターによくも手ぇ出してくれたな。生きて帰れると思うなよ?」
遠くへと吹き飛ばされたアーチャーを追って更に一撃を加えたセイバーは先程と違って攻撃の威力が上がっていた。なんで?もしかして、魔力供給が上手くいっているの?と疑問に思った私はセイバーの様子を見ながら一人考えていた。