「王逆くん。ここで戦ったりしたら、住民の人たちが」


「それも、そうだな。おい、そこのサーヴァント!場所移動すっぞ!」


「ぎゃあ!」
右手に剣を持ち直して左手で名無しを脇に抱えれば何とも色気のねぇ声が聞えた


「お、王逆くん・・・な、なにを!」


「決まってんだろ!飛ぶんだよ!!」


「きゃあああああ」
足に力を入れて地面を軽く蹴れば簡単に空高く飛ぶことができた。とりあえず、人目に付かねぇように屋根をつたって移動するか。人間の体じゃこんなこと到底無理だな。と改めて人間とサーヴァントの体の違いを思い知らされた。


「王逆くん、ほんとに王逆くんなんだよね?」
走って移動してる最中に脇に抱えてた名無しが少し不安そうな声で俺に話しかけてきた。そりゃそうだな。ずっと一緒にいた男がいきなりこの姿になれば驚くか。


「あぁ。これが俺の本当の姿だ」


「信じられない・・・・王逆くんが女の子だったなんて」


「名無し。お前だから大目に見てやるが、次俺のことを女と言いやがったら、最強に痛ぇデコピンかますぞ」


「ご、ごめんなさい!」
普段俺を女扱いするやつは全員皆殺しだが、こいつだけは大目に見てやるか。そういや、生前のこいつは俺のこと一度も女扱いしなかったな。父上の話もしてこなかったし、今日は大好きなハンバーグが食べれただの、どうでもいい自分の話ばっかりを俺にしてくるような女だった。でも、それが一緒にいて心地よかった。安心できたんだ。


「とりあえず、今は黙っとけ!舌噛むぞ!!」


「うっ」
なるべく人目に付かないように屋根の上を飛んできたが上下運動を繰り返すたびに名無しから吐きそうな声が聞えてきてそろそろマジで吐くな。こいつ。と思いながら周りを見渡せば、廃れた神社が目に入った


「名無し!降りるぞ!ちゃんと俺に掴まれ!!」


「そ、そんなこと言っても掴まるとこなんて!きゃあああ!!」



*



「はぁ・・・・・はぁ・・・・はぁ・・・・・」


「大丈夫か?」
地面の上に降ろした瞬間に四つん這いになって吐きそうな顔をしている名無しの目の前にしゃがみこんで背中をさすったが、顔色は悪くなる一方だった。


「まさか、こんな場所に私を連れ込むとは思わなかったよ」


「やっと追いついてきやがったか。ここなら思う存分力が発揮できる。さっさと、殺してやるからかかってこい!」
一足遅くここに辿り着いたランサーに剣を向ければ、奴もすぐに臨戦態勢に入った


「女性があまりそのような汚い言葉を使うべきではない。気の強い女性は調教しがいがあるが、今回は遠慮させていただこう」


「てめぇ!俺を女扱いするんじゃねぇ!殺すぞ!!」
俺は片手で持っていた剣を両手で握りなおして、魔力を開放した。


「王逆くん・・・・」


「名無し。すぐにあいつを倒して戻ってくるから、吐いて待ってろ!」


「は、吐かないよ!」
未だに四つん這いの状態から治れてない名無しに声をかけて奴と戦うために少し離れた


「栄光たるフィオナ騎士団の名の下に。その首、貰いうけよう」


「ったく。有象無象らしく薙ぎはらうぞ!」
奴が突きの構えをしたのを見て最初に来るのは中段攻撃か。と予想した。


「いざ!!」


「くたばりやがれ!」
予想通り心臓めがけて槍が飛んできたのを見て俺は横に避け上から剣を振り下ろそうとした。


しかし


「っ!?」
槍は軌道を変え俺の顔をめがけて飛んできた


ギリギリのところで避けたが、あと2cm近かったら俺の両目はやられてた・・・・


「はっ。なかなかやるじゃねぇか」


「君こそ。まさか、今のを避けられるとは思わなかったよ」
こいつ・・・・。俺が横に避けて攻撃するのを先読みしてやがったのか・・・・


「君は随分素直な子のようだね。動きが手に取るようにわかるよ」


「うるせぇ!」
こうなったら力技で押し切るか!槍先を弾いて接近して胴体に切り込んだが、切り込んだ先には奴の姿が無かった・・・・


「言っただろ。君の動きは手に取るようにわかると」
横を見れば目の前にランサーがいて槍を振りかざした


避けられねぇ!!!


「うわっ!!!」
咄嗟に剣を構え攻撃を受け流そうとしたが、避けきれずそのままダイレクトに攻撃を喰らい、俺の体は吹っ飛ばされ廃れた神社の建物に突っ込んだ


「王逆くん!!」


「げほっ・・・・げほっ・・・・」
自然と咳が出て手で口を覆えば、血がべっとりと付いていた・・・・


「血が!!ケガしてる!!」
いつの間にか俺の前に来ていた名無しはポケットからハンカチを出し俺の口を拭った
よく見れば、攻撃を受けたわき腹からも血が出ていた


「勝敗は決まったようだね」


「これ以上王逆くんを傷つけないで」
ゆっくりと俺らに近づいてきたランサーに向かって名無しは俺を守るように前に立ち両手を広げた


「ははっ。マスターに守られるサーヴァントなんて聞いたことがないよ」


「くそっ・・・・」


何も言い返せねぇ。


こんな姿になってもまだ名無しを助けられねぇのか。


情けねぇ・・・・


「そんなことない!王逆くんは命懸けで私を守ってくれた!だから、今度は私が王逆くんの力になる!!」


名無し・・・・・・


いつも守られてるのは俺の方だ・・・・・


あの頃とは違う平和な世界に生きてくことになって俺はずっと不安だった。力だけが全てじゃねぇ世の中で上手く生きていけねぇことに息苦しさを感じてずっともがき続けてた。
だけど、お前がいるから。
お前がこの世界で生きてるから。
俺もこの世界でもっと生きていこうと思えた。
だから、次は俺がお前を守る番だ。


「名無し。悪ぃ。少しだけ力を貸してくれ」


「うん!私の全部をあげる」
剣を杖代わりにして起き上がった俺は左手で名無しの右手を握り締めた。握り締めた瞬間名無しは驚いた顔をしたが、すぐに俺に向き直り、俺の手を両手で握り直して祈るように額に押し当てた。


「そんなことをした所でなにもっ!!な、なんだ!!」
名無しが握りしめた手から赤い光が溢れ出し俺らの体を包み込んだ


あったけぇ・・・・・


そうだ・・・・これが名無しの魔力だ・・・・


俺が大好きな・・・・


安心できる光だ・・・・・


名無しの魔力がどんどん体の中に流れ込んできて体が熱くなった


「名無し。ありがとな。充電完了だ!!あとは、下がってろ!すぐに終わらせる!!」


「うん!待ってる!!」


「おう!!」
名無しが少し後ろに下がったのを確認して俺は剣を両手で握りなおした


「マスターから少し力をもらった所でこの力の差は変わらないぞ!」


「はっ!それはどうかな!そういや、まだ名乗ってなかったな。
わが名はモードレッド騎士王アーサーペンドラゴンの唯一にして正統なる後継者だ!死ぬ前にこの名を胸に刻んでおけ!!」
着ていた鎧を取り払って宝具に魔力の全てを注ぎ込めば、共鳴するように風が吹き荒れた


「っく!この魔力の大きさは!宝具を発動させる気か!ならば、こちらも!
『 無敗の紫靫草 (マク・ア・ルイン)』!」


「喰らえ!『我が麗しき父への叛逆』(クラレント・ブラッドアーサー)!」


俺の宝具と奴の宝具がぶつかり合った瞬間、辺りの木や建物が全部吹き飛んだ


「っく!なかなかやるじゃないか!だが!ここまでだ!!」


「ぐっ!!」
奴が宝具の威力を更にあげて俺の体は押された。やべぇ。後ろには名無しがいる。俺がここで押し負ければ名無しも死ぬ。


「王逆くん・・・・モードレッド!!負けないで!!」


「っ!」


あぁ・・・・負けねぇ!


お前が後ろにいるんだ!負けられねぇ!!


「うおおおおおお!!」


「なにっ!?ぐああああ!!」
更に魔力を込めた俺の宝具は奴の宝具を跳ね返しそのまま奴の心臓を貫いた


「はぁ・・・・はぁ・・・・はぁ・・・・」
魔力を使い果たし今すぐにでも倒れそうな体をなんとか剣で支えた。


「エリンの守護者たる……この……私が……!」
目の前を見れば俺の宝具に貫かれたランサーは黄金の光に包まれて消えていった・・・


「ま、災難だったと諦めな」
奴が消失したのを確認し、俺は後ろにいる名無しの元へと体を引きづりながら近寄った


「名無しケガはねぇか?」
安心したのか地面に座り込み下を向いてる名無しに合わせて俺もしゃがみこんだ


「大丈夫か?うおっ!!」
しゃがみこんだ瞬間に突然名無しに抱きつかれて俺は後ろに倒れ込んだ


「名無し?」
何も言わずに抱きしめてきたままの体を抱き寄せれば、その体はすげぇ震えてた・・・・


「怖かった・・・・・」


「あぁ。もう大丈夫だ」
その震える小さな背中を優しく擦りながら俺は何度も大丈夫だと言いつづけた。