「何だこれ、聖杯戦争か?」
あの英霊召喚の儀・名無しの手にある令呪・襲いかかってきたサーヴァント。どれをとっても聖杯戦争しか思いつくものがなかった。


「え?王逆くんは何か知ってるの?なんで私殺されそうになってるの?あの人だれ?何が起きてるの?!」
突然起きた出来事に混乱している名無しは走りながらも俺に疑問をぶつけてきた。少しでも安心させるために答えてやりたい気持ちはあったが、今の俺にはそんな余裕はなかった。


「話はあとだ!今は死ぬ気で走れ!!」


なんで名無しに令呪なんて・・・・
しかも、見たところ、こいつサーヴァントも召喚できてねぇじゃねぇか・・・・
俺も今は生身の人間だ。今あのサーヴァントと戦うことなんて・・・・


「逃がさないぞ!」
電柱を飛びながら俺らを追いかけてきたランサーは、電柱から俺らに向かって襲いかかってきた。


「くそっ!」


「きゃあ!!」
すぐに俺らに追いついてきたランサーに舌打ちをしながら無理矢理物陰に名無しを押し込んだ。


「ん?君には令呪がないようだが、魔術師かい?」
寸での所で奴の攻撃を避けた俺を見て、ランサーは首を傾げた。


「いーや、今はただの通りすがりの人間だ」


「ただの人間がこの私に歯向かうとは」


「人間だが、多少はお前の足止めぐらいはできるぜ!!」
俺は咄嗟に背中に背負っていた竹刀を手に取って構えた。サーヴァントを倒せるわけがねぇ。だけど、名無しだけはここから逃がさなきゃいけねぇと思った。


「王逆くん!」
竹刀を握って立ち向かおうとしている俺を見て名無しは悲鳴のような声で俺の名前を呼んだ。無茶だとわかっているんだろ。


「そんな棒っきれで何ができる!」
ランサーは竹刀を構えた俺に向かって容赦なく手に握っている槍を振り下ろした。相当手加減されている攻撃だというのに、俺の手には信じられない程の激痛が走った。


「うっ!!」
竹刀じゃ当然攻撃を受け止めきれずに俺は体ごと吹っ飛ばされた。


「王逆くん!」


「うっ・・・・くっそ・・・・・名無し!!ここは俺が食い止める!お前は逃げろ!」
さすがに今のこの体じゃサーヴァントに太刀打ちできねぇか・・・。一発しか食らってねぇのに起き上がるのもやっとだ・・・・。手元を見れば案の定さっきの一発で竹刀は壊されたが俺は残った柄(え)の部分を握り締めて片膝しか立てねぇ状態で名無しの前に立った


「えっ!でも!!」


「いいから逃げろ!!お前に何かあったら俺が困るんだよ!」
戸惑いで足を止める名無しに向かって俺は逃がすために大声で怒鳴るように叫んだ。俺がどうなったっていい。お前が無事でいてくれればそれだけでいい。その気持ちが少しでも伝わって、その足を動かす力になればいい。


「王逆くん・・・・・」


「あー。そういうことか。愛は素晴らしいね」
俺達のやり取りを見てランサーは何かを察したように声を出した。


「はぁ?!何言ってやがる!!」
片手で痛むわき腹を押さえながら竹刀を握って名無しの前に立つ俺を見て、目の前のランサーは意味深な笑みを浮かべた。


「若い君たちを殺さなければいけないのは少々心苦しいが、心中なら満足だろう。どちらにせよ、ただの人間であろうと、目撃者は始末しなきゃいけない決まりだ」
ここでこいつを殺さないと、名無しは確実に殺される。何とかしねぇと・・・・


「くっそ!こんなところで死んでたまるかよ!」
この状況をどうにかしねぇと・・・・せめて名無しだけでもなんとかして逃がさねぇと・・・・


「王逆くんもういいよ!王逆くんは逃げて!狙いは私だけなんだから、王逆くんは関係ない!そこの人!私をさっさと殺しなさい!その代わり彼にはこれ以上手を出さないで!」


「お前!何言って!」
今まで俺の後ろにいた名無しは俺の前に出てきて自らランサーの元へと歩いて行った。


「へぇ。可憐なだけの女性じゃなかったか・・・・。ますます殺すのが惜しい。
私の美しさに見惚れて恋焦がれてしまった君を出会ってすぐに殺してしまうのは可哀想だが、これは聖杯戦争だ。私に恋焦がれたまま死ぬのは仕方あるまい!」


「「っ!?」」
魔力が溜まって光に覆われている槍を見て俺は焦った。あんなの食らったら木っ端微塵になるぞ!


「名無し!!下がれ!!」
俺はすぐにランサーの前に立つ名無しに向かって叫んだが、名無しは恐怖のあまり膝から地面に崩れていった。


「生前に君のような女性と出会うことが出来ず残念でしかたないが、マスターの命だ、ここで死んでもらう!」
ランサーは腰を低くし、膨大な魔力を集めた槍を両手で一度後ろに引いた。一突きで仕留める気だ!マズイ!


「名無し!!早く立て!!すぐに逃げろ!!」
俺はさっきと同じようにもう一度名無しへと叫んだ!今逃げなければ、もうこの攻撃からは逃げられない。早く、早くその足を動かしてくれ!そう願った。だけど・・・・


「王逆くん・・・・。

さよなら」
恐怖で立ち上がれず地面に座り込んだまま名無しは泣きそうな顔で笑いながら俺を見た。


『信じて。大丈夫だから。すぐにまた会おう』


あの時の笑顔とは全然ちげぇのに、何故かあの時の名無しの笑顔と今目の前にある名無しの笑顔が重なって見えた俺は、一瞬息が止まった。


また同じ過ちを犯すのか・・・・


今はまだ名無しが俺の目の前で生きている


なのに・・・・・俺は・・・・・俺は・・・・・


「死なせるわけねぇだろ!!!!!」


「「っ!?」」


ガンっ!!!!


「名無しには指一本触れさせねぇ!!それが俺の騎士としての役目だ!!」
痛む体に鞭打って俺は最後の力を振り絞って瞬時に名無しの前に立ちふさがった。


「「「っ!?」」」


折れた竹刀で名無しを貫こうとしたランサーの槍を受け止めたはずなのに、目の前にあった竹刀は見覚えのある剣に形を変えていた・・・・・


「その剣はなんだ・・・・それになんだその姿は・・・・・」
ランサーは戸惑ったように槍を構えたままの姿で固まっていた。そして・・・・


「燦然と輝く王剣(クラレント)?!」
俺は見覚えのあるその剣に驚きを隠せずにいた。今目の前にある剣は生前俺がモードレッドとして使っていた剣だ。なんでこんなタイミングで・・・・・


「え?お、王逆くん・・・・なの・・・・?」
後ろにいる名無しが何故かとても驚いた声を出しているのを聞いて俺は後ろを振り返った。


「名無し!ケガはねぇか?!」
俺はすぐに名無しの足先から頭のてっぺんまで視線を向けた。その時、名無しの黒目に映った自分の姿に疑問を持った。そして、俺はその時にようやく自分の違和感に気づいた・・・・


「お、女の子?!」


「おおお、元の姿に戻ってる!」
よく自分の姿を見てみると俺はモードレッドの姿に戻っていた。声も女の声に戻っていることに気づいて違和感を感じ思わず自分の喉を押さえた


その場にいる全員が今何が起こったのかわからず混乱している中


「ま、まさか、君がこの子のサーヴァントだったとはね。騙されたよ。」
目の前のランサーは困惑の表情をしながらも武器を構えた


「い、いや、騙すつもりは全く無かったんだが・・・まぁ、何だかよくわかんねぇが、これでお前をぶっ飛ばせるな!!」
これは幸いと言わんばかりに俺はランサーの方を向いて剣を構えた。今ならこいつとまともに戦うことができるかもしれねぇ。


「あぁ、良かったよ。マスターの命とはいえ、さすがに無抵抗の女性を殺すのには少し抵抗があったんだよ」


「は!そんな風には見えなかったけどな!!」
不敵な笑みを浮かべたランサーを見て、俺は鼻で笑った。容赦なく名無しにその槍を向けたその姿からは、そんな様子微塵も感じられなかった。


「王逆くん!」


「名無し!下がってろ!後は俺がこいつを倒す!!」
俺に手を伸ばそうとした名無しに声をかけながら、俺は手で少し後ろに下がるように指示を出した。


「姿が変わったとはいえ、そう簡単に形勢は変わらないさ!!」


ガンっ!!!


「うっ!!!」
突き刺してきた槍を剣で受け止めたが、あまりの一撃の重さに思わず体制が崩れかけた。


「ほらほら!もっと君の力を見せてくれ!!!はははは!!」
一撃目を受け止めた俺に向かってランサーは容赦なく続けざまに攻撃を仕掛けてきた。


「くっそ!!なめんなよ!!」
サーヴァントの体に戻ったばかりの状態では、目の前のランサーから打ち込まれる連続技をはじき返すので精一杯だった・・・・。


「ほら!はじき返すだけでは私に傷一つ付けることなどできないぞ!」
全く反撃を仕掛けてこない俺に自分の優勢を確信したランサーは面白そうに煽ってきた。しかし・・・・


「はっ!それはどうかな!!」
俺は、剣を強く握り直して、自分の肩にめがめて突き刺してきた槍を思い切り下から切り上げた。そして、体制を崩したランサーに槍ごと剣を押し付けた。


「なに?!ぐあっ!!」
はじき返す瞬間に魔力を放出すれば、相手が簡単に吹っ飛んだ。


「やっと調子が戻ってきたぜ」
久しぶりに握った剣を振り回しながら、俺はようやく戻ってきた感覚に心地よさを覚えた。何が原因でこの姿に戻ったかはわからねぇが、好都合だ。このまま押し切る。