「「あ」」
下校途中に十字路でたまたま名無しとばったり会った


「今日はよく会うな」


「ほんとだね」


「夕飯の買出しか?」
名無しが片手に持っているスーパーの袋が目に入った。食材の他に牛乳パックが一本混ざってるのが見えて荷物を代わりに持ってやろうと手に持ってたスマホをポケットの中に突っ込んだ


「あ、うん。うちお母さんがいないから、私が家事やってるの」


「そうか・・・・大変だな」
たしか生前の名無しも親がいなかったな。それで両親がいない名無しを引き取ったのがカルデアの職員で、たまたま名無しにマスターの適正があったから、マスターとしてあそこにいて・・・・


「もう慣れちゃったからそんなんでもないよ。料理は結構上手な方だと思うから今度よければ食べにきて」


「は?お前何言って!」
満面の笑みで言われた言葉を聞いて、一瞬で体温が上がったのを感じた。


「あ!ごめん今のは違うの!女の子の友達と話してる感覚でしゃべっちゃって!お父さんがいつも帰ってくるのが遅いからたまに友達に夜ご飯食べに来てもらってて!」


「あぁぁ、そ、そうか!き、気にすんな!」
顔熱っ!名無しの顔もなんか赤ぇし、なんだこの心臓が爆発しそうになる感覚は!


「あ、私の家こっちだから!またね王逆くん!」
名無しは片手で赤くなった頬を押さえながら足早に分かれ道に走って行った


「お、おぅ。気をつけろよ」


名無しが走っていった道とは反対の道をしばらく歩いていたが、
そういえば、あいつの家こっからまだ離れたとこだった気が・・・・やっぱ荷物持ってやった方がいいよな。そう思って俺は道を戻って名無しを追いかけた。



*


「そこのお嬢さん」


「?・・・はい」
王逆くんと別れたあとしばらく歩いていたら知らないおじいさんに声をかけられた。住宅街で道にでも迷ったのかな?そう思い、話を聞くためにおじいさんの方へと足先を向けた。すると・・・・


「綺麗な魔力をもっているね」
おじいさんは近づこうとした私に向かって笑みを浮かべながらぼそっとつぶやいた。


「はい?」
やばい。新手の宗教勧誘だったかも。私はおじいさんの方に進めていた足を思わず止めた


「お嬢さん、君に願いはあるかい?」


「え、願いって・・・・」
戸惑う私をよそにおじいさんはどんどん一人で話を進めていった。


「どんな願いでもいいよ。何か願いはあるかい?」
何でもいい。と言われても、日ごろからこれがしたいあれがしたい等、願望が強い方ではないため、願い事なんてぱっと思いつかなかった。


「願い・・・今はすごく幸せな毎日をすごしているので、しいて言うなら、もう一度・・・もう一度だけお母さんに会いたいってことぐらいですかね」
頑張って願い事っぽいことをひねり出した私は困ったように笑いながらおじいさんに言った。下手にお金持ちになりたい。もっと綺麗になりたい。等、もしかしたら叶えられるかもしれないことを口にすれば、それをネタに宗教の勧誘をされるかもしれないが、亡くなった人に会うなんていくら宗教でも無理だろう。と思いこの願いを選んだ。
お母さんに会いたい。というのは嘘ではない。だけど、亡くなってから10年以上経った今、私はちゃんと母の死を受け入れられている。だから、叶わないとわかっていながら、願うことはない。


「そうか。君には願いがあるのか・・・・。

じゃあ、それを叶えてあげよう!」


「え・・・?」
当然引き下がるだろう。と思っていたのに、何故かおじいさんは、先程よりも嬉しそうに笑みを深め、突然懐から杖を取り出して杖の先を地面に叩き付けた。


「っ!?な、何?!」
その瞬間に周りが異様な空気になったのを瞬時に察した私の脳内はこの場から逃げろと警告を出していた。逃げなければいけない。そう頭ではわかっているのに、足が地面に張りついたまま動かなかった。


「名無!!どうした!!」
今来た道の方から私に向かって問いかける王逆くんの大きな声が聞えて、私はそっちに視線を向けた。


「王逆くん!助けて!」
先ほど別れたばかりの王逆くんが遠くから走ってくるのが見えて私は思わず助けを求めた。



*



分かれてからそれほど距離が離れていなかったからか、すぐに名無しに追いついた。
だが、そこには、重々しい黒い雰囲気が漂っていた。異変を感じた俺は足を速めて名無しに駆け寄った。


「王逆くん!何かが起きて・・・・きゃあ!」
名無しのいる地面が突然光輝き何か陣のようなものが浮かびあがった。


「名無し!」
名無しに何か危害が加えられると感じた俺は慌てて名無しに駆け寄りその体を守るように抱きしめた。


「王逆くん!何これ!怖いよ!」
恐怖のあまり名無しは俺を力強く抱きしめ返せば、陣の周りを円を描くように白い光が現れ一瞬黄金に輝いたそれは突風となって俺らを包んだ


見覚えがある・・・・・


これは英霊召喚だ・・・・・なんで名無しが・・・・?俺は目の前で怖がっている名無しを見て疑問しか生まれなかったが、突風はすぐに止み地面の光が消えた・・・・


「「一体何が・・・・」」
突風はすぐに止み、空気にまざって消えていった・・・・。そして、足場にあった英霊召喚の陣も消え去り、ただのコンクリートの地面が足裏に広がっていた。


「手が熱い・・・・」


「どうした!見せてみろ!!」
突然右手を押さえた名無しの手を強引に奪ったが、そこに付いていた見覚えのある印を見た瞬間驚いた。


「令呪・・・・だと?!なんでこんなもんが・・・・」


「え?れいじゅ?うわっ!何?!なんか手に変な模様が!」
俺は名無しの手にある令呪を見て固まった。これがあるってことは名無しがサーヴァントを召喚したってことだ。でも、そんな奴どこにも・・・・・
俺は再度周りを見渡したがサーヴァントらしき存在はどこにも見えなかった。召喚は失敗したってことか?なんだあれは・・・・・


「王逆くんどうしよう!なんか空も変な色に・・・・」
名無しは不安げにまだ夕方の時間だというのに闇夜に染まっていく暗黒の空を見つめた。


「一旦落ち着け。状況確認が先だ。お前なんで英霊召換なんて・・・・」
なんで急にこんなことになったのか、俺が来る前にここで何があったのか確かめるように問いかけていると・・・・


「おや、君がマスターかい?サーヴァントは隣に居る・・・・ではないようだね。近くにはいないようだが、好都合だ」
突然頭上から楽しそうな男の声が聞えてきた。


「え・・・・何・・・・・?」
その声の主を探すために俺と名無しは上を見上げた。するとそこには、槍を持った金髪の長髪の男が電柱の上に立っていた。俺は、その姿に見覚えがあったが、何故か誰なのか思い出すことができなかった・・・・それは名前を聞いても同じことだった・・・・


「私の名は『フィン・マックール』君のような見目麗しい女性を殺すのは実に惜しいが、敵のマスターなら仕方がない。美しい私のためにここで死んでくれ!」
そう言って槍を構えて俺らの方に飛んできた奴を見て瞬時に生命の危機を感じた。


「えっ!きゃっ!」


「名無しこっちだ!!」
今起きてることに混乱している名無しの腕を掴んで俺は走った。突然何が起きているか俺にもさっぱりわからねぇが、とにかくこの腕を掴んでいるお前だけは何があっても守らなきゃいけねぇと思った。


そして、平和に過ごしていたはずの世界は突然俺らに終わりを告げた。