「ここであってるのかな?」
見渡す限り山と木に囲まれた景色を見渡しながら名無しは隣を歩いている王逆に問いかけた。


「合ってんだろ。所々にあのアホヅラの絵がかかれた看板立ってるしな」


「あ、ほんとだ」
王逆に言われて横を見れば、ライダーの顔が描かれた看板が道の先を示すように所々に立っていた。


「『この先だよ』だって」
立ち止まって看板に書かれている文字を読んでいると、王逆は、「一本道しかねぇんだから迷わねぇよ」と言って、先にどんどん進んで行った。


「あ、待って」
名無しは置いていかれないように小走りで王逆の後ろを追っかけた。先日、剣道の大会で再会したライダーと神宮寺から共闘の誘いを受けた名無したちは、王逆の出した、自分に勝つことができたら。という条件の為、ライダーたちが用意した場所に向かっていた。


「ねぇ、ライダーに魔力あげたことまだ怒ってるの?」
あの一件以来ずっと不機嫌な王逆に名無しは声をかけた。血液が入ったカプセルを1個あげたぐらいでそんなに怒らなくていいのに。と名無しは思っているが・・・・


「怒ってるに決まってんだろ!よりにもよってあんな奴に!」
キスで魔力供給をしたと勘違いしている王逆は、拳を握りながら、怒りで身を震わせた。自分があれほど何度もキスで魔力供給をしろ。と言っても、その度に、好きじゃない人とはできない。って言って断り続けたくせに、一回会っただけのあのポンコツサーヴァントとはできるなんて、納得できねぇ!ましてや、俺よりも先に名無しとキスしただと?!ふざけんな!と脳内で何度も激怒し、その度に、学校の壁や机に当り散らし破壊していた(当然だが、名無しの家ではしない。そんなことをやろうものなら確実に怒られて、最悪追い出されるから)


「もう、じゃあどうしたら許してくれるの?」
怒って前を歩き続ける王逆の足を止めさせるように前に立った名無しは困った表情で彼のことを見つめた。


「それは・・・・・」
自分の前に突然体を滑り込ませてきた名無しを見て、一瞬、驚いた顔をした後、思わず視線を名無しの唇へと移した。


「?」
動きが止まった王逆を見て首を傾げた名無しはそのまま彼のことをじっと見つめ続けた。


「・・・・・。」
そんな名無しに引き寄せられるように王逆の顔はゆっくりと名無し顔に近づいていき・・・・


「むぐっ!」
王逆は片手で名無しの両頬をがしっと掴んだ。


「一生許してやんねーよ」
名無しの両頬を掴んだまま顔を近づけた王逆は、目を細めて名無しを見つめた。怒られている状況なのに、至近距離で見た顔があまりにもかっこよかった為、一瞬名無しの心臓はどきっと高鳴り、動きが固まった。


「大体、瀕死の状態で倒れてたなら息の根止めろよ!」


「む、無理だよ!それに、ライダーは命の恩人だし・・・・」


「だから、アイツは敵だって何度言えば「あ、いたいたー!おーい!」」
名無しと王逆が話していると坂の上からライダーの声が聞えてきて、2人がそちらへ視線を向けると、「ここだよー!」とぴょんぴょんジャンプしているライダーがいた。そんなライダーを見て、名無しが笑顔で手を振ると、むっとした王逆は、その手を掴み下に下げた。


「なんか、むかつく」


「えっ、なんで?!」
何故今のでむかつかれたのかわからない名無しは、また先を歩いて行ってしまった王逆の後ろを懸命に追いかけた。


「迷わなかった?大丈夫だった?」
坂の上に辿り着いた名無しの前に立ち、ライダーは、首を左右に傾げながら問いかけた。


「ライダーの看板があったから迷わなかったよ」


「ほんと?ボク役に立った?」
名無しの言葉を聞いて、ライダーは嬉しそうにその場でくるくると回り始めた。


「うん。ありがとね」


「っけ!あんなもんなくたって、一本道なんだから迷うわけねぇだろうが!」
そっぽ向いて悪態を付いた王逆の頭に間髪いれず、名無しはチョップをした。


「いてぇな!」


「人の好意を無碍にするような発言するから」
むっとした顔を名無しが向けると、さっきまで怒っていたはずの王逆は、うっ。と罰悪そうに表情を変えた。


「あはは、セイバーはマスターの尻に敷かれてるんだね!」


「はぁ?!てめぇ!」
2人の様子を見たライダーは何の悪気もなく思ったことをそのまま発言し、それを聞いた王逆は今にも殴りかかりそうな勢いで拳を握った。


「よく来たね。歓迎するよ」


「あ、マスター!」
奥から現れた神宮寺を見て、ライダーはそっちに向かって走った。


「人が来るような場所じゃ戦えないとはいえ、こんな山奥に来てもらってご足労かけたね」
剣道着を身に纏い、腰に刀を差した神宮寺はさわやかに、にこっと笑った。


「いえ、その方がこっちも安心です。人を巻き込むわけにはいかないので」
周りが木と山に囲まれているここならめったなことがない限り人を巻き込む危険性はなさそうだ。と名無しは安堵した。


「そうか。それならよかった」


「建前なんざ、どうでもいい。さっさと始めようぜ。てめぇも戦闘準備万端って所だしな」
神宮時の格好を見た王逆はすぐさまモードレッドへと姿を変え、剣を握り締めた。


「始める前に、ちょっとだけいいかな」


「は?なんだよ」
今にも飛び掛っていく気満々だったモードレッドは不機嫌な表情で一度剣を下におろした。


「普通に君とライダーが戦ったとしても、ほぼ100%ライダーに勝ち目はない」


「っは。わかってんじゃねーか!自分のとこのサーヴァントが雑魚だってこと」


「あぁ、十分わかってるさ。うちのライダーがこの聖杯戦争に参加しているサーヴァントの中で最弱だってことぐらい」


「あのー。そのぐらいにしてあげませんか?」
あまりにも雑魚だの最弱だの口にする2人に名無しは思わず声をかけた。その横には、いつの間に近づいてきたのか、「わかってるけどー。自分でちゃんとわかってるけどー」と言って少し悲しそうな顔をして名無しの肩に擦り寄るライダーがいた。
*ちなみにライダーは本気で嘆いているわけではない。ただ悲しんでいるフリをして名無しにベタベタしたいだけである。


「っ!!」
その光景をみたモードレッドは一瞬の内に2人に近づきライダーの首へと剣を添えた。


「死にてぇのか。今すぐ離れろ」
殺気を帯びたモードレッドの目は大きく見開いており、本当にこのまま首をはねてしまうのではないか。と感じた名無しは思わずライダーの肩を掴みそっと後ろに引いた。


「はぁ。ライダー戻れ」


「はーい」
神宮寺にため息混じりに声をかけられたライダーはぴょんぴょん跳ねながら神宮寺の横へと戻った。


「で、先程の話に戻るけど、直接1対1で戦うのではなく、“これ”を奪い合うのはどうだろうか」
そう言って神宮寺は、目の前に2つの鈴を出した。


「鈴・・・・ですか」


「あぁ、これをお互いに1つずつ持ち奪われたほうの負け。どうだろうか?シンプルでいいと思うのだけど」


「別に、ただ殺すのが、鈴奪ってから殺すに変わっただけだから俺は問題ねぇぜ」


「いや、殺しちゃダメだから!共闘しよう。って話だから!」
どんなルールだったとしてもライダーを殺す宣言をするセイバーに名無しはすぐさまツッコミをいれた。


「君、ほんとにセイバークラスか?バーサーカーの間違いじゃないのか?」
神宮寺が眉間に皺を寄せて顎に片手を添えながら言った言葉を聞いて名無しは内心大きく頷いた。


「は?正真正銘セイバークラスに決まってんだろ!どこを見たらバーサーカーと勘違いすんだよ、バーカ!」
その手に持っている剣以外だよ。とその場にいる3人は心の中で声をそろえて思ったが、そこは空気を読んで何も発言しなかった。


「まぁ、その他のルールとしては、令呪の使用は禁止。こんな所で1画でも無駄に使用されるなんてごめんだからね。それ以外はご自由に。魔術の使用も宝具の使用も何をしたってかまわないよ。ルールはそれでいいだろうか?後、念のために言うけど、殺して奪うのはダメだから」


「はっ?なんっ「そのルールで大丈夫です!」」
神宮寺の言葉にモードレッドは反論しようとしたが、すぐに名無しが言葉を遮った。


「悪いけど、どんな手を使っても勝たせてもらうよ。こっちには絶対に叶えなければいけない願いがあるから。君たちには一緒にバーサーカーを倒してもらう」
先程までの爽やかな表情から一変し、真剣な表情で神宮寺は名無しとモードレッドのことを見つめた。


「はっ!絶対に叶えなきゃいけねぇ願いはこっちにもあんだよ。俺が勝ったらバーサーカーを倒す時に囮になれよてめぇら」