三人の貴方

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「・・・もしかして三人でいくつもりですか?」

「そうだよ」ときれいにシンクロした回答に反射的に「だめですよ!!誰かに見られたら大事になりますよ」と止めた。

そんな私とは対照的に小五郎さんは微笑を浮かべている。

「まぁ、そうかもしれないが朝餉を作る時間なら大丈夫だよ。人もそうこないし。」

「そうそう、いつもお前は人払いしてるもんな」

「そんなの当たり前だろう?そうでないと私がわざわざ作っている意味がないじゃないか」

「はーん、今はそれだけの理由じゃないだろうに」

「え?そんなに色々理由があるんですか?」

「晋作のいうことなんかいちいち気にしなくていいよ。蘇芳」

「なんかって、全く失礼なやつだな。」

ぶつぶつといいながらも口元はにやついてる高杉さんを一瞥した小五郎さん(たち)は有無を言わせない様子で私の手をひき、部屋を出た。




幸い、朝早い時間と言うのもあって藩邸の人には出くわさずに炊事場までたどり着く事ができた。

「「「さて始めようか」」」

その声と同時にいつものように朝餉の準備に取り掛かった。
種火から火を大きくし、お米を研ぎ、お釜を釜戸に据えている小五郎さん。
ちらりと別の小五郎さんを見ると、お味噌汁の具材を用意するために野菜を洗っている。
さらにもう一人の小五郎さんに目をやるとお漬物を切ろうと準備中。

(いつも段取りよく小五郎さんが朝餉の準備をしてるけど、その小五郎さんが三人なんて私要らないくらい早く出来ちゃうんじゃ?)

そう思いつつも三人の小五郎さんと朝餉の仕度に取り掛かった。

***

(・・・あれ??)

隣でお漬物を切ろうとしている小五郎さんがおかしい。
まるで始めて包丁を握る子どものようにあぶなっかしい。
今にも指を切ってしまいそうな小五郎さんを見るに見かねて声をかけると小五郎さんはビクリと身体を揺らした。

「どうしたんですか?」

「いや、いつものようにと思っているんだが、手というか身体が覚えていないんだよ」

「え!?そうなんですか?」

「こうすればいいという論理はわかるんだが…」

その発言に驚きつつも他の二人の小五郎さんを見ると、一人はいつものように、いやいつも以上にてきぱきと動いているのに対し、もう一人は何か道具を探しているようなそぶり。
小五郎さんは予定がなければほぼ毎日ここで調理をしているので道具の場所がわからないなんてありえない。

(単純に考えて・・・料理の能力が一人に偏ってるってこと???)

一人頭の中でぐるぐると考えあぐねていると一人軽快な動きを続けている桂さんがニコリと笑った。

「ここは私がやった方がよさそうだね。人目につくといけないから二人には部屋に戻ってもらおうか。朝餉は出来たら運ぶようにしよう」

「そ、それがいいみたいですね」

私が同意をすると二人は小五郎さんがいつもしているように顎に手をあて、少し考えた後、それが一番最良と判断したようで静かに自室に戻っていった。

***

二人きりで朝餉の支度にとりかかるといつもの朝と変わらない、ごくありふれた朝のような気がする。


「小五郎さん」

「なんだい?」

「どうしてこんなことになったんでしょうね」

さっきまでは目の前に三人の小五郎さんがいたので激しく動揺していたけど目の前に一人だけだと少し落ち着く事ができた。

「ほんとだね。私も色々と考えてはいるんだが…こんな摩訶不思議な経験はないんでね」

話の本筋からは離れず、でも少しだけ冗談めかして私を落ち着かせようとしてくれる小五郎さんはいつもの小五郎さん。

「そうですよね。困りましたね」

「ねぇ、早く一人に戻って欲しい?」

「へ?ん〜そうですねぇ。明らかに異常事態ですしね」

「私は早く一人に戻りたいよ」

「そうですよね!不便ですよね!」

「いや、自分だと分かっているんだが蘇芳の傍に自分じゃない人間がいるというのはなかなか不快なもんでね」

「え、小五郎さん、それって…」

「そう、自分で自分に焼きもち。おかしいだろう?」

自嘲気味にくすくすと笑う小五郎さんはぽんと頭に手を載せ、髪の毛をくしゃっとするとまた朝餉の仕度に戻っていった。




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