苺パフェ





理事長に頼まれた買出しを終えて、優姫に引きずられるように入ったカフェ。
甘ったるい香りと、女性ばかりが席を埋め尽くす独特の世界。
優姫は念願の苺を目の前にして、満面の笑みを浮かべてスプーンを取った。

『わーい、美味しそ!』

よだれを垂らさんばかりの蕩けた優姫の表情に、零はアイスコーヒーの氷をストローで突きながら呆れたように笑った。
漂ってくる甘ったるい香りは苦手だけれども、苺パフェごときに馬鹿喜びする優姫を特等席で眺めるのは悪くない。

『また太るぞ』

心にもない嫌みを一言投げかけてやれば、優姫はプクッと頬を膨らませた。
ころころと表情が変わる忙しいやつ。

『太んないよーだ!』

生クリームと苺を掬い上げで、その丸くした頬に頬張る。
あー生きてて良かった!とか、このために頑張ってるんだから!とか大袈裟な台詞を吐きながら、優姫は大きな苺パフェをみるみる食べてゆく。

『…見てるだけで胃もたれしそうだ』

砂糖もミルクも入れていないコーヒーに助けを求めたが、その苦さに零は思わず顔をしかめた。
優姫は突然スプーンの手を止めると、頬杖をついて屈託のない笑みを浮かべた。

『そうやって文句言いながらも、いつも付き合ってくれるんだよねぇ、零は…』

店内に充満した甘ったるい空気に負けないくらい甘い優姫の笑顔。
零は一瞬見惚れてしまったことを隠すように、わざと視線を反らせた。
なんだかんだ言って我が儘を聞いてくれる零の皮肉は、必死な照れ隠しだって気付いてるんだから。
幼なじみを甘くみないでちょうだい。
優姫は真っ赤な苺が乗ったスプーンを零に差し出した。

『一口あげるから、機嫌直して!』

『…誰も欲しいなんていってねーぞ』




─酸っぱいも、甘いパフェ
       恋予感の味がする─




おしまい
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