双子
ハンターの血筋に呪われた、憐れな双子の宿命。
母の胎内に宿った時、すでに命は天秤にかけられていた。
強い者が、弱い者を屠る。
極めて単純な弱肉強食の法則。
『零は優しいから』
壱縷は膝を着いて力無く笑った。
脇腹が酷く疼いている。
拍動が運ぶ血液は行き場を無くして、服に赤い染みを広げてゆくばかりだった。
『この傷はどうした?!』
同じように色褪せた顔色をした零が切迫した声音をあげた。
こんな時まで俺たち合わせ鏡みたいにそっくりだ。
でも、そんなこと今は重要じゃなくて。
壱縷は苦痛に表情を歪めつつも、零と正面から向き合った。
ずっと逃げてたんだ。
脆弱な自分から目を反らして。
強さと優しさを持った零に対する羨望が、いつしか劣等感や憎悪に刷り変わっていたことに。
気付いた時には、もう後戻り出来ない場所まで来てしまった。
ただ、こうして改めて向かい合えば、やっぱり双子だ。
言葉なんかなくても、微かに通じ合える。
元来、零は詰めが甘くて優しいから。
取り込めただろう力には手を掛けなかった。
だからこそ、俺たちはこうして今向き合うことが出来る訳だけれど。
『俺たち、元々はひとつだった。だから、零…』
俺のなけなしの命、食べてよ。
そしたら、零は完璧なハンターになる。
俺は消えるけど、ただ元に戻るだけ。
俺という存在の始まりは、零の優しさが取りこぼした小さな命、だと思う。
『…壱縷、ごめん…』
朦朧とする意識の中、零が名前を呼んでくれている。
嬉しいけれど、謝るのは止めて。
惨めになるだろ。
同情なんか真っ平だから。
遠慮はしないで。
ふたりで、ひとつ。
そういう命だっただけ。
どこから狂ってしまったんだろうね、俺達。
でも、やり直せるよ、きっと。
いまから、在るべき場所に帰るよ。
壱縷は首筋に立てられた牙の痛みを感じると、満足げに微笑んだ。
『…ただいま、零。』
やっと帰る場所を見つけた
─双子─
おしまい
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