02


丸い毛足が長い絨毯に直に胡座を掻き、忙しく動く貴女を目で追っている。
薄暗い部屋には豆電球の明かりが一つで、その中で幾つかのキャンドルを焚きながら、トランクの中からは幾種類もラベル分けされた小瓶のケースを取り出しては、踏み台を僕の目の前に移動させ、洗面器とお湯がたっぷり入ったヤカンとタオルを一式手元に。
僕と面を向かい座る貴女はヤカンのお湯を洗面器に流し込み、ケースの小瓶のラベルを指を沿って選び抜く。

チラリと僕に一瞥を向けては迷っていたであろう種類から一つを選び抜き、お湯を張った洗面器の中へとタラリと液体を落とす。
ラベルの綴りはbenzoin(ベンゾイン)、安息香…か。
以前も施してくれたアロママッサージというやつだろう。
ゆっくり一度貴女の手で湯が掻き回され、波立つ。
予め折り返して捲るシャツから伸びる僕の手を、お手を拝借とばかりに誘われるので、左手から差し出してみせる。


「ね、お月見です」

「あぁ、確かに」


張った水面に豆電球の光が浮かび、まるで月だという。
ゆっくり手を湯の中に沈めても、月は掴めず僕の手の甲に次には浮かぶのだ。
貴女の両手が沈み込み、じっくりと揉み込んで行く。
間接を押し、滑らせて包み込み、爪の先まで柔く力を寄せる。
指一本一本を包んでは流して押し、貴女の手で僕の手を包む。


「っ…ん、あ、そこ良いな」

「…足の裏もですけれど、手も神経のツボが集中しておりますからね。因みに此処、中指の第一関節は心穴、頭痛や苛立ちに効果が期待されますわ。機関員の皆様、殆ど此方が良いと仰有りますのよね」

「僕以外にも貴女は此れを?」

「ええ。人様にマッサージするの割かし好きなんです、私。…って、以前にもお話しませんでしたか?三好さんに」

「それは聞いた。が、他の奴等にもしているとは聞いていない」

「あらら」


頭脳を駆使されるお仕事に従事されるのですものね、心労も募りますわよね、とまるで自分に言い聞かせるように僕の手を包んだままで、もう片方もゆっくり揉んで行く。
窓からは既に秋風が涼やかに入り込み、カーテンをはためかす。
貴女と二人切りだなんて何度もあるのに、今夜は何処か貴女が数倍温かい。
いつの間にか部屋全体が仄かに優しい空気に包まれているようだ。
焼きたてのパン菓子のような、酷く…。



「ん、それ…」


「気持ち良いですか?三好さん」


「うん」


それは良かったです、と柔らかく破顔しては僕と視線を合わせる為に、そのまま視線を絡めとる。
貴女の指の動きに合わせて水面の中で、僕自身も指を動かし、貴女の手を捕らえれば、ハッとして身構えるのが貴女。
指を這わせ、撫でては結って、絡めて繋ぐ。


「はぁ…、気持ち悦いな、コレ」

「っ、三好さん…。離して下さいな」

「如何して?僕を気持ち悦くしてくれるんだろ?」

「リラグゼーションの良さを味わって頂きたいだけです。こんな…」


ぐっ、と身体を前のめりに倒し、貴女の肩に顔を埋める。
見えない水面下ではパシャリと湯を弾いて絡んだ指が蠢いているのだ。
捕らえて、逃がさぬように。


「月なんて貴女が見せるから」


狂って仕舞ったじゃないか。


2016/09/26:UP
next…xxx

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