01


生憎の曇り空ですけれどね、と僕らの寝室に福本と拵えたのだという団子と共に、僅かに開けた窓からの夜風が、花瓶にいつの間にか飾られた芒(ススキ)を揺らした。
微かに鈴虫も鳴き出し、貴女が童謡と思わしき歌を小さな小さな声で口ずさみ、ベッドメイクを整えて行く。
皺一つ残さぬようにとピシリと折り込む指先が最近は僅かに荒れている事を知る。
季節の変わり目ですからね、恥ずかしいですわ、と苦笑を浮かべては自分の私物であるクリームを塗り込んでいた。

皆が繁華街へ繰り出し、僕だけが珍しく残っているものだから、貴女が不審がるのも無理は無く、先程から盗み見るかのようにチラリと何度も視線を向けて来る。
ツルリとした卵白を泡立てたメレンゲ色したロングスリップと、同様の色をした麻の大判のストールを肩に羽織り、他の機関員の誰かが貴女へ贈ったのであろうカメオのブローチで胸元で緩く留めている。

全てのベッドメイクを済ませた貴女は自分のベッド縁に座り込む僕の斜め左に両膝を付き、一度は躊躇った右手を僕の膝へと添えては目をゆったりと細めて来る。
見詰め、見上げて来る。


「三好さん…お誘いしても宜しいですか」


擦り寄り、あくまでも決定権は僕に託す貴女は、次の瞬間には視線を外す。
僕の手よりは幾分も小さな添えられた手を取り、腰を上げれば、外された視線がもう一度僕に向けられる。
一つ、静かに息を吐(ツ)くと、次には包み込むように貴女の手を繋ぐ。


「きっと誘ってくれると思っていた」

「…三好さん。あのね、もしかするとお月様が見えるかも知れませんよ」

「何を企んでる?」


僕が腕を引けば、その引力に身体を預ける貴女が胸に収まる。
悪戯を企む幼児(オサナゴ)のように頬を緩め、次には僕の腕に一度抱き着いては引く。
早く、と逸る気持ちを駄々漏れにさせて、優しい声音で、また知らぬ歌を口ずさみながら。


「三好さんに気持ちよくなって頂きたくて」

「…へぇ」


どんな素敵なお月見なのだろうね。
誘われるままに貴女に心を任せてみようか。



2016/09/26:UP
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