そう、心配は無い。
君になら、平伏す準備はいつでも出来ているさ。

男は単純、だとは誰が言ったのでしょうね。
君はいつだったかぼんやり呟いていた。
何故か、と問えば、女の子の方が単純ですよと首を傾けた。
でも、直ぐに私だけですね、と前言撤回だ。

そんな単純な君は、本日、超絶ご機嫌だ。
戸籍密売のアジトに潜り込んで調査を続ける俺は、仕事の傍らで君に久し振りに会う。
仕事片手にしていても、目一杯甘やかすと決めている。
だから、仕事、仕事の俺に文句一つ言わず黙って待っていてくれる君に、最高の愛情を贈与せねばならない。


「そんなに気に入ったの?」

「はいっ。サラサラでトゥルトゥルですもの」


一人じゃ何処も怖くて行けない君が選んだ場所は美容院。
ヘッドスパにカット、トリートメントのコースを終えた時には、ふわふわした笑顔を浮かべて、滅多に自分から絡めて来ない腕を、今日は俺の腕に絡めて来た。
鼻歌混じりに首をユラユラ揺らしては、動きに合わせて流れる髪に大満足の様子だ。

実は、これからちょっと長かったりする車内移動に耐えて貰う為の飴だった、とは口が裂けても言えなくなって仕舞った。
アジトの在処、関西地方まで、君を同行させるのは俺の我儘だ。
巻き込むのは忍びないが、如何してもカモフラージュの為には君に同行して貰うのが一番良い。
勿論、全てを話せる訳でもないが、俺の立場を案じてか一切、首を突っ込まず、口も挟まない。
ドライブスルーで購入した珈琲シェイクのストローをくわえて、俺には見計らってナゲットを口に入れてくれている。
君の好みの曲をBGMに、ただ、車を走らせる。

楽しそうに、シートベルトを掴んだまま口ずさんで、頭を揺らす。
俺は耳に届く君の声音を人差し指でリズムを同じ様に取る。


「ねぇ、甘利さん」


近クニ来テ。


「ん、なーにー?」


触れても良いですか、だなんて意を決してか細く言うもんだから、俺は苦笑を溢す。
未だ活きていた赤信号に捕まれば、君の手を握れる。

君も知らない君を見せてよ、なんて歌われるナンバーに、何度も足りない足りない言われれば、それは俺の台詞だと君にキスを強請る。
信号を気にしながら、君は触れるだけ、軽く接吻けて、ふわっと微笑み照れている。

幸福だなぁ、なんて思う。
その瞬間、君が嬉しそうに口許に両手を宛がって、ねぇ甘利さん、幸福せですわねぇ、って言うものだから…。
つられて笑って、そうだね、って頷いては視線だけ流す。

残念ながら、この道は仕事の為だけれど、君を乗せてるだけで、立派なデートコースだ。
もう少し走ったら、サービスエリアで休憩しよう。
休憩しながら、君を堪能しよう。

沢山触れて、何度だって愛情を口にしてしまおう。
君が足りないよって我儘になろう。


欲しいんだよ。



Fin …xxx
2016/09/22:UP

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