A.Hの夏唄をimage songとして。。。


特別な感情移入は無かったし、登校すれば大概貴女は既に登校していて、窓側に顔を向けて突っ伏している。
必ずイヤホンを両耳に突っ込んで。
そんな貴女に声を出さずに唇だけでオハヨ、と挨拶している僕を…きっと貴女は知る由もないのだろう。

9月中旬、大東亞中学は秋に体育祭があり、体育や全体練習にも熱が入り始める。
8月後半の真夏や9月前半の残暑と比べ、例年よりはそんなに暑くは無いものの、全体的には倒れる生徒も数人いたか。
その内の一人が貴女で、殆どの体育を途中で抜けているのを目撃していた。
一度は完璧に意識失って目の前でぶっ倒れられ、本気で焦った。
僕がクッション材でいたから、地面との顔面衝突は避けれたから良かったものの、脳震盪起こすところだったんだ。
抱き抱えて知ったのは、細いって事。

特別な感情移入をして仕舞った事に気付いたのは、きっと体育祭だ。
偶々、出る種目が同じになり、会話は零だったが大声で堂々と名前を呼べる場面に出会した。
男女混合、そしてスウェーデンリレーに個人種目として出た訳だが、どちらも貴女も出る事になっていた。
ついてるな、位にしか思っていなかったが、これが中々見物だった。
スウェーデンリレーの方は僕が貴女にバトンを渡したが、練習では全然走れないコという印象が、体育祭当日では一気に覆った。
僕の走順を途中から見極め、自ら他の生徒と場所を入れ換わり、助走を始めてくれたのだ。
バトンの持ち変えが瞬間の走りを邪魔するのを知ってか否か、初めから左手を斜め後ろに伸ばして、他の生徒が後方を窺いながら受け取る物を、貴女はそうしなかった。

前を向き、僕を見てはいなかった。


---頼む!***さんっ。


叫んだと同時に握らせた、渡したバトン。
しっかり握り締め、躊躇いなく走り出す。
運動部に所属する同学年の女子二人を最後の2メートルで抜き、2年の男子先輩にスムーズに渡す際には、見ていた同じクラスメイトも、2年3年のクラスも湧いた。
結果、6位発進だった僕達が2位着出来たのは、貴女のお陰だ。

パプニングは常に付き纏う。
その後のスウェーデンリレーは、女子の一人がアクシデントにより代走を出さねばならなくなった。
貴女は最初に200メートル走れば良いだけだったが、代走を入れなければならない2年の女子の代走に貴女が入り、余り走るのが得意ではない2年の女子が200メートルを走る事になったようだ。
本来ならば1年二人で200、400走り、2年二人で800、1000走り、男子に渡る筈の物。
空いたのは1000メートル。
因みに1000メートルの次が1500メートルで僕に渡る。
2年男子二人が走り、3年男女二人ずつ走りフィニッシュだ。

貴女が自ら代走を努めると言ったのにも驚いたが、長距離を走れるのかといった不安要素の方が大きかった。
だって、いっつも途中退場してるし、体力が無さそうだし。

でも、本気で滾った。

始まってみれば、ペース配分バッチリ、まさかの追い抜き、いつの間にか先頭走って来る。
僕も途中かららしくはないが、声を張り上げてた。


---大丈夫!
絶対抜ける!***さんっっ。


他の先輩達でさえ、各々応援する声を張り上げてた。
後、1メートル。


---三好さんっっ…!!


嘘だろ…って、なった。
クラスでも接点が無い、練習中でも目も合わない、会話も一切しない。
なぁ、それなのに、何でだろ。
僕の名前、知っているじゃないか。

繋いだバトンと1位で走るこの位置を譲らせるか、とドクドク打つ逸る心を抑えて、頭は走る事に集中するけれど。
心は穏やかとは程遠かった。
1周過ぎて、貴女を視線だけで見れば、頷いて唇が動いているのを捉えた。


---後、少しっ。
後少し、頑張って…!


あー…ホントに。
僕は、きっと、貴女が好きだ。


そう、気付かされた。
僕の名前を知っていた事と、不意のエール。
でも、無性に守りたくなったのは、この後で気付いて仕舞った事だった。



fin…xxx
2016/09/17:UP

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