02:百々の詰まり、青年の至り
「なー、田崎ー」
「何だ、甘利」
「昨日のセカムズ見たー?」
「未だ録画したままだ。見れてない」
「俺も見れてないんだよね。気になるよなー。あの恋愛模様」
1階、会議室の隅の窓際。
田崎と俺、甘利はブラインド越しから毎日の恒例、目の保養ウォッチャーをしている。
嗚呼、今日も今日とて、君は可愛いねぇ。
「うん、中々腕を上げてくれないな、彼女は」
「後ちょっとなのにねぇ。こう、もー少し!」
「きっと柔らかいんだろうな。いつもケアを怠ったりはしてない、磨きが掛かった、滑らかな素肌の筈だ」
今日は珍しくパンツスタイルなんだね。
いやいや、似合っているよ。
身体の線がくっきり浮かび上がり、細い足首とブレスレットを付けた手首が露で、それでなくても細いのに、更に華奢に見える。
護ってあげたくなるよ、本当に。
「オフホワイトか…清楚且つ純粋だが、何故だろうな。彼女を思い切り汚(ケガ)してやりたくなるな」
「汚(ケガ)れる前に、汚(ケガ)してやりたいねぇ」
朝からの煙草も何本目だろうか。
君のいたいけな身体(カラダ)のラインを眺めながら吸う煙草は最高だな。
ブラインドを人差し指で下げて、田崎の高性能な双眼鏡で君の身体を…。
「っ、あ゙ー!!ンな所にいやがった!」
「あれ、波多野〜。どしたの?何かすっごい汗だけど」
「俺達、出勤してからずっと此処にいたよな?甘利」
「うん。アレ、三好まで汗だく?髪、乱れてるけど平気?」
「っ…髪?!ハァ、ハァ…っ。ま、今は良いや。…今日に限って、何で、屋上に!いないんだよ、田崎…!」
「待て!波多野に三好っ。今その部屋は会……な…!田崎に甘利?まさか、第一会議室にいるとは?!
しかし、ん…?
ちょっと待て、俺が出勤して来た時には会議の為使用中のプレートがあったぞ?何で田崎と甘利が居るんだ」
勢い良く入って来ては指を指された俺と田崎なんだけれど、人様に指を差しちゃいけないって習わなかったのかなー、波多野は。
続いて入って来た三好も、常に鏡をチェックしてキモい程に髪のセット具合に命懸けてる(あれー、命ってそんな安かったっけ?)のに、全力疾走の後宜しく乱れまくりだ。
指摘すれば、パパっとしどろもどろに整えようとするが、汗で張り付いてるから如何仕様も無いと思う。
あれ、あんなにペッタリなるって事は…まさか、三好って薄毛?
「邪魔をされる訳にはいかないからな。丁度良いプレートだったから使わない手は無いかと思って」
「そうそう。此処からだったら、あの"レディ"の唇まで読めるからねぇ」
「お前達!職権乱用だぞ。上に何て報告すれば良いんだ…」
「佐久間さんまで巻き添えにしたのか?三好」
「田崎さんが屋上にいてくれれば、別に佐久間さんは要りませんでしたよ」
「お前達が一市民を護る為だと言ったんだろう?!何だ、その扱い!」
「まぁ、見付かったのでそれは如何でも良いです。田崎さん、オペラグラス持ってましたよね?波多野さんのよりずっと!もっと!凄く!高い!良い!高性能なヤツを」
「マジでお前、調子乗んなよな、三好」
「何々〜?何がお目当てなのよ、三好達は」
今にも胸ぐら掴みに掛かる波多野をあしらいながら、三好が田崎に早よ寄越せや、と言わんばかりに手を広げている。
佐久間さん、大丈夫かな。
頭抱えちゃってるね、可哀想に。
「アイツがさ、今日はパンツスタイルなんだよ」
「何だ、波多野達のお目当ても"あのレディ"なのか。珍しいよね、普段はスカートなのに。で?」
「で?じゃないですよ、甘利さん。由々しき事態なんですから」
「だよな。一大事だよな」
「え〜、一大事って何がよ」
あ、とうとう田崎から奪いやがった。
三好達のお目当てもキミらしく、波多野もブラインドを指でずらしながら、様子を窺っている。
キミ達さぁ、人と喋る時位、こっち向こうよ。
「解りますか?彼女は今日はオフホワイトのパンツスタイルなんですよ」
「あ〜ね!ハイハイ、成程!透けるかも知れないんだな、ランジェリーが」
「そうなんです、それなんですよ、甘利さん。流石ですね。全く、波多野さんも佐久間さんも気付かなくて、やれやれ、本当に…」
「普通は気付かなくて良い事だろ」
「確かに、透けちゃうかも知れないねぇ。パンティーの線がくっきり…。でも、残念だ」
「残念?甘利さん、何を言っ…
何…見えない、だと…?」
「はぁ?!三好、マジで?ちゃんと見たのかよ」
「見てますよ!しっかり目をかっ開いて!!
クソ…っ…楽しみにしてたのに…!」
「な!楽しみにしてただと?!三好、お前、一体如何(ドウ)いう事だ。お前等、あのコの貞操を護る為に田崎を捜していたんじゃないのか!?」
「はぁ?何を仰有るかと思えば…。佐久間さん、貴方、それでも男ですか。良いですか、僕等は健康な男なんです。健全な青年なんですよ?其処等(ソコラ)にいるような、ただの女性を普通の目線で見ているのは簡単だ。あんなの、のっぺらぼうのマネキンが服着て息してるだけか、若しくは裸かの違いだけです。そんな女性に何の興味も湧かない。
しかし、彼女は違う…。慕い、偲び、儚くも手に届きそうですり抜ける素晴らしい女性なんです。こんなに想っているのに…触れる事さえ未だ叶わない。
そんな彼女を前にして!健全なる青年である僕達が何も邪な目を向けずして彼女を見れるとでも?いいや、無理だ。あの純粋で無垢な殻を剥ぎ取った先を想像して何が悪い?こうやって思春期から成長し、青年になり、男女の営みの中で生まれるのが人間なんだ!愛の結晶なんですよ!?」
「いや、僕達って…。何か俺達まで一括りにされちゃってるんだよねー。止めて欲しいな、うん。そして、それ、想像じゃなくて妄想ね、三好」
「最もらしく語ってるけどさ、結構キモい事しか言って無いよな、三好」
「百々(ドド)の詰まり、見たいんだよ!良いだろ、別に!!好きな女の
パンティーの線位っっ…!っく…ひ…」
「………えと、…悪かった、三好…」
「…っ、く…佐久間さんが…だって!っひ…く…佐久間さんがっ…」
「いや、ほら、謝る。俺が悪かった。だから、な?泣くなって。強く言い過ぎた、な?もう、ホラ、分かった!お前があの店員さんの事が好き過ぎて、下着の線を見たいのは十分理解した。そうだよな、男だもんな、仕方無いよな!」
「っ、く…佐久間さ…」
「いやぁ…ダメでしょ。理解しちゃダメでしょ、佐久間さん」
「仕方無くねェよ。冷静になったら、色々間違ってるよ、やっぱ、コレ。オレ、まともになる」
何だろうね、この図。
とうとう泣き出して踞(ウズクマ)る三好を、必死に佐久間さんが宥める図を端(ハタ)に、俺と冷静を取り戻した波多野は一服するか、と煙草に火を着けたところで、陽気に下手くそな鼻歌歌いながら、誰かが入って来た。
ああ、神永か。
何かシャララ言ってるけど。
「ぇ、何で三好泣いてんの?何、この状況」
つづ…くのかな?
2016/07/07:UP
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