01:護るべきは純白に隠された
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「今日の通勤着は珍しくパンツスタイルですか」
「ちょ、三好ばっか狡ィ。つか、それオレの双眼鏡!」
「あぁ、これは失敬。波多野さんのでしたか。そうですね、僕だったら、もっと高性能なオペラグラスを選びますよ?」
「軽くて丈夫で折り畳めるし、此処から"アイツ"がハッキリ見える位の性能はあるんだから良いんだよ。つーか、人の物にケチつけんな」
「ハッキリ見える?何を仰有るかと思えば…。今日の彼女はパンツスタイルなんですよ。しかもオフホワイト。心配になるじゃないですか」
「はぁ?意味解んねェし」
「フッ…。これだから、未だに"彼女"と知り合えないんですよ。波多野は!」
「突然に呼び捨てかよ。好い加減、統一しろよ、三好。てか、オマエだって知り合えてないじゃんか」
「僕は会話をした事があります」
「客と店員としてだろ」
静岡の鑑定士が汗水流して五感を駆使し、厳選しブレンドされた茶葉を、これまた丁寧に福本が淹れてくれたお茶を啜りながら、俺、佐久間はD課の怠慢に満ちた職場に居座っている。
嗚呼、取り敢えずは平和そのものだ。
「"彼女"の方から声を掛けてくれたんですよ?態々!僕に!」
「アイツは優秀な店員だからだな!お客様一人一人に同じ接客してるよ。三好にだけじゃないね!」
先程から何やら言い争いをしている此奴等、三好と波多野は窓際、ブラインド越しに双眼鏡(三好が我が物顔で使っていたが、波多野のだったのか)を取り合いながらある人物に焦点を当てているようだ。
毎日繰り返される小競り合いだ。
俺もそろそろ慣れなければ。
良い歳した大人なのだから。
「彼女の何を知っている!?毎日、毎日通い詰め、彼女と目を合わせる僕は彼女の頭の片隅に居座っているからこそ、僕に話し掛けてくれたんだ。彼女の方からな!」
「妄想乙ー。つか、目を合わせるって注文する客とは店員は大概、誰でも目を合わせますー!」
「店に入る事さえ出来ない波多野に言われたくは無い!」
そう。
此奴等がアイツ、彼女、と表しているのは、この警視庁の斜め前に店舗を構える全国チェーンのどちらかと言えば、女性客をターゲットとしたカフェの女性店員、君の事だ。
俺も常連客なのだが、確かに君は魅力的な女性だと思う。
先日学んだから(散々な目に合った…)、此奴等の前では絶対に言わないがな。
「今日はズボンなのか、あの店員さん」
「そうなんですよ、佐久間さん。本当に心配ですよね、彼女」
「三好、お前は何が心配なんだ?さっきから。別にズボンだからって関係無いだろう」
「はぁ!?佐久間さん、貴方は何処に目を付けているんだ。
コホン!…良いですか?彼女は今日はパンツスタイルなんです」
「いや、だからさ、流石に佐久間さんだって知ってるって。さっきから言ってんじゃん」
「五月蝿い、波多野も聞け」
「………ウゼェ」
「彼女はパンツスタイル、しかもカラーはオフホワイトと来た。それが一体何を意味するか…。良いですか、白は…
透けるんですよ!!」
「「……は?」」
「透けるんです!透けると言う事は、彼女の柔らかな大事な箇所を覆う、頼りない面積の狭い布が!線が!くっきり浮かび上がっているかも知れないんですよ?!パンティーの線がっっ」
「…っ!?クソ、そういう事かよ…!」
「な、な…ぱ、パン……何て破廉恥な!?」
「ね?!心配になって来たでしょう?心底、心配になって来たでしょう?!佐久間さんだって!」
「そ、それは心配になるな!ぱ、パン…グハっ…!」
「佐久間さーん!?ちょ、馬鹿!三好っ。佐久間さんには刺激強過ぎるって。てか、そうか…確かに白は透けるよな。だったらアイツは今は…パンティーの線が透けてる状態なのかよ…マジかよ…」
「もう、僕は心配で心配で…!彼女の清らかな!恥じらいを持った美しい曲線美が、他の従業員の腐った男共の眼前に晒されてると思うと気が気じゃないんだ!」
「クソ…通勤途中にも朝から盛ったガキ共やリーマンなんかに耐えて来たのかよ、アイツ」
「ね、不憫極まりない!僕が護らずして誰が彼女の美しい双丘を護るのか?!だからこそ、高性能なオペラグラスが必要なんですよ!波多野さんっ」
「ああ、オレ達が護らなくちゃ、アイツが襲われ兼ねないな」
「なので、やはり、透けるか否かは確認しなければなりません。本当に透けているか否か。彼女のパンティーの線を…!
だから、高性能なオペラグラスを…!!」
「ああ、そうだな。高性能だったらアイツのパンティーが透けて見えるんだな!」
「そうですよ、波多野さん!誰か他の捜査官の人達は持ってないんですか?佐久間さん、鼻血位そろそろ止めて下さい。
床が汚れる」
「す、すまない。しかし、破廉恥な…」
俺は取り乱していた。
まさか、三好達が君のいたいけな貞操を必死で護ろうとしていただなんて、知る由も無かったのだ。
双眼鏡の取り合いなんて、何て幼稚なと思っていたが、俺のとんだ勘違いだった。
何て愚かだったのか…。
此奴等は、善良な市民の一人である、いたいけな君を必死に護ろうとしているだけじゃないか。
警察庁の闇?いいや、此奴等だって、立派な刑事の端くれだ。
勘違いも甚だしい…馬鹿だった、俺は。
「あ!田崎さん!!アレだったら絶対に良い双眼鏡持ってる筈だって。だって、彼奴、いっつも
眼の保養ウォッチャーしなければね
なんて、滅茶苦茶高そうな双眼鏡持って屋上いるし!」
「田崎さんが!?ちょ、今すぐ田崎さんから奪って来なければ!そうこうしている間にも、彼女の清らかな身体が汚されて仕舞う!
佐久間さんも田崎さんを捜して下さい!」
「わ、分かった!田崎だな!?」
「そうです!田崎さんです!!」
俺達は田崎を懸命に捜す事にした。
これは最早、正式な捜索活動に他ならない。
田崎を捜す事が、善良な市民を護る一歩となるのだ。
かくして、此処に新たなチームワークが結成された。
「「「彼女(アイツ)(君)のパンティーを護る為に……!!」」」
つづ…く?
2016/07/07:UP
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