成宮 鳴の場合
2年生…ver


侵食されては溺れて仕舞ったんだ。


アクシデントに見舞われた青道との練習試合が取り消され、帰宅する運びとなり、俺も先輩達や監督に急かされながら準備していた矢先。
乗り込むバスの手前、催して、俺はトイレを探していた。
雅さんがお目付け役で俺の保護者役を買って出ている所為で、トイレも一人で行けない情けない男みたいになっているのに、少ーしばかり腹が立つ。
大方、俺が道草食ったりしないようにだろう。

本当に失礼しちゃうよね!----------

トイレを済ませて、早く戻るぞと急かされつつも下らない話で談笑していた視線の先に、女の子がしゃがみ込んでいた。
別にそれ事態は気にならなず、段々近付き、素通りしそうになったが、しっかり目に入ると、素通りなんて出来ない。
コンクリートの壁に力無く寄り掛かり、バッグの中身が若干バラ撒かれ、片手で地面に手を付き、何とか倒れ込むのを耐えているように見えたのだ。

俺は完全にその姿を認識出来た途端、体が動いた。
駆け寄り、声を掛けては肩を確認するように掴んだ。


「ちょ、君!大丈夫!?」

「………っ…は…ぃ…」

「指まで真っ青じゃん!具合悪いの?」

「慣れて、ますから…。だい、…じょうぶです…」


歯切れ悪く俺の声に応答はするが、支えていた手も崩れ、俺は倒れ込む女の子、君の総崩れになる上半身に、脇に腕を差し込むと支えて阻止する。
俺の体に自らの体を一度預けたが、直ぐに肩を押して首を力無く振って来る。
乱れた髪で顔全体は窺えないが、呼吸も不規則に感じ、明らかに酷く体調不良を引き起こしている。


「ね、保健室行こ?雅さん、鞄の中身入れてやって!」

「ああ。俺が抱えたが早くないか?」

「良いよ!俺がか

「大丈夫…本当に、大丈夫ですから。ひとり…で、一時すれば治、る……から…」

はぁ?!でもめっちゃ顔も真っ青じゃん!」

「…誰かに…迷惑掛けたく、ない…もう、掛けたく………ないの…」


俺が抱えるから。
君は抱えようとした俺の胸をゆっくり押して、申し出を断り、じゃあ誰かを呼ぼうとすれば、それも拒否を示す。
息苦しそうにするが、壁を借りて立ち上がり、俺に…微笑み掛けて来た。

誰にも言わないで?
お願い…します。----------

小さく囁くようにそう懇願し、唇に人差し指を宛がい、内緒ね…と、口許だけ綺麗に微笑んだ。
何だかむしゃくしゃするが、頑なにそこまで言われると、何だか手出し出来ず、雅さんが拾い集めてくれた鞄を受け取り、丁寧に頭を下げ、壁伝いに歩き出す。

あんなに言うのだから大丈夫なんだろうと雅さんは俺に帰るぞと促す為に、渋々背中を向けた。
スッキリしない感覚に後ろ髪を引かれ、それでも他のチームメイトが待っているとバスを急ぐ。

でもさ…。

それでも、やっぱり気に掛かり、俺は踵を返した。
振り返った瞬間、次には体が動いた。
君がスローモーションで地面に倒れ込んだからだ。


「おい、鳴!」


雅さんが俺を呼ぶけれど、そんな声より君が先だ。
駆け寄り、倒れ込んだ君に声を荒げて仕舞う。


「ちょ、大丈夫!?」

「…ヘ、…いき…」

「平気な訳ないじゃん!

あーもうっ!保健室、連れてくかんね?女の子倒れてんのに放っとける訳ないじゃん!」


女の子が倒れてんのに、放っとける男じゃないし!
オイラはっ。

問答無用で君の膝に腕を差し込み、背中にもう片方の腕を回して抱え込む。
女の子一人位、全然余裕。
何か言ってるけれど、それは無視して意識が未だあるのが幸いで保健室まで道案内して貰う。
辿り着いた保健室自体は鍵が解放されていて、手間が省け、鞄を持って来てくれた雅さんがベッドに積み上がった枕を頭もとに置いてくれる。

そっと横たわらせると、気持ちが悪いのか口許を覆う。
用意周到な雅さんが君の顔横にティッシュを数枚敷き詰めた洗面器を差し出し、背ける君の背中を擦ろうとした。
でも、それは俺がしたくて、割って入り、薄い背中をゆっくり擦る。
戻したいなら、戻した方がラクだと思う。
でも、戻せないらしく、呼吸は更に乱れている。
保健医を呼ぼうか迷うが、いつもの事だからとそれも拒否された。

君ってちょっと強情なコなのかな。

俺はベッド脇に添えてあった丸椅子に座り込み、君の容態を窺っていた。


「雅さん、先に帰ってて良いよ。俺、このコが落ち着くまで見てるから」

「お前一人にすると監督にどやされるだろう。事情話して、先に帰って貰うさ。その人が落ち着いたら一緒に帰るぞ」

「ん。何か上手く説明しといてよ」


やり取りしながら雅さんがカーテンを締め切る。
君は何度も何度も謝るので、俺は別に平気だし、と毛布をかけ直す。
が、何やらもぞもぞ動くので俺は君の手の場所を探った。
多分、締め付けが苦しいのだろう。


「ちょっと触るよ」


シャツに手を差し込み、手探り。
これか、と見付ければ何とか片手で外すそれ。
ブラのフォック。

緊急事態だからね!
別にヤラシイ気持ちでやった訳じゃないからね!

と言い訳がましく心で行為を肯定しては、シャツの釦も第三釦まで外してやった。
君は目を頑なに閉じ、漸く呼吸が穏やかになりつつあるようだ。
ホッと胸を撫で下ろし、俺は改めてまじまじと君を眺める。


「………きれーじゃん…」


可愛いとも思う。
でも、綺麗寄りの可愛さ。
自分が鍛えてるのもあるけれど、俺が簡単に抱えられる位の体格で、綺麗で可愛くて、病弱とか…どれだけオプション付きなんだよと疑う。
正直を言えば、不謹慎にもドキドキしている。
だって、先程ブラのフォックを外し、釦も外しているのだから、この目に映る胸元はブラが浮いた状態であって、ちょっとでもずれれば…。

色々見えちゃうじゃん?

そう邪な考えが浮かぶが、君の苦しそうな表情を目の当たりにすると、それも直ぐに揉み消された。
段々と軽やかな寝息が聞こえ、一安心。
吸い寄せられるように、じっと見詰めていれば、ゆるゆると指先が動く。
声を掛けようか迷っていると、ツゥ…っと、閉じられた目蓋から流れる水。


な、いで…。
独りに、しないで…----------


心臓をギリギリと締め付けられた感覚に見舞われた。
譫言(ウワゴト)のように呟く君は、泣きながら、掴まる誰かを求めているように見えたのだ。
俺は咄嗟に君の右手を握り、言ってあげる。


「大丈夫。俺がいるよ」


手、めっちゃ冷たい。
少しばかり額は汗ばむ癖に、手は真冬の温度の様に冷たい。
柔らかく、細く、小さく弱々しい。
握って、立ち上がれば、何故したくなったのか分からないが、吸い寄せられる。

ちゅ…っ。

まるで、眠りの森の美女じゃん、コレ。
眠る君にキスしたとか、知らない女の子なのにキスしたとか、具合が悪い抵抗出来ないコにキスしたとか…。
兎に角、キスしたなんて、有り得ない、俺。
頭の中で如何仕様!?とパニくってるけれど、君が俺の手を握り返して来たので、このキスも肯定しちゃう。

だって、キスしたくなったんだもん。
君が悪いんだかんね、俺を誘惑すんだもん。
これは不可抗力だ!

…これこそ言い訳がましいが、もう一度、しっかりキスしてみる。
柔らかい、弾力が優しい唇だった。





……
………-----------




何だか気持ち良い。
一定の速度で、何かが頭に触れている。
優しく、滑らかに、何度も。
ふわふわした微睡みに、俺はゆっくり目蓋を開けた。
君の静かな寝息につられ、どうやら俺自身も眠って仕舞ったようだ。
未だ眠りたいけれど、うっすらした意識の中で、頭を上げれば、上半身を起こした状態の君とバッチリ目が合う。
見開かれた瞳は真ん丸で、俺はクワァッと大きく欠伸をし、背伸びをして体を解す。


「ぁ……の…」

「起きた?具合は?顔色は大分良いね。真っ青の時よりマシになってんじゃん。大丈夫そ?」

「…はい。すみません、私…」

「本当だよね!目の前で倒れながら大丈夫とか嘘吐いてさ。挙げ句、俺に放っとけとか君、言ったんだよ!?放っとける男に見えんのかよって感じだし。そんな男じゃないし!俺っ」


ちょっと思い出したらムカついたので、八つ当たり。
君は取り次ぎ早に捲し立てられ、挙動不審になり、狼狽えてもいるようだ。
腕を組み、捲し立てていると雅さんから殴られた。

俺、エース様なのに!
試合に響いたら如何してくれるのさっ。

雅さんが君に強面のまま微笑んでるので気持ち悪かったけれど、君は申し訳なさそうに深々と頭を下げている。

抱えて連れて来たのは俺じゃん!

大丈夫そうだから帰るぞと首根っこを掴まれたが、ちょっと待って、とそれを振り切る。
テーブルから勝手に油性ペンを拝借し、キュポンっと勢い良く蓋を取った。
君の、俺が握り締めた右手を掴み、掌に番号と名前を書き殴ってやったのだ。


「お礼!君が俺にしに来てくれても良いよ!」


だから連絡しなよね-----------

目一杯の笑顔を向け、手を振ってみせる。
慌ててベッドから降りる君は深々と頭を下げて、連絡します、と早口に言ってくれた。
保健室から出て行く一瞬、腕だけ付き出して親指立てる。
叫んでやる。


「絶対、ぜーったいに連絡しろよなっ!」



fin…xxx

お嬢様のお時間を割いて頂き有難う御座いました。
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中々更新が定まらないサイトですが、
宜しければまた、ふとした時にでもいらしてください。





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