愛する日々へ
ボンゴレ本部の地下、封鎖された最下層。ザンザスを鎖した氷を前に、『彼女』は時を待つ。永く愛用してきた懐中時計が、膝の上でカチカチと音を立てる。これが止まる時、氷柱に閉じ込めた災禍を解き放つ。
『彼女』は瓦礫に身を預け、目を閉じた。来たる未来を憂い、心の安寧を過去に求めて。

幸せだった昔を思い出し、心だけを当時へ送る。褪せないように、些細なことも忘れないように、幾度も繰り返した記憶。もう二度と戻ることのない、輝かしい日々を夢見て。


列強に支配され続けたイタリアで、独立を目指した民が蜂起した時代。南イタリアには、自由を求めた自警団と、彼らを率いた三人の兄妹がいた。長兄は指輪を――後にボンゴレリングと呼ばれる指輪の所持者となった。次兄は長兄の跡を継ぎ、巨大な犯罪組織を築いた。
二人の残した軌跡は、その偉業ゆえに伝説として後世に伝わっている。しかし、二人を支え続けた内助の功、末の妹が居た事を知る者は居ない。彼女の歴史はある者の手によって、あらゆるモノから抹消された。爵位や領地が、彼女から二代目へと受け継がれた事実さえもみ消された。

しかし彼女は、確かに存在した。いつの時代にも、存在していた。ボンゴレリングの『箱』として。そして、初代に最も愛された、ただ一人の人間として。
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