それはコレクションの一つ

――遡ること、数時間前。


センゴク達は、ロズワード聖が所有する自家用船に追い付いた。
聞くところによると、彼らは、島々で白ひげ海賊団に関する情報に対し高額報酬を支払っていたらしい。

お陰でデマが横行し、センゴク達は本当の情報を掴むのに苦労した。


「ロズワード聖、少し話があるのですが」
「元帥かえ」
「"寵姫"ステラの事なのですが、彼女が自らの意志で逃げ出した事は、認めていますな?」

苦虫を噛み潰したような顔をし、ロズワード聖は微かに頷いた。


「そうだえ」
「それでも彼女をお求めになる訳を、お話願いたい。バスターコール以上の戦力をもって警護していますが、相手は白ひげ。安全は保証しかねますな」


センゴクの言葉に、ロズワード聖達は溜息をついた。
沈黙の後に、シャルロア宮が、口を開いた。

「……ステラは、美しいアマス」
「美しい、ですか」
「美しいから、コレクションに欲しいアマス」


ステラがMr.ディスコの店の舞台に現れた時、ロズワード聖達はその微笑みに見惚れた。

何者の色にも染まっていない、無垢な眼差し。細く、可憐で儚げな立ち姿に、それまでの奴隷とは一線を画く美貌。
会場を震わせた美しげな歌声に、清廉な舞。勝手な振る舞いでありながら、売り手スタッフすら言葉を忘れた程の魅力。

それでいて、ステラの微笑みに艶やかさはなく、慈しむような優しさが満ちていたのだ。
その美しさが、天竜人の心を惹きつけた。


「逃げるなら剥製にするアマス。氷付けで、部屋に飾っておくのもいいアマス」


ロズワード聖達は、ステラを手放したくない。
絶世の美貌、垣間見る高いプライド。
それを、踏みにじるのが、たまらなく楽しかった。

同郷の子供だという側仕えを使い迫れば、ステラは屈した。
垂れた頭が、どれだけ屈辱に震えたろうと思うと、堪らなく満ち足りた気分だった。

あれほど嗜虐心を煽る女はいない。


「白ひげにやる気は、さらさらないえ〜。ステラは、わちしの妻だえ」
「…………ですが、ステラが大人しく帰るとは思えませんな。聞いた話では、ステラは同郷の子供を守る為に、チャルロス聖の妻になったとか……その子供がいなければ、ステラは自殺しかねません」

「……しかし、…」

「ロズワード聖。ステラを確実に手中におき、尚且つステラが自殺出来ないようにする方法がありますが」
「何?!」


天竜人達の目が、希望を見出だして輝く。
センゴクは、仏のような微笑みを浮かべ、言葉を続けた。


「ステラは、ずいぶんとお優しい人柄のようだから使える手です。この条件を認めてくださるなら、良い一手になりましょう」

「条件とは、何アマス?!」

「なぁに、簡単です。ステラが貴方達の元に帰って来るならば――――」




天竜人が条件を快諾した後、センゴク達は白ひげ海賊団に追い付いた。
モビー・ディック号の甲板には隊長を筆頭に、隊員がぞろぞろ現れている。

また、モビー・ディック号の傍らには、魚を模した船があった。タイヨウの海賊団―――魚人海賊団だ。


「フィッシャー・タイガーも仕留められるとは、実に良い日だねぇ、サカズキ〜」
「全く、次から次から……白ひげ海賊団は天竜人絡みの問題が多い」


黄猿と赤犬は、甲板の船首に立つセンゴクの側にいる。ガープ、つる中将もまた、その側にいた。


「センゴク、あんた本当にその"条件"を使うつもりかい。仏が聞いて呆れるね」

「そう言ってくれるな、おつるさん。一般人ならいざしらず、海賊に慈愛は持ち合わせんよ」

「ステラにもかい」
「元は九蛇、今は白ひげ海賊団だろう」
「………あたしゃ、あんまり賛成じゃないんだがね」


つるは、刀を片手に、やはり暗い心持ちで、ステラがいるであろうモビー・ディック号を見つめた。


「センゴク。わたしゃ、ステラとは会ったことがあるが、……本当に優しい子だったよ」


センゴクが口にし、天竜人が快諾した条件は、どれほどステラの心を刔るだろうか。優しい心を痛め、涙するだろう。




つるがマリージョアに行ったとき、仮面を被った、オレンジ色の髪をした子供が、つるに願い請うたのだ。

ステラを助けて、と。

その時、その子供は、大怪我をした手長族の奴隷に薬や食事を運んでいた。

それは、ステラの為に用意された食事と、ステラが万一怪我をした時の為にと用意されていた薬だった。


役に立たない奴隷に、薬や食事なんか出される筈がないとは知っている。
それらは、ステラがひそかに分けてやっているのだ。

『じゃあ、そのステラという人は、食事はどうしてるんだい』

つるが問い掛けると、その子供は答えた。
もう三日、水だけしか口にしてない。だから、どうにかして欲しい、と。

つるが会いに行ったとき、ステラは、細くて儚げな美貌で、書物を嗜んでいた。
青白い顔は不健康で、だが、美貌は損なわれていない。

つるがこっそりと差し入れたキャラメルを、まず自分の側仕え達に分け与え、それから一つだけ口にし、残りは全部、外の奴隷に分け与えるよう側仕えに指示した。

誰よりも空腹だったろうに、滅多にないお菓子だからと、皆で分ける。
そして、自分が物を食べられたことより、三人の側仕えにキャラメルを分け与えられた事を、ステラは喜んていた。

そんな優しさが、つるには驚かれてならなかった。


「……美しさに惹かれた、ね。魅力の見所が間違ってやしないかい」
「おー……おつるさんは、ステラに会った事があるんだねぇー……」

「あるにはあるけどねぇ、……優しい子だったよ」


(その微笑みの裏に、辛い思いを抱えていたと)(知っていた筈なのに)(何もしてやれず)(酷過ぎる、搦手)
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