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5現の体育の前の昼休みに、朋ちゃんが購買のアイスを食べようと言ったから、私は顔をしかめた。桜乃も朋ちゃんに同意するので、ジャージに着替えた後私は渋々その後ろについて行った。
廊下の硝子窓から差し込む昼間の日差しは眩しくて、なんだかクラクラした。


「…あれ、食べないの?」
「うん、いいや。ダイエット中だし」
「え、ダイエットしてるの?」
「別に太ってないじゃない」
「朋ちゃんには言われたくないなあ」
「あんた十分細いわよ!」


私がぶんぶん首を振ると、二人は手に持ったアイスクリームをこちらへと突き出した。がやがやと騒がしい渡り廊下で、はい、と両サイドから差し出されたアイスクリームは、バニラとチョコの味。
うっと息詰まって、それからそれぞれ一舐めずつ、計二舐めしたところで私は「ごちそうさま」と、笑顔を作った。だって三口目からは豚になるって、何処かで聞いたから。


「次体育なんだから、そんなんじゃ力出ないわよ?」
「大丈夫だよ、大袈裟。」
「でも無理しないでね?」
「ありがとう、桜乃」
「ああ、こんなに美味しいもの食べないなんて!」
「だって、10グラムずつでも落としていけば、スーパーモデルも夢じゃないでしょ?」
「それこそ大袈裟よ!」


けらけらと朋ちゃんが笑うから、本気なのにと小さく呟いて、ツインテールと三つ編みの背中を追った。
高く結い上げたポニーテールが、背中で揺れたのが わかった。

体育の授業が始まって体育館に集合すると、男女に別れてバスケットボールの試合をすることになった。私と朋ちゃんと桜乃は後半の試合に出ることになったから、バルコニーから見学していることにした。

「リョーマ様!」

一際大きな声で朋ちゃんが叫ぶと、越前くんがちらりとこちらを向いて、また直ぐにコートへと帰っていく。
――今、目が合った気がする。
そんなことを考えていると、朋ちゃんが「桜乃、今リョーマ様こっち向いた!」なんて騒ぎ立てるから、成る程勘違いだったのかと、苦笑いを零した。

越前リョーマを好きになったのは、何時だかもうわからない。気付いたら、目が追っていた。隣の席になるとたまに話せるようになって嬉しくて、だからどのタイミングで私が彼を「好き」になったかは明言出来ない。
ただ、彼がポニーテールが好きだなんて噂を聞いて、ショートカットにするのを辞めたのも、ダイエットを始めたのも、もう随分と前だと思う。


「朋ちゃん、そろそろ私たちの番じゃない?」
「えー、まだリョーマ様の試合終わってないのに」
「仕方ないよ、行こう?二人とも」


手摺りに捕まってよいしょと腰を上げると、急に立ち上がったせいか身体の中から血の気がさっと引いていくのがわかった。恐らくは貧血だろう。原因はわかっている、食べていないからだ。
それでもなんとか手摺りを握る手に力を込めて、階段を下りた。

「  !」

私の名前を呼んだのは、彼の声だった。
ポニーテールを揺らして、振り向く練習の成果を発揮しようと手摺りから手を離すと、私は膝から崩れ落ちて、そのまま目の前が真っ白になった。


















「……ん、 越前?」


眼を開くと大きな三白眼がこちらを覗いていた。驚いて寝かされた体制から起き上がろうとすると、またふっと力が抜けてベッドへと崩れ落ちた。
視界が白いのは、保健室の天井が真っ白だからか、私の視界自体が白んでいるからか。恐らく、両方だ。


「…急に起き上がるからじゃないの」「そうかも」
「貧血だって」
「知ってる。6限始まってるよね、ごめん」


静まり返るこの空間には、彼と私しかいないらしかった。
行こっか、と今度はゆっくり身体を起き上がらせて、へらりと笑うと額に痛みが走る。
手を引っ込める越前が大きく溜息を吐いたから、少しだけ身体が震えた。


「ごめんって。でもデコピンは痛いよ」
「別にそれ以上痩せる必要なんかないんじゃないの」
「……朋ちゃんに聞いたのね」
「行くよ、もう6限終わる」
「あ、待ってよ!」


起き上がって上履きを履く。
緩く解けたシュシュを外して、手櫛で髪を梳く。シュシュを腕に通したところで、保健室の扉の前の彼が振り返った。


「直さないの」
「え?」
「それ」
「ああ、髪の毛?」


彼が指差した腕のシュシュを掲げる。
立ち止まって、髪の毛をぐいと持ち上げると、高い位置に結い上げた。シュシュを何重かに括って、ポニーテールの左右を引っ張って、解けないように、しっかりと。


「それ、」
「うん?」
「似合ってるんじゃないの」
「え、」
「ほら行くよ」


差し出された手は私だけに向けられている。
教室へ戻ったら、朋ちゃんと桜乃には、心配をかけたお詫びをして、彼へ対する想いを知らせて、それから手を繋いだことの自慢をしよう。そうしたらきっとライバルだねって笑って、女の子だけの内緒話が花開く。

無理することだって、女の子には必要なんだって思う。
彼が好きだっていうこの髪型が似合うまで、ちゃんと 女の子でいたいから。




(110119:girls' talk)


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